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2018年2月24日 (土)

四季「ジーザス・クライスト=スーパースター」 昔のイスラエルじゃSNSもないしさ

ジーザス・クライスト 神永東吾
イスカリオテのユダ 芝 清道
マグダラのマリア 山本紗衣
カヤパ 高井 治
アンナス 吉賀陶馬ワイス
司祭1 佐藤圭一
司祭2 賀山祐介
司祭3 高舛裕一
シモン 本城裕二
ペテロ 五十嵐 春
ピラト 山田充人
ヘロデ王 阿部よしつぐ

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大阪四季劇場でキャッツを観たあと、京都でオペラ座の怪人を観てA.L. ウェバーまつりにしようかと思っていたが、ジーザス・クライスト=スーパースター(エルサレム版)のツアー公演がちょうどオリックス劇場で開幕していると分かり計画変更。

前にジーザス観たのは2012年だが、その時も神永ジーザスと芝ユダだった。神永ジーザスはまだ登場したばかりで、雰囲気はいいが歌は他の役者に比べると発展途上かな、と感じたが、久しぶりに観た彼のジーザスは、演技もさることながら圧倒的な歌唱力を見せつけていた。ゲッセマネのロングトーンは、国内で自分が観た中では最も伸びていたんじゃないか。かつてロンドンで観たとき、このシーンで仰天したのだが、まったく負けていなかった。

一方、芝ユダはちょっとパワーダウンしていた。一時的なものであればいいが、年齢的に声があまり出なくなってきたのだろうか?もしそうだとしても、彼の魅力は声だけではない。あの独特の存在感を生かして、多くの役で活躍してほしい。もっともこの日もカーテンコールではクネクネとふしぎなおどりを見せていたので、少し安心した。

高井カヤパはさすがの安定感で、見ていて嬉しくなる。低音が響かないカヤパなんてちっとも怖くないからね。

出色の出来だったのが阿部よしつぐのヘロデ。以前、他の作品で見ているかもしれないが、少なくとも劇団四季で彼を見るのは初めてだと思う。ヘロデのシーンはこの作品の最大のアクセントであり、演出の腕の見せ所であり、リピーターにとっては一番の楽しみでもある。出てきた瞬間に客席から感嘆や笑い声や出るヘロデは、いいヘロデ。この演出では、さほどヘンでもないのに、この日は客席から笑いが聞こえた。これはいいヘロデです。

ヘロデの場面もそうだけど、やっぱりこの「エルサレム版」より「ジャポネスク版」のほうがいい。もともと四季はジャポネスク版で初演し、あまりにもアバンギャルドすぎてさんざん酷評され、それで少しおとなしくしてエルサレム版で再演して高い評価を受けた。

でも、やはりジーザスという作品は、A.L. ウェバーがまだギラギラした青年だったころに生み出した作品なわけで、その魅力は全編にわたって感じられる中二病的な情熱だ。それを正面から受け止めて、そのままはじき返した若き日の浅利慶太のギラギラ感がジャポネスク版からは伝わってくる。

それだけ、この作品は懐が深いと言えるだろう。若者たちの「劇中劇」として見せる1973年の映画も良かったが、2013年のアリーナツアーの演出もなかなかだった。「RENT」を思わせる極めて現代的な演出は、少し表現が直接的過ぎたかもしれないが、そういう中二病感がこの作品にはふさわしい。アリーナツアーはアマゾンのプライムビデオで有料だったり無料だったりするが、有料でも200円ぐらいでレンタルできるのでぜひ一度観ることをお勧めしたい。

今回のキャストでは、アンサンブルにも光川愛や林香純といったメインキャストの実力を持った俳優が並んでいる。だからというわけでもないだろうが、民衆の存在感を、いつも以上に感じた。

もともとこの作品では、民衆が大きなウェイトを占めていて、その熱狂と失望が、ジーザスやユダの苦悩をより大きくし、その運命を悲劇へと向かわせる。ピラトもカヤパも、最も恐れているのはジーザスではなく民衆だ。最近の、毎日のように起きるSNSでの炎上騒ぎにへきえきしていたために、この公演では民衆の姿が心に刺さったのかもしれない。まったく、2000年前から進歩していないのか人間は。

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劇団四季 ジーザス・クライスト=スーパースターのウェブサイト

https://www.shiki.jp/applause/jesus/

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四季「キャッツ」 グリザベラの現役時代

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グリザベラ 江畑晶慧
ジェリーロラム=グリドルボーン 岡村美南
ジェニエニドッツ 加藤あゆ美
ランペルティーザ 馬場美根子
ディミータ 松山育恵
ボンバルリーナ 相原 萌
シラバブ 藤原加奈子
タントミール 高倉恵美
ジェミマ 加島 茜
ヴィクトリア 杉野早季
カッサンドラ 山田祐里子
オールドデュトロノミー 飯田洋輔
アスパラガス=グロールタイガー/バストファージョーンズ 正木棟馬
マンカストラップ 西尾健治
ラム・タム・タガー 田邊真也
ミストフェリーズ 一色龍次郎
マンゴジェリー 斎藤洋一郎
スキンブルシャンクス 北村 優
コリコパット 横井 漱
ランパスキャット 高橋伊久磨
カーバケッティ 河津修一
ギルバート 新庄真一
マキャヴィティ 川野 翔
タンブルブルータス 塚下兼吾

