2015年劇団☆新感線35周年 オールスターチャンピオンまつり 「五右衛門vs轟天」
作:中島かずき
潤色・演出:いのうえひでのり
作詞:森 雪之丞 いのうえひでのり
音楽:岡崎 司
振付:川崎悦子
出演:
古田新太 橋本じゅん 松雪泰子 池田成志 賀来賢人 高田聖子 粟根まこと 右近健一 河野まさと 逆木圭一郎 村木よし子 インディ高橋 山本カナコ 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ 保坂エマ 村木 仁 川原正嗣 冠 徹弥 教祖イコマノリユキ 武田浩二 藤家 剛 加藤 学 川島弘之 安田桃太郎 伊藤教人 南 誉士広 熊倉 功 上田亜希子 嶌村緒里江 谷 須美子 吉野有美
あえて役名は書きません。新感線観てる人にはそれだけでネタバレになるから。
というぐらい、新感線観てる人にとってはくすぐられまくりの作品。でももちろん知らなくても十分楽しい。
で、知らない人のためにちょっと解説。今回の「五右衛門vs轟天」は、97年、99年、2001年と3作上演された「直撃!ドラゴンロック」シリーズの主役である「剣 轟天(つるぎ ごうてん)」と、2008年、2010年、2012年と3作上演された「五右衛門ロック」シリーズの主役である石川五右衛門の2人を同じ舞台に登場させたスペシャルな新作だ。
劇団☆新感線のメインストリームは「いのうえ歌舞伎」と称される、主に時代劇をベースとした笑あり涙あり殺陣ありロマンありドラマありのゴージャスな舞台だ。近年はテレビや映画でもおなじみのスター俳優も客演し、そのゴージャスっぷりに磨きがかかっている。一方、最近は4~5年おきにしか制作されない、ただ馬鹿馬鹿しいだけの「ネタもの」と言われる作品群がある。いい歳をした大人たちが全力で馬鹿な笑いを追求するため人気が高い。さらに、楽曲を前面に出したロックミュージカルの色彩が強い「新感線☆RX」など公演名に「R」が付く作品群がある。
ちなみに「ドラゴンロック」は「ネタもの」で、「五右衛門」は「R」の系譜に入る。その2つが入り混じっているのはスタッフ陣にも現れており、通常「ネタもの」はいのうえひでのりが脚本・演出の両方を手掛けていることが多いのだが、今回は「いのうえ歌舞伎」のほとんどを書き下ろしている中島かずきが脚本を書いている。
こうしたことからも、今回の作品が35周年記念の集大成的な作品であることがよく分かる。ただ全体を包み込むテイストはあくまで「ネタもの」。それは作品名の前に「チャンピオンまつり」と付ることで示している。これがついていればネタもの。語源は東映まんがまつりに対抗して東宝がはじめた「東宝チャンピオンまつり」だ。
待ちに待ったネタもの作品。もうそれだけで自分としては嬉しいわけだが、そこに轟天と五右衛門が共演ときた。というわけで本論に入る前にもう少しこの2つのシリーズについて語らせてください。
「わたしと轟天」
自分が新感線を観始めたのは94年の「星の忍者」。確か、そこで主演した橋本じゅんが海外に留学し、戻って来て作られたのがこの「ドラゴンロック」である。いったい海外に何をしにいったんだ、というぐらいの馬鹿馬鹿しさ満載の作品だったが、実は自分は劇場で観ていない。まだ新感線を観始めたばかりで、ちょっと甘く考えており、当日券出るかな、と思って直接シアターアプルに行ったら1枚もなくて観られなかったのだ。ポスターのビジュアル、そして「直撃!!ドラゴンロック」というタイトルを見ただけでわかる、千葉真一の空手映画のパロディー。そして轟天という名前。言うまでもなく「海底軍艦」の轟天号から来ている。いや、惑星大戦争の轟天号かな。まあ一緒。特撮で育ち、いい歳になっても特撮から離れようとしなかった世代には堪らないネーミングだ。惜しいことをしたな、と思っていたところ公演が終わってしばらくしてNHKが深夜に放送してくれた。NHKは以前、深夜などによく舞台の映像を流していた。
