2018年2月24日 (土)

四季「ジーザス・クライスト=スーパースター」 昔のイスラエルじゃSNSもないしさ

ジーザス・クライスト 神永東吾
イスカリオテのユダ 芝 清道
マグダラのマリア 山本紗衣
カヤパ 高井 治
アンナス 吉賀陶馬ワイス
司祭1 佐藤圭一
司祭2 賀山祐介
司祭3 高舛裕一
シモン 本城裕二
ペテロ 五十嵐 春
ピラト 山田充人
ヘロデ王 阿部よしつぐ

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大阪四季劇場でキャッツを観たあと、京都でオペラ座の怪人を観てA.L. ウェバーまつりにしようかと思っていたが、ジーザス・クライスト=スーパースター(エルサレム版)のツアー公演がちょうどオリックス劇場で開幕していると分かり計画変更。

前にジーザス観たのは2012年だが、その時も神永ジーザスと芝ユダだった。神永ジーザスはまだ登場したばかりで、雰囲気はいいが歌は他の役者に比べると発展途上かな、と感じたが、久しぶりに観た彼のジーザスは、演技もさることながら圧倒的な歌唱力を見せつけていた。ゲッセマネのロングトーンは、国内で自分が観た中では最も伸びていたんじゃないか。かつてロンドンで観たとき、このシーンで仰天したのだが、まったく負けていなかった。

一方、芝ユダはちょっとパワーダウンしていた。一時的なものであればいいが、年齢的に声があまり出なくなってきたのだろうか?もしそうだとしても、彼の魅力は声だけではない。あの独特の存在感を生かして、多くの役で活躍してほしい。もっともこの日もカーテンコールではクネクネとふしぎなおどりを見せていたので、少し安心した。

高井カヤパはさすがの安定感で、見ていて嬉しくなる。低音が響かないカヤパなんてちっとも怖くないからね。

出色の出来だったのが阿部よしつぐのヘロデ。以前、他の作品で見ているかもしれないが、少なくとも劇団四季で彼を見るのは初めてだと思う。ヘロデのシーンはこの作品の最大のアクセントであり、演出の腕の見せ所であり、リピーターにとっては一番の楽しみでもある。出てきた瞬間に客席から感嘆や笑い声や出るヘロデは、いいヘロデ。この演出では、さほどヘンでもないのに、この日は客席から笑いが聞こえた。これはいいヘロデです。

ヘロデの場面もそうだけど、やっぱりこの「エルサレム版」より「ジャポネスク版」のほうがいい。もともと四季はジャポネスク版で初演し、あまりにもアバンギャルドすぎてさんざん酷評され、それで少しおとなしくしてエルサレム版で再演して高い評価を受けた。

でも、やはりジーザスという作品は、A.L. ウェバーがまだギラギラした青年だったころに生み出した作品なわけで、その魅力は全編にわたって感じられる中二病的な情熱だ。それを正面から受け止めて、そのままはじき返した若き日の浅利慶太のギラギラ感がジャポネスク版からは伝わってくる。

それだけ、この作品は懐が深いと言えるだろう。若者たちの「劇中劇」として見せる1973年の映画も良かったが、2013年のアリーナツアーの演出もなかなかだった。「RENT」を思わせる極めて現代的な演出は、少し表現が直接的過ぎたかもしれないが、そういう中二病感がこの作品にはふさわしい。アリーナツアーはアマゾンのプライムビデオで有料だったり無料だったりするが、有料でも200円ぐらいでレンタルできるのでぜひ一度観ることをお勧めしたい。

今回のキャストでは、アンサンブルにも光川愛や林香純といったメインキャストの実力を持った俳優が並んでいる。だからというわけでもないだろうが、民衆の存在感を、いつも以上に感じた。

もともとこの作品では、民衆が大きなウェイトを占めていて、その熱狂と失望が、ジーザスやユダの苦悩をより大きくし、その運命を悲劇へと向かわせる。ピラトもカヤパも、最も恐れているのはジーザスではなく民衆だ。最近の、毎日のように起きるSNSでの炎上騒ぎにへきえきしていたために、この公演では民衆の姿が心に刺さったのかもしれない。まったく、2000年前から進歩していないのか人間は。

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劇団四季 ジーザス・クライスト=スーパースターのウェブサイト

https://www.shiki.jp/applause/jesus/

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四季「キャッツ」 グリザベラの現役時代

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グリザベラ 江畑晶慧
ジェリーロラム=グリドルボーン 岡村美南
ジェニエニドッツ 加藤あゆ美
ランペルティーザ 馬場美根子
ディミータ 松山育恵
ボンバルリーナ 相原 萌
シラバブ 藤原加奈子
タントミール 高倉恵美
ジェミマ 加島 茜
ヴィクトリア 杉野早季
カッサンドラ 山田祐里子
オールドデュトロノミー 飯田洋輔
アスパラガス=グロールタイガー/バストファージョーンズ 正木棟馬
マンカストラップ 西尾健治
ラム・タム・タガー 田邊真也
ミストフェリーズ 一色龍次郎
マンゴジェリー 斎藤洋一郎
スキンブルシャンクス 北村 優
コリコパット 横井 漱
ランパスキャット 高橋伊久磨
カーバケッティ 河津修一
ギルバート 新庄真一
マキャヴィティ 川野 翔
タンブルブルータス 塚下兼吾

