四季「ジーザス・クライスト=スーパースター」 昔のイスラエルじゃSNSもないしさ
ジーザス・クライスト | 神永東吾 |
イスカリオテのユダ | 芝 清道 |
マグダラのマリア | 山本紗衣 |
カヤパ | 高井 治 |
アンナス | 吉賀陶馬ワイス |
司祭1 | 佐藤圭一 |
司祭2 | 賀山祐介 |
司祭3 | 高舛裕一 |
シモン | 本城裕二 |
ペテロ | 五十嵐 春 |
ピラト | 山田充人 |
ヘロデ王 | 阿部よしつぐ |
大阪四季劇場でキャッツを観たあと、京都でオペラ座の怪人を観てA.L. ウェバーまつりにしようかと思っていたが、ジーザス・クライスト=スーパースター(エルサレム版)のツアー公演がちょうどオリックス劇場で開幕していると分かり計画変更。
前にジーザス観たのは2012年だが、その時も神永ジーザスと芝ユダだった。神永ジーザスはまだ登場したばかりで、雰囲気はいいが歌は他の役者に比べると発展途上かな、と感じたが、久しぶりに観た彼のジーザスは、演技もさることながら圧倒的な歌唱力を見せつけていた。ゲッセマネのロングトーンは、国内で自分が観た中では最も伸びていたんじゃないか。かつてロンドンで観たとき、このシーンで仰天したのだが、まったく負けていなかった。
一方、芝ユダはちょっとパワーダウンしていた。一時的なものであればいいが、年齢的に声があまり出なくなってきたのだろうか?もしそうだとしても、彼の魅力は声だけではない。あの独特の存在感を生かして、多くの役で活躍してほしい。もっともこの日もカーテンコールではクネクネとふしぎなおどりを見せていたので、少し安心した。
高井カヤパはさすがの安定感で、見ていて嬉しくなる。低音が響かないカヤパなんてちっとも怖くないからね。
出色の出来だったのが阿部よしつぐのヘロデ。以前、他の作品で見ているかもしれないが、少なくとも劇団四季で彼を見るのは初めてだと思う。ヘロデのシーンはこの作品の最大のアクセントであり、演出の腕の見せ所であり、リピーターにとっては一番の楽しみでもある。出てきた瞬間に客席から感嘆や笑い声や出るヘロデは、いいヘロデ。この演出では、さほどヘンでもないのに、この日は客席から笑いが聞こえた。これはいいヘロデです。
ヘロデの場面もそうだけど、やっぱりこの「エルサレム版」より「ジャポネスク版」のほうがいい。もともと四季はジャポネスク版で初演し、あまりにもアバンギャルドすぎてさんざん酷評され、それで少しおとなしくしてエルサレム版で再演して高い評価を受けた。
でも、やはりジーザスという作品は、A.L. ウェバーがまだギラギラした青年だったころに生み出した作品なわけで、その魅力は全編にわたって感じられる中二病的な情熱だ。それを正面から受け止めて、そのままはじき返した若き日の浅利慶太のギラギラ感がジャポネスク版からは伝わってくる。
それだけ、この作品は懐が深いと言えるだろう。若者たちの「劇中劇」として見せる1973年の映画も良かったが、2013年のアリーナツアーの演出もなかなかだった。「RENT」を思わせる極めて現代的な演出は、少し表現が直接的過ぎたかもしれないが、そういう中二病感がこの作品にはふさわしい。アリーナツアーはアマゾンのプライムビデオで有料だったり無料だったりするが、有料でも200円ぐらいでレンタルできるのでぜひ一度観ることをお勧めしたい。
今回のキャストでは、アンサンブルにも光川愛や林香純といったメインキャストの実力を持った俳優が並んでいる。だからというわけでもないだろうが、民衆の存在感を、いつも以上に感じた。
もともとこの作品では、民衆が大きなウェイトを占めていて、その熱狂と失望が、ジーザスやユダの苦悩をより大きくし、その運命を悲劇へと向かわせる。ピラトもカヤパも、最も恐れているのはジーザスではなく民衆だ。最近の、毎日のように起きるSNSでの炎上騒ぎにへきえきしていたために、この公演では民衆の姿が心に刺さったのかもしれない。まったく、2000年前から進歩していないのか人間は。
劇団四季 ジーザス・クライスト=スーパースターのウェブサイト
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