2作目の「九龍城のマムシ」はきっちり前売りを購入してサンシャイン劇場で鑑賞。これは本当に面白かった。馬鹿馬鹿しさにプラスして様々な映画や特撮、そしてミュージカルまで、これでもかというほどのパロディーの嵐。個人的には新感線のベストプレイに推したいほどだ。3作目の「轟天VSエイリアン」は、ちょうど仕事でへばっていた時期で行けなかった。
後日、この3作は「轟天BOX」としてDVDが発売された。大事にしていたのだが、どこかへ行ってしまった。
「わたしと五右衛門」
一作目は新宿コマ劇場での上演。コマ劇場という場を使い切ってやるぜ、というかなり肩に力の入った作品で、しかも北大路欣也に松雪泰子に江口洋介、とゲストも豪華そのもの。あまりに力が入り過ぎて、自分としてはノリきれずに終わった。
二作目は天海祐希をゲストに迎え、フランスに渡った五右衛門が大立ち回り。今度は力が入りつつも、ところどころ力の抜けた、新感線らしいいい舞台になった。神田さやかも出演し、歌のうまいところを見せていた。
三作目はつい先日の2012年。実は観ていない。
・・・とまあ、轟天にも五右衛門にもそれなりに思い出はあるのだが、ぱっと見てお分かりのように、自分は断然轟天への思いが強い。だから五右衛門vs轟天と聞いて、ベースが五右衛門だったらちょっとイヤだなあ、と不安だった。
が、ここから本題に入ると、幕が上がってすぐ、それは杞憂だと分かった。突然登場した悪の秘密結社の幹部たち。それらは完全に「ドラゴンロック」の世界、ネタものの住人だ。
五右衛門が出てくると、少し空気感が変わるものの、そこは古田だからしっかり舞台をつくる。あくまでネタものの枠組みの中で、五右衛門のキャラクター、世界観をにじませていた。
松雪泰子は五右衛門ロックの第1作目と同じ峰不二子のような女泥棒「お竜」役で登場。あまりネタに流されることはなく、さすがに大女優に馬鹿なこともさせられないのかなあと思ったらとんでもない、クライマックスのあの姿はもう最高でした。アレ見るだけでもこの舞台には価値がある。
轟天に五右衛門、そしてお竜以外にも、かつての作品に登場したキャラクターが次々と出てくる。両シリーズだけではない、「踊れ!いんど屋敷」や「レッツゴー!忍法帳」など他のネタものからも懐かしいキャラクターが登場だ。コアな新感線ファンはキャスト表を観ないで舞台に臨んだほうがいろいろ発見やオドロキがあって楽しいのではないか。
そうそう、ネタもののときは、懐かしの特撮やアニメだけではなく、メジャーなミュージカルのパロディーもよく出てくる。「オペラ座の怪人」や「ライオンキング」など。そして今回は、あっと驚く作品のパロディーが。これは日本で上演していないので、かなり通なネタだ。わかった人も少なかったと思う。
その「オペラ座の怪人」パロディーでクリスティーヌを演じたこともある中谷さとみが、今回も娘役で登場。今回、本編内でもいじられていたように結構な歳ではあるが、入団以来ずっと少女役だ。新感線内の時間はウラシマ効果で止まったままなのだ。
個人的には、2007年の「犬顔家の一族の陰謀~金田真一耕助之介の事件です。ノート」以来の傑作だと思った。そして99年の「直撃!ドラゴンロック2」に匹敵する、新感線ベストプレイと言っていい。あくまで個人的にだけど。別にいのうえ歌舞伎が嫌いなわけじゃないが、やっぱりネタものは新感線の真骨頂だ。
もっとも、今回はネタものでありながら、中島かずきの脚本によっていのうえ歌舞伎のテイストも存分に織り込まれている。後半の、裏切りが裏切りを呼ぶスピーディーな展開はまさに中島の得意技。もう観ててぞくぞくするぜいたくさだ。
前置きが長いわりに、本論に入るとネタバレになりそうなのであまり書けないのが歯がゆいところだが、とにかくこれは新感線をずっと観てきた人なら何を置いても観に行くべき作品。カッコいい新感線が好きな人にはお勧めしないけど。いやあ楽しかった。
「五右衛門VS轟天」公式サイト
http://www.vi-shinkansen.co.jp/UserEvent/Detail/110
| 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)
最近のコメント