ひさしぶりのキャッツ。っても2014のキャナルシティ劇場で観てるから超久しぶりというほどでもないか。むしろ大阪四季劇場が2012年の『夢から醒めた夢』以来だ。

岡村美南のジェリーロラム=グリドルボーンは福岡でも観ているが、あいかわらずのキレイなルックスと歌声にほれぼれする。

田邊タガーは、昔は「頑張ってツッパってます」みたいな中学生っぽさがあったが、年季が入りすぎてヤンキー高校生を通り越し、梅宮辰夫の「不良番長」みたいな不良中年になっていた。実に頼もしい。

びっくりしたのがタントミールに高倉恵美。この人、この役どれぐらい演じているんだろう。ボンバルリーナもやってるし、ウェストサイド物語のグラジェラなどもステキだったが、やっぱり高倉恵美といったらタントミールだ。そこそこの年齢に達しつつあるはずなのに、あのスタイルの良さはいったい何なのだ。気のせいか、昔よりさらに細くなった気がする。シンデレラ体重どころじゃない。もはやあの着る人を無茶苦茶選ぶ猫スーツと体が一体化しているように見える。動きもさらにしなやかで、神々しいまでの美しさだ。

そして初見の、江畑晶慧グリザベラ。『マンマ・ミーア!』のソフィを演じていた江畑ちゃんがグリザベラか・・・と感慨深くもなるところだが、やっぱりというか、若い。年老いた娼婦、というより、何なら現役でもいけるんじゃね?(何がだ)という、ピチピチのグリザベラである。フィナーレでほほ笑んでると、あのメイクなのに、可愛い。うーん、これどうなんだろう。歌や表現力は申し分ないので、先入観を持っちゃってるこっちのせいだとは思うが。個人的には、もちろんアリですよ。個人的にはね。

さてキャッツシアター化した大阪四季劇場は初めて観たわけだが、福岡のときと比べると、あまりぐっとこなかった。客席との一体感がイマイチだったように思う。

大井町のキャッツシアターも順調に工事が進んでいるようだが、ぜひこれまでにないほどの、ゴミ捨て場に迷い込んだ感じで観られる空間を期待したい。

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四季「キャッツ」のウェブサイト

https://www.shiki.jp/applause/cats/


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2015年5月30日 (土)

劇団四季「アラジン」開幕 結構いけるぞ

ジーニー 瀧山久志
アラジン 島村幸大
ジャスミン 岡本瑞恵
ジャファー 牧野公昭
イアーゴ 酒井良太
カシーム 西尾健治
オマール 斎藤洋一郎
バブカック 白瀬英典
サルタン 石波義人
 

アラジン東京公演開幕。

四季が超大作ミュージカルを新たに投入するのは「ウィキッド」以来、実に8年ぶりだ。「リトルマーメイド」はちょっと小ぶりだから。しかし、もうあれから8年も経つなんて信じられないなあ。

チケット料金値下げ以来、資金力も低下していたのだろうと思うが、やはり8年も大きな話題がないと四季の会会員の忠誠度も下がってくる。

昨年、事実上の分裂騒動もあったわけだが、とりあえず経営体制も変わり、吉田新社長のもと新たなチャレンジもしよう、ということなのだろう。その意気やよしである。

だが「アラジン」の上演が発表になったとき、実は不安もよぎった。

そのころ、日本に伝わってきた「アラジン」の噂は「まずまず」と「イマイチ」が半々だった。いずれにしても「ライオンキング」や「美女と野獣」のような、衝撃的なものではないようだ。

となると、吉田新社長が功をあせって、評判が固まらないうちに売り抜けようとしているディズニーの口車に乗っちゃったんじゃないか。そんな不安が自分の中で渦巻いたのである。

しかし噂はあくまで噂。この目で観なきゃあな、と昨年末にニューヨークへ。そのときの感想は以下の通り。

http://kingdom.cocolog-nifty.com/dokimemo/2014/12/aladdin-3a89.html

この時はあまり書かなかったけど、正直、作品全体の印象としてはイマイチかなあ、と感じていた。ジーニーはすごいけど、それ以外はどうもとっちらかった感じて好感を持てなかった。ジーニーというキャラクターも、果たして日本で受けるかどうか。それ以前に四季の水と合うかどうか。不安は全く払拭されなかったどころか、より濃くなってしまった。

そんな不安を抱えて電通四季劇場[海]へ。

キャストボードを見ると、瀧山久志がジーニー役という。あれってっきり道口瑞之だと思ってたのになあ。分からないものだ。

まだ未見の人も多いと思うので、微妙にネタばれする前に結論を先に言う。

感想を一言でいえば「結構イケる」だ。チケットを持っている人は期待していいし、まだの人は前日予約でトライして一度は観てみることをお勧めしたい。

で、どんなだったかというと。

幕が上がり、さっそくジーニー登場。ほほう、こんな感じか。瀧山久志という役者、いい存在感である。何と言うのだろう、出てくるだけでどこかちょっと面白い。それは吉原光夫にも通じるものがある。(吉原ジーニーちょっと見たいぞ!)そのあたりはこの役にぴったりといえそうだ。