ひさしぶりのキャッツ。っても2014のキャナルシティ劇場で観てるから超久しぶりというほどでもないか。むしろ大阪四季劇場が2012年の『夢から醒めた夢』以来だ。

岡村美南のジェリーロラム=グリドルボーンは福岡でも観ているが、あいかわらずのキレイなルックスと歌声にほれぼれする。

田邊タガーは、昔は「頑張ってツッパってます」みたいな中学生っぽさがあったが、年季が入りすぎてヤンキー高校生を通り越し、梅宮辰夫の「不良番長」みたいな不良中年になっていた。実に頼もしい。

びっくりしたのがタントミールに高倉恵美。この人、この役どれぐらい演じているんだろう。ボンバルリーナもやってるし、ウェストサイド物語のグラジェラなどもステキだったが、やっぱり高倉恵美といったらタントミールだ。そこそこの年齢に達しつつあるはずなのに、あのスタイルの良さはいったい何なのだ。気のせいか、昔よりさらに細くなった気がする。シンデレラ体重どころじゃない。もはやあの着る人を無茶苦茶選ぶ猫スーツと体が一体化しているように見える。動きもさらにしなやかで、神々しいまでの美しさだ。

そして初見の、江畑晶慧グリザベラ。『マンマ・ミーア!』のソフィを演じていた江畑ちゃんがグリザベラか・・・と感慨深くもなるところだが、やっぱりというか、若い。年老いた娼婦、というより、何なら現役でもいけるんじゃね?(何がだ)という、ピチピチのグリザベラである。フィナーレでほほ笑んでると、あのメイクなのに、可愛い。うーん、これどうなんだろう。歌や表現力は申し分ないので、先入観を持っちゃってるこっちのせいだとは思うが。個人的には、もちろんアリですよ。個人的にはね。

さてキャッツシアター化した大阪四季劇場は初めて観たわけだが、福岡のときと比べると、あまりぐっとこなかった。客席との一体感がイマイチだったように思う。

大井町のキャッツシアターも順調に工事が進んでいるようだが、ぜひこれまでにないほどの、ゴミ捨て場に迷い込んだ感じで観られる空間を期待したい。

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四季「キャッツ」のウェブサイト

https://www.shiki.jp/applause/cats/


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2018年2月 8日 (木)

「FUN HOME」はアメリカの「サザエさん」か?

アリソン 瀬奈じゅん
ブルース 吉原光夫
大学生のアリソン 大原櫻子
ヘレン 紺野まひる
ロイ 上口耕平
ジョーン 横田美紀
小学生のアリソン 龍 杏美
クリスチャン 若林大空
ジョン 大河原爽介

2015年のトニー賞授賞式はWOWOWで録画して観た。だからミュージカル作品賞に「FUN HOME」が輝いた場面も見ていたが、まあ、これは観なくてもいいかな、と感じていた。

レズビアンの漫画家が、ホモセクシャルの父親を中心に家族の暮らしを回想する話、と聞いて、きほん明るく楽しくばかばかしいエンターテインメントが好きな自分としては食指が伸びなかったのだ。実際、この作品の上演期間中にニューヨークに行っているが素通りした。

別にLGBTの話題を避けている訳ではない。90年代後半以降、この問題については過剰なぐらいに主張しているブロードウェー界隈だが、ある意味それが「ブロードウェーらしさ」になっていて、どちらかというと考え方の古い自分に、この問題をニュートラルに考えさせてくれているのはありがたく感じている。素通りしたのは、単純に「なんか地味そうだから」だ。

そうこうしているうちに、フィリピンでこの作品が上演されることになり、そこにレア・サロンガが出演する、というニュースを聞いてへえーと感じ、いつかは日本でも上演するのかな、とぼんやり考えていた。そして日本での上演が決まり、吉原光夫が出ると聞いて、ちょっと観てみようかな、という気になり、開幕2日目にいそいそとお久しぶりのシアタークリエに出かけてきた。

演出を手掛けるのは日本演劇界のホープ中のホープ、小川絵梨子。今年夏に最年少で新国立劇場の演劇部門芸術監督に就任予定で、どちらかというと真面目な芝居のイメージが強い。ミュージカルは今回が初めてだ。それを聞いて、この舞台、もともと難しいテーマを扱っているし、自分には高度過ぎて理解できないんじゃないか?と不安になった。