歌はもともとオペラ歌手だからさすがだけど、ちょっと声が本調子じゃないような気がした。オペラ歌手の喉すら消耗させるほどの苛烈なレッスンをこなしたのだろうか。

そしてその語り口は、ブロードウェイのジーニーに比べややマイルドというか、ソフトでゆっくりしている。マシンガントークで客を圧倒させるのではなく、客の反応を見ながら一緒に盛り上げていこうとする。ジーニーはもともとキャブ・キャロウェイがイメージとしてあったらしいが、日本のジーニーはキャブ・キャロウェイというよりトニー谷だ。あっちで見たとき、こういうボードビリアンは日本にいないよなーと思ったけど、そうかトニー谷という手があったか!

もちろん往年のエンターテイナーだけでなく、最近のお笑い芸人のスタイルなど、さまざまな要素を貪欲に取り込んで、日本人の口にあうものになっている。これは役者だけでなく、四季のスタッフが相当に「日本人に受けるジーニー」を研究した成果ではないか。ふーむ、これはなかなかいいぞ!

そしてジーニーだけでなく、作品全体もとてもまとまりのあるものに感じられた。そこはやはり劇団の強みだろうか。演出もだいぶアレンジを加えているらしいが、正直向こうで1回観ただけだから、違いを具体的に指摘することはできないが、ジーニー同様、こちらも日本人のメンタリティーに合うように、細かく検証したのだと思う。

しかし、ディズニー相手にそこまでのアレンジを認めさせたというのは、四季もなかなかやるじゃないか。

もっとも、それはあくまで小幅修正なので、大きく演出が変わったりはしない。2幕はだいぶ退屈なシーンもあるし、「プリンス・アリー」は映画で大好きだったシーンだったので、もっと派手に演出してくれても、と思ったが、そのあたりはそのままだ。しかし、今回は小幅修正を認めさせただけでも大いに評価したい。

個人的には、女性陣の衣装が露出度高めなのが大いに気に入った。それにほら、岡本瑞恵が美人さんだし。ヘソ出し衣装、というだけでニヤニヤ笑いたくなる(←久しぶりに正常ではない観劇姿勢)。

そうそう、アラジンの友達役で白瀬英典が登場。「春のめざめ」以来、注目してきたというかつい目が行ってしまうユニークなキャラクターの役者だが、今回も相変わらずイイ声を響かせていた。白瀬のジーニー、見たいものだ。きっとアンダーで練習には入っているような気がする。

全体として、せっかくの「NEW MUSICAL COMEDY」なのに四季の悪いところが出て、カクカクした無粋なものになったらいやだなあ、と思っていたが、全くそんなことはなかった。むしろ、四季の良さでもともとの作品のアラを埋めている感じだ。観終わって、すぐにまた観たいと思ったのは久しぶりのことである。

ジーニーありきの舞台であることは間違いないので、今後も新たなジーニーが出てくるたびに劇場に足を運ぶことになるだろう。そうしないと、リピーターの動員も難しいはずだ。外部からの積極的な登用にも期待したい。もちろんOBもな!

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「アラジン」のウェブサイト
https://www.shiki.jp/applause/aladdin/

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2014年5月 5日 (月)

四季「キャッツ」博多の猫はほどよい大きさ

グリザベラ 早水小夜子
ジェリーロラム=グリドルボーン 岡村美南
ジェニエニドッツ 加藤あゆ美
ランペルティーザ 山中由貴
ディミータ 増本 藍
ボンバルリーナ 高倉恵美
シラバブ 和田侑子
タントミール 滝沢由佳
ジェミマ 松山育恵
ヴィクトリア 馬場美根子
カッサンドラ 藤岡あや
オールドデュトロノミー 橋元聖地
アスパラガス=グロールタイガー/バストファージョーンズ 正木棟馬
マンカストラップ 松島勇気
ラム・タム・タガー 阿久津陽一郎
ミストフェリーズ 永野亮比己
マンゴジェリー 笹岡征矢
スキンブルシャンクス 塚田拓也
コリコパット 横井 漱
ランパスキャット 政所和行
カーバケッティ 一色龍次郎
ギルバート 新庄真一
マキャヴィティ ニ橋 純
タンブルブルータス 松永隆志
 

キャナルシティ劇場でキャッツを観るのは、福岡シティ劇場時代も含めて初めてだ。というか、常設劇場でのキャッツが初めてである。

どんなものだろうと思ったが、ふつうの劇場がゴミに埋もれているのは、仮設の専用劇場とはまた違ったワクワク感がある。そして劇場がぐっとコンパクトに感じられる。これはなかなかいいではないか。昔、札幌JRシアターで観たとき(ジェリーロラムは堀内敬子)以来の「狭いキャッツシアター」だ。もっとも考えてみれば、ロンドンでもニューヨークでもキャッツは普通の劇場を改造してやってたわけで、日本がちょっと特殊なわけだが。

キャストはなかなかの豪華な布陣。劇場は撤退したけど、福岡の市場はちゃんと重視してますよ、というメッセージだろうか。

早水グリザベラはさすがの安定感。しかも、そこに円熟味が加わってきた。彼女のメモリーのあとは拍手も起きない。みな圧倒されているからだ。メモリーに感動し、そのあとの静寂に感動。これは他では味わえない醍醐味だ。

今回、むちゃくちゃ期待していたのが岡村ジェリーロラム。エルフィーもピコもなかなか良かったからね。で、これが期待通りだった。この役、どうしてもグリドルボーンとしての歌唱力が重視されがちなんだけど、個人的にはジェリーロラムの、オジサンのつまんない話も楽しそうに聞いてくれる、という水商売な優しさがとっても大事だと思う。岡村ジェリーロラムはそのあたりの情感をきっちり出せていた。

そしてそれ以上の出来だったのが、高倉ボンバルリーナ。もうタントミールはきついのかな?と思ったがとんでもない。その動きのシャープさは健在で、タントミールと並んで同じ動きをする場面ではシンクロ率高すぎて笑った。それにしてもこの人猫メイクがホント似合うというか、可愛い猫になるなー、丸顔で薄味の美人さんだからだろう。いつかジェニエニドッツも見たい。実に可愛いおばさん猫になるに違いない。

松島マンカストラップは初見。クドさが出ていたミストフェリーズとは一転、なかなかの爽やか好男子である。ウィキッドでフィエロとか演じたからだろうか?スキンブルナンバーの「やくざな奴」は、ヤクザというより不良。胸にジェット団のJの文字が見えた。

阿久津タガーは相変わらず変な人。決して猫じゃない。でも久しぶりにタガー締めを見られてよかった。

久しぶりだったこともあり、改めてキャッツの楽しさを実感した。期間限定公演だけど、また行こう。

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キャッツのウェブサイト
http://www.shiki.jp/applause/cats/

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2013年8月10日 (土)

四季「ウィキッド」東京再演 歌う大魔法使い

グリンダ 苫田亜沙子
エルファバ 雅原 慶
ネッサローズ 保城早耶香
マダム・モリブル 中野今日子
フィエロ 飯村和也
ボック 伊藤綾祐
ディラモンド教授 斎藤 譲
オズの魔法使い 佐野正幸
 

「ウィキッド」が東京に帰ってきた。まあどこで上演してても観に行くんだけど。

開幕後しばらくは樋口麻美のエルファバで行くんだろうな、と思っていたが、2公演を経ていきなりキャス変。雅原 慶(朴 慶弥、パク・キョンミ)のエルフィーとは胸熱じゃないか。もうちょっとしてから観る予定だったけど、これはガマンできんので劇場へ。

そのキョンミさんエルフィー、期待どおりのチャーミングな西の魔女になっていた。目力があって、細かい表情がとても印象に残る。以前、アイーダのイベントのとき素顔を間近で拝見したが、彼女はナチュラルな美人さん。そのぶん、キャラが色濃く描けるのかもしれない。歌は歴代のエルフィーがとんでもない戦闘力を誇っていたのでややパンチに欠けるのは確かだが、全体的にとても好感の持てるエルファバだ。

苫田グリンダは、以前よりも少し毒気が抜けて、ややマイルドな味わいになったような。そして関西魂が前面に出てきており、笑いを取る場面では新喜劇並みの熱演ぶりである。さらにそのナイスバディーにはますます磨きがかかり、外見的にはエロすぎる魔女になった。いや、いいよ?ぜんぜん。

飯村フィエロはひょろっとしてて、ダンスのシーンではクネクネと気持ち悪い動きをする。これまでのフィエロは、出てきた瞬間、「ああコイツは本当はいい奴なんだろうなあ」と感じさせたが、このフィエロはいい奴なのか悪い奴なのかこの段階では見当もつかない。これはこれでアリなのではないか。

そして何といっても今回の目玉は佐野正幸のオズ陛下だ。オズこそ、いい奴なのか悪い奴なのか最後の最後まで分からない、つかみどころのなさをいかに発揮できるかがポイントなのだが、それをアメリカ人の政治家や社長のような張り付いた笑顔で見事に表現している。これは心に響いた。そしてその歌声。一人だけ声楽っぽい歌い上げ方で、明らかに浮いている。それが異様におかしくて、つい笑ってしまった。絶対わざとやってる。こんなに楽しそうな佐野正幸は初めて観た。必見である。

こうなると、新しいグリンダも観たいなあ。苫田ちゃんは好きだけど。アンサンブルに光川愛、谷原志音といった名前が見えるのは、もしかして・・・?期待しようじゃないか。

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「ウィキッド」公式ウェブサイト
http://www.shiki.jp/applause/wicked/

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2013年4月 7日 (日)