結論から言うと、やっぱり高度過ぎて、この作品の魅力の、たぶん半分も自分は理解できなかったと思う。

とはいえ、今年はこれまでいろんな事情であまり書けなかったブログを少しは真面目に書こう、と決心したので、がんばって書く。以下ネタバレあり。

女性の漫画家が家族を描く、というと、あほな自分としては「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」がすぐ頭が浮かぶ。

しかしこの作品で描かれるのは、表面的には仲睦まじく見えるが、それぞれの心はすれ違っており、すれすれのところでバランスを取っているという家族だ。

そこに大きく影を落としているのは、まだ現在よりもずっと偏見が大きかった、同性愛者がいるということ。同性愛者の父は、妻、そして家族、さらには地域社会の信頼を徐々に失っていく。

すれ違う家族たちの姿は見ていて非常につらい。

ところが面白いことに、舞台が進行するにつれて、だんだんそのつらさが薄らいでくる。ここがミュージカルという手法のスゴいところだ。決して分かりやすいとは言えない旋律の音楽が、絶妙に舞台上の緊張と、観客の心をほぐしていく。そこにプラスして、3つの時間軸が交差しながら進んでいくという、パブリック・シアター発らしい実験的な構成が観客の心をつかみ、ぐいぐいと引っ張っていく。1幕のみ、全体で100分という長さもあいまって、重い話だけど胃にもたれない。

そして、ここで重要なことに気づく。

家族って、だいたいこんな感じじゃないのか?

目の前に描かれている家族は、一見、特別なものに見える。同性愛者が2人いて、葬儀屋が遊び場で、常に遺体が身近にある。そんな非日常につい目を奪われがちだが、世の中のほとんどの家族って、常にすれ違いながらも、絶妙なところでバランスを取っているのが普通なんじゃないか。

舞台の後半では、主人公が自らがレズビアンだと両親に告げ、それを両親がどう受け止めるか、が大きな見どころとなる。それはつまり、すれ違ってきた家族が、果たして真に向き合えるかどうか、ということだ。

原作にもある、車の中で父と娘が語り合うシーンは象徴的だ。「向き合う」のではなく、互いに前を見ているからこそ、ぎこちなくはあるが何となく会話が成立し、心が通い合う。

このシーンに、そういえば自分もそうだったよな、と思い出す観客は多いのではないか。家族の会話なんて、だいたいぎこちないものだ。しかし、何となくつながっている感じはある。

無理に向き合う必要はない。でも、向き合おうとする姿勢が家族をつなげている。残念なことに、父は無理に向き合おうとした結果、悲劇へとつき進む。娘は、その悲劇が自分に向き合おうとした結果であることを知って、そこに救いを見出す。そこで幕は降りる。

父の死後、長い年月を経て、またもすれすれのところでバランスをとって、家族が再生した瞬間だ。

重い部分だけを見て、この家族は普通と違う、と考えてしまいがちなところを、原作は漫画という手法で、この舞台はミュージカルという手法を使って、実はみなさんの家庭と同じなんですよ、と示す。それが自分が感じた「FUN HOME」という作品だ。

「サザエさん」といえば、自分は火曜の再放送で流れていた、堀江美都子の歌う主題歌が好きだった。

♪うちと おんなじね 仲良しね 私もサザエさん あなたもサザエさん

この歌詞が子供のころサッパリわからなかったわけだが、今ならわかる。どんな家族も、それなりに問題を抱え、それなりに秘密もあり、でも何とかうまくやっている。お互いに、そこを分かったうえで同じ「家族」としてつきあう。それがオトナの社会だ。

もっとも、長谷川町子はこのテレビ版サザエさんがあまり好きではなかったという。自分も原作の単行本は全巻持っているが、マンガでは「いじわるばあさん」と同様、かなり毒のあるギャグが満載だ。ことさら家族の仲の良さを強調することはない。それでいて、家庭の温かみは伝わってくる。

「ちびまる子ちゃん」も、さくらももこの幼少体験そのものではなく、むしろ「こういう家族だったらよかったな」という理想を交えて描かれたものだ。あの、ほのぼのした世界観の中で、時おり流れるシニカルな空気はその辺りに起因しているのではないかと思う。

そういう意味では、「FUN HOME」と「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」は、そんなに距離のあるものでもないのかもしれない。

ところで、吉原光夫の演技は今回も最高だった。「夢から醒めた夢」の暴走族のころから見ていたけど、当初は粗削りで、力任せな感じだけど目が離せない、そんな役者だった。それがこんな繊細な演技のできる素晴らしい役者に成長してきたのは感無量だ。

最後、トラックに飛び込むところで見せた鬼気迫る表情は、そのまんまセーヌ川に飛び込むジャベールだった。あの場面であの演技が正しいのかどうかはちょっとわからないが、いいもの見た感じではある。

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FUN HOMEのウェブサイト
http://www.tohostage.com/funhome/

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