四季「リトルマーメイド」開幕 アリエルが可愛い

アリエル 谷原志音
エリック 上川一哉
アースラ 青山弥生
トリトン 芝 清道
セバスチャン 飯野おさみ
スカットル 丹下博喜
グリムスビー 星野元信
フランダー 松下武史
フロットサム 一和洋輔
ジェットサム 中橋耕平
シェフ・ルイ/リーワード 岩城雄太

ついに開幕した「リトルマーメイド」。ブロードウェーでの公演は何とも残念な出来であり、何でまた四季は買ったんだろう、と思っていたら、まったく異なる欧州ツアー版を持ってくるという。でもツアー版だから、セットはシンプルになるはず。フライングがすごいという触れ込みだが、それマーメイドラグーンシアターで見てるしなあ。

などと、あまりワクワクせずに迎えた初日ではあったが、やはり日本で新しい演目が始まるのは嬉しいものだ。

で、その出来はどうたったのか。

これは非常に判断の難しい作品だ。

いや、悪くはない。むしろいい。いいのだけれど、自分の中で、何が良くてそういう印象になっているのかよく分からないのだ。

なぜそんなことになったのかというと。

はっきり言おう。アリエルが可愛いのだ。

谷原志音はたぶん初見だけど、なんというか、正統派のアイドル顔だ。一幕の演技は、アニメ版のアリエルがそのまま飛び出てきたような天真爛漫さが炸裂していたブロードウェイのシエラ・ボーゲスに比べると、ちょっと落ち着いた感じに見えた。でも、露出度の多い衣装からのぞくナイスバディーがまぶしくて演技がよく見えないー。

二幕で地上に上がってからは、せつない展開に反比例して明るくはじけた演技になる。舞台版で追加された曲のひとつ「Beyond My Wildest Dreams(どんな夢よりも)」でのはしゃぎっぷりには萌え死にそうになるが、実はこれはシエラ・ボーゲスの演技にかなり近い。ブロードウェイ版のCDを聞くとそれがよく分かる。

可愛いだけでなく、歌がいい。よく伸びるキレイな声は聴いていて心地いい。「パート・オブ・ユア・ワールド」のシーンは聴きほれる。「ソング&ダンス」福岡公演で木村花代が歌ったこのナンバーも良かったが、それに匹敵する魅力だ。

ボディーに目がくらんでよく見えなかったけど、演技はまだ粗削りだったように思う。だがそれがいい。

てなわけで、観終わったときの心象はすこぶるいいのだが、単にアリエル萌えなだけじゃないのかという懸念があるのだ。もしアリエルが別の女優さんだったら、同じような感想を持てるかどうか分からない。だから、作品として判断がつきにくい。

アリエルだけではない。御年66歳の飯野おさみによる跳んだりはねたりの大熱演はさすがだし、ちっちゃい青山弥生が演じる巨大なアースラはどこかユーモアを漂わせ、見ていて飽きない。芝清道は――芝清道だった。こうしたベテランの演技がなかったらこの作品の印象はどう変わるだろう?

うーん、分からない。

ちょっと目先を変えて、ブロードウェイ版と比較してみよう。

全体的には、断然こちらがいい。何というか、カルロッタのセリフではないが、こちらのほうが演劇らしく見える。ブロードウェイ版は、セットこそ豪華だったが、ローラーシューズの人魚姫は全く浮遊感がなく、興ざめだった。全体的にまとまりがなく、音楽の良さを生かし切れていなかった。期待が大きかっただけに、悪いところを挙げたらキリがないほど。シエラ・ボーゲスは素敵だったが、もう一人のキャストの目玉であるノーム・ルイスは自分が観たときは休演で見られなかったのは残念。

セットは、今回の上演はかなりショボい。でも、そもそも演劇のセットなんてショボくて当たり前の世界だ。海中シーンは照明などで美しい空間を形作っているし、地上ではわざと平面的に描いた書き割りや、絵本をモチーフにした場面転換など、楽しい工夫もある。

ただ、やはり「アンダー・ザ・シー」や「キス・ザ・ガール」は、もっと観客を圧倒するようなパワーが欲しい。豪華なセットに頼らなくても、見せ方次第でやりようがあるのでは、というのは素人考えだろうが、やはりそういうワープ感を期待して来る観客も多いだろう。ましてディズニーミュージカルだ。「意外と地味だったね」なんて感想が聞こえてきそうな気もする。

とにもかくにも、始まってしまったリトルマーメイド。チケットの売れ行きも好調のようだ。日本では家族で見られる作品が圧倒的に強いので、しばらくはロングランが続くだろう。他の地域も待っているだろうし。

それにしても、なんで四季はリトルマーメイドに手を出したのか。

確かにファミリー層に売れるから、興業的な魅力はあるだろう。製作費も美女と野獣やウィキッドなどに比べればぐっと安いだろうし、銭ゲバのディズニーといえどブロードウェイでコケているだけに、ロイヤリティー面で強気には出られなかったのかもしれない。

しかし今なお期待したいのは、このリトルマーメイド上演が、他のディズニー作品の上演につながる布石であるという妄想だ。メリー・ポピンズの上演を心の底からお願いしたいが、マッキントッシュ&ディズニーという、その名を聞くだけで金を取られそうな人たちが握っている作品だから、ちょっと難しいかもしれない。ではニュージーズならどうだ。あれはあまり金がかかってないから可能性はありそう。「ビリー・エリオット」同様、社会的なテーマを含んでいるので、四季が上演するにはぴったりの作品だと思うが。いっそ来年、ブロードウェイと同時開幕で「アラジン」ってのはどうだ。

とにかく、リトルマーメイドについてはアリエルが可愛い限り良い舞台だ。アリエルが可愛くなくなったら・・・まあ、それはそのとき考えよう、それがどう見えるかはまたその次に考えよう。
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リトルマーメイドの公式サイト
http://www.shiki.jp/applause/littlemermaid/

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2012年11月25日 (日)

ジーザス・クライスト=スーパースター(ジャポネスクバージョン)お久しぶり?芝ユダ

ジーザス・クライスト 神永東吾
イスカリオテのユダ 芝 清道
マグダラのマリア 野村玲子
カヤパ 金本和起
アンナス 吉賀陶馬ワイス
司祭1 佐藤圭一
司祭2 清水大星
司祭3 真田 司
シモン 本城裕二
ペテロ 玉真義雄
ピラト 村 俊英
ヘロデ王 下村尊則

ジーザスは時々ふっと観たくなる演目のひとつだ。特にかつて「江戸版」とも言われた、この初演版演出であるジャポネスクバージョン。エルサレムバージョンも悪くはないが、やはり中毒性はこっちのバージョンのほうが強烈だ。

今回はエルサレム→ジャポネスクの順で上演されたが、エルサレム版の芝ジーザスはちょっとヘンだということを十分すぎるほど気付かされたので、今回はパス。そしてジャポネスクを楽しみにしていたが、芝はジーザスからユダに戻り、かわりに待望の新ジーザスが登場した。これはこれで楽しみである。

神永東吾ジーザスは、スマートな体型ときれいに伸びる高音がなかなか魅力的なジーザスだ。もっとも、どこか金田俊秀ジーザスを思い出させる面もある。そうなると、歌に関しては金田に一歩譲るのも事実だ。しかしこちらは表情に独特のムードがあるので、演技の面で凌駕するジーザスになってほしいとも思う。

芝は定位置のユダ役で、水を得た魚のようにのびのびと演じており、村ピラトは容赦なく見事な声を響かせ、下村ヘロデはもう誰も止められない勢いでエキセントリックに炸裂。このトリオは最強だ。

反面、野村マリアはダメだ。年齢の問題ではない。周りがいいだけに、歌えなさが悪目立ちしている。「役者ではなく作品を観ろ」と言われても、これでは作品どころじゃない。野村玲子は素晴らしい女優だと思うが、作品の足を引っ張るキャスティングに猛烈に異を唱えたい。

それにしても、やはりこの演出は秀逸だ。白塗りに隈取りメイクと70年代ロックの融合、大八車を使ったダイナミックな舞台装置。初演時はあまり評判がよくなかったというが、1970年代の日本にはエキセントリック過ぎたということだろう。まだA・L・ロイド=ウェバーもティム・ライスも、あえて言えば浅利慶太も若かった。そのギラギラした、中二病なアグレッシブさが舞台からあふれ出ている。アドレナリン出まくりで、観終わるとぐったり疲れるが異様に元気になる。

今の日本に足りないのはこれだ。この抑えきれない、何だかわからないものが脳髄の裏側から吹き上げてくる感覚。以前全国ツアーでも観たが、この作品こそ全国各地で上演し、閉塞感を突き破ってほしいものだ。

ジーザス・クライスト=スーパースターのウェブサイト
http://www.shiki.gr.jp/applause/jesus/index.html

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2012年11月 7日 (水)

勅使瓦武志はもっと注目されていい 四季「ウェストサイド物語」

ジェット団(The Jets)

リフ 岩崎晋也
トニー 阿久津陽一郎
アクション 西尾健治
A-ラブ 新庄真一
ベイビー・ジョーン 笹岡征矢
グラジェラ 団 こと葉
エニイ・ボディズ 木内志奈

シャーク団(The Sharks)

マリア 笠松はる
アニタ 増本 藍
ロザリア 生形理菜
ベルナルド 加藤敬二
チノ 斎藤准一郎

おとなたち(The Adults)

ドック 石波義人
シュランク 田代隆秀
クラプキ 石原義文
 

かなーりお久しぶりのウェストサイド物語。しかしこの作品のスタンダード感は、まるでつい最近観たかのような錯覚を覚えさせる。といって飽きもこない。名作の風格というやつだろう。

一番の感想は「あれ?阿久津陽一郎歌うまくなった?」だ。彼の歌声も久しぶりだから、それも錯覚だろうか?以前観たときは、「Something's Coming」なんて聞けたもんじゃなくて、いったいどういうメロディーか分からなかったほどだったのだが……。まあ、「Tonight」は笠松はるが遠慮しているむきもあったが、それはいたしかたあるまい。演技面でも、かつてのヘンな奴オーラが潜んで、なかなかの好青年になっていた。

笠松マリアもとてもしっとりとしたいい感じになっていたし、加藤ベルナルドは相変わらず凄みがあり、増本アニタもはまっていた。全体的に安定感のある布陣だ。

初めて観た岩崎リフは、アメリカ映画から飛び出てきたようなヤンキーで、いいリフだと感じた。まだまだ加藤ベルナルドの迫力には気圧されるものの、ギラギラしたリーダーとしての側面と、弱みとをバランスよく演じていたように思う。あと、木内エニイ・ボディズはなかなかキュートでよかった。それにしても加藤御大はあの年でよくあそこまで足が上がるものだ、といたく感心。

だがこの舞台、個人的にMVPは勅使瓦武志のグラッド・ハンドである。ここまで自由にやっちゃっていいのかと不安になるほど、うさんくさくて、おどおどしてて、最高だった。この人、もっと重要な役を任されてもいいと思うんだが、なんでこういうポジションなんだろう?

久しぶりといえば、オーケストラのちゃんとある四季の舞台も、ずいぶん久しぶりに観た感じがする。主に地方で観ていたからかもしれないが。迫力のないオーケストラなら、いっそテープでもいいんじゃないかと思うこともあるが、やはり舞台の質感が違って見えてくる。チケット代値下げのあおりか、ますますテープ主体になってきている四季だが、守るべき矜持は残してほしいものだ。

ところで、四季の新作は「リトル・マーメイド」と発表になった。4年前にブロードウェーで観て「ダメだこりゃ」と感じただけに、待望の大型新作がそれだと聞いたときはかなりガッカリした。

しかし、四季が持ってくるのはブロードウェー版とは全く異なる欧州ツアー版だという。観ていないから何とも言えないが、舞台写真など観る限り、確かに違う演出のようだ。舞台をデザインしたのは「メリー・ポピンズ」の人だとのことで、ちょっと期待は持てそうだ。ツアー版だからやや豪華さには欠けるかもしれないが、音楽的には「美女と野獣」より好きな作品なので、いい舞台になることを期待しながら開幕を待ちたい。それにしても、これこそ「海」でやならいでどうする!?

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ウェストサイド物語のホームページ
http://www.shiki.gr.jp/applause/wss/

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2012年8月 5日 (日)

四季「アイーダ」福井将軍はコメダ珈琲にいる

アイーダ 朴 慶弥
アムネリス 光川 愛
ラダメス 福井晶一
メレブ 有賀光一
ゾーザー 飯野 おさみ
アモナスロ 高林幸兵
ファラオ 石原義文
ネヘブカ 桜野あら

今回の秋劇場公演はスルーしちゃおっかな、と考えていたが、千秋楽を前にしてキャストが動いたのであっさり心変わり。

まずはこの人、福井晶一ラダメスだ。この役見るのいつ以来かな、と思ったら2006年の福岡公演以来だった。しかしその印象は強烈だったので昨日のことのように思いだせる。

6年前にも書いたけど、阿久津陽一郎とは対称的なラダメスで、阿久津ラダメスは最初チャラチャラしてたのにアイーダと出会って次第に真面目になっていくのだが、福井ラダメスは最初から真面目で、それがアイーダに出会って人生を踏み外してしまうように見える。なので、だんだん残念な感じになっていくのが面白い。

その6年ぶりの福井ラダメス、生え際もなんとか踏みとどまり、ほぼ昔の印象どおりのラダメスだった。だがどこかワイルドさが加わり、「勝利めざして」は無茶苦茶カッコよかった。その分、後半の残念さ加減もアップしていて、お前、本当にそれでよかったのか?と尋ねたくなる。

朴慶弥のアイーダは7月の登場以来評判が良かったので楽しみにしていたが、これは確かにナイスなキャスティングだ。以前、ジェリーロラムで見たときには、歌も演技もうまい、スケールの大きな女優さんが出てきたな、と感じたが、これほど早く主役の座を射止めるとは。後期の濱田めぐみアイーダがデレ要素満載だったのが記憶にあるからか、凛とした強さの引き立つアイーダだった。後半は完全にアイーダがラダメスをリードしているのがより明確になっていた。

そして以前の東京公演でも見ている光川愛アムネリス。これがもう美人で美人で。言いたきゃいいなさい、美人にしか興味ないって。しかし、二幕のせつない演技は実に心を打つ。

3人のバランスも非常に良く、しかもそれぞれが対称的で、三角関係が物語の全てという、ある意味面白くないストーリーを、十分に面白いものとして見せてくれた。演出ではなく、役者の演技によって作品が面白くなることは、確実にあるのだ。前回の東京公演はストレスが溜まることが多かっただけに、ひさしぶりに満足のいくアイーダだった。あえて言えばネヘブカがいまいちだった。「神が愛するヌビア」で、ネヘブカが澄んだ声で歌い出すあのシーンは、アイーダの心情に大きな影響を与える。大事にしてほしい。とはいえ全体的には大満足で、自分にとっては昨年4月の大阪公演以来の充実感だ。

さて、この日は週末には珍しくイベント開催日でオフステージトークがあった。たいていイベントは平日に行われるので、自分は四季の舞台にこれだけ通っていながら、実はイベントは初体験だった。

飯野御大の軽妙な司会に、アイーダ、ラダメス、アムネリス、メレブとメインキャストそろい踏み。素顔の俳優たちもなかなか魅力的だ。「毎晩オリンピックを観ている」と、代表様が聞いたら怒られそうな発言をしていた福井アニキは(いや、今の立場だから言えるのか?)、なんだかハンマー投げの室伏広治みたいながっしりした体格で、ゲイでなくてもおもわず惚れてしまいそうになる。

次は名古屋公演だが、名古屋のうまいものは何か、という話になり「コメダ珈琲」とナイスな回答。シロノワールの話で盛り上がっていた。飯野さんが「じゃあ公演期間中、そこに行けばいるかもしれないね」と突っ込むと「コメダ珈琲たくさんありますからね」とすかさずリアクション。確かにコメダは探さなくても歩いていれば突き当たるが、劇場に一番近いのはあそこの店だ。自分も何度か行っている。

そして光川さんはやっぱり美人。それしか言うことないのかよ、と言われても、それしか出てこない。あとすげースリム。

それに比べれば、慶弥さんは美人オーラは一歩譲るかもしれないけど、ナチュラルな感じのキュートさがいい。うん、やっぱり俺の目に狂いはない。トークショーの最後にじゃんけん大会があって、自分は残念ながら敗退してしまったが、自分のすぐ後ろの男性が勝ち残ったところ、そこまで本人が賞品を持ってきてくれたため、間近で素顔、笑顔を拝むことができた。すぐにキャッツのグリドルボーン握手席抑えなきゃ、と思った。

アイーダがこんなに楽しかったのは本当に久しぶり。名古屋ではどんなキャスト構成になることか。少し期待して待つことにしよう。コメダ珈琲も要チェックだ。

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四季「アイーダ」のホームページ
http://www.shiki.gr.jp/applause/aida/index.html

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2012年6月24日 (日)

四季「夢から醒めた夢」帰って来た下村配達人

ピコ 樋口麻美
マコ 服部ゆう
マコの母 白木美貴子
メソ 大空卓鵬
デビル 川原洋一郎
エンジェル 笹岡征矢
ヤクザ 深水彰彦
暴走族 西尾健治
部長 田中廣臣
老人 山口嘉三
老婦人 斉藤昭子
夢の配達人 下村尊則

 退団後もちょこちょこ四季の舞台に戻ってきている下村尊則が、久しぶりに配達人を演じると言われればこれは観に行かないわけにもいくまい。

 考えてみれば大阪四季劇場で「夢から醒めた夢」は初めてか?京都では観たが。安定のロビーパフォーマンスはハンドベル隊一択で。

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 直前だったが、配達人登場席に近いところで観劇。その下村配達人、なぜか髪が伸びている。「時計じかけのオレンジ」のアレックスのようなおかっぱな感じで、実に不気味だ。そしてその演技は、ブランクを埋めるような力の入ったもの。不気味でオーバーな雰囲気こそ下村配達人の持ち味。のっけから全開で嬉しくなる。

 樋口マコは今さら感がありありだが、どうも優等生的な雰囲気がイマイチだ。やはりピコには、保坂知寿から吉沢梨絵に受け継がれたハイテンションなアナーキーさが欲しい。

 初見の服部マコは(服部まこではない)なんというか、「悪くは、ないな(ビル・オースティン)」という感じ。無難で、やや印象が薄い。マコ、グリンダ、グリドルボーンに関しては俺の要求がとっても高いのでそういう評価になってしまうが、客観的には十分な演技だったと思う。

 深水ヤクザは実にはまっており、見ていて面白かった。ただ、かつて吉原光夫がヤクザを演じたときも感じたことだが、はまっていればいるほど、あの昭和初期なヤクザスタイルが似合わない。深水ヤクザには、むしろ「ミナミの帝王」萬田銀次郎のような衣装が似合いそうだ。大阪公演だけに。もっともそうなると二幕のあの歌が合わないか。

 こりゃあないな、と思ったのが大空メソ。感情が伝わってこないのだ。抑揚のないセリフは、まるで「モヤモヤさまぁ~ず」のナレーションのようである。これは、日本語がネイティブではないから、とかいう問題ではない。自分は、海外の出身で、少しぐらいイントネーションがおかしくても、あまり気にしない。懸命な演技で感情が伝わってくると、セリフの言い回しぐらい些細はことに思えてくるのだ。しかし、このメソからはその悲痛な思いが伝わってこない。この後、変化してくれるといいのだが。

 川原デビルも頑張ってはいるものの、やはり今ひとつ役になじめていない気がする。光枝明彦があまりにも当たり役だったため後を継ぐ役者が苦労するのは分かるが、もうがらっと違うキャラクターにしてしまうしかないかもしれない。もっともその前に、また四季の舞台に立ち始めた光枝デビルをもう一度見ておきたいかも。

 東京公演も決まったが、新ピコの登場はないのだろうか?

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「夢から醒めた夢」公式サイト
http://www.shiki.gr.jp/applause/yume/index.html

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