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2014年12月28日 (日)

The River(ザ・リバー)

12/28 15:00

Circle in the Square

ヒュー・ジャックマンが「美女と野獣」などに出演していたことはよく知られているが、最近もちょくちょくブロードウェイに顔を出している。2011年のホリデーシーズンにはワンマンショーをやっていたし、今年のトニー賞では司会を務め、そのエンターテイナーっぷりをいかんなく発揮していた。

映画の宣伝で来日したときも、サービス精神にあふれた受け答えで好感度を高めている。「レ・ミゼラブル」のときはプロモーションで一度来日したあと、皇太子殿下を招いての試写会のために再びやってきて紳士なふるまいを見せていた。

そんなヒュー・ジャックマンがこの年末にも舞台に立つという。これは観ない手はない。

彼はもともとこっちの人だったわけだが、近年、ハリウッドスターがストレートプレイやミュージカルに出演する機会は増加しており、今年はトム・ハンクスもブロードウェイデビューを飾った。そして年明けからは世界のケン・ワタナベが「王様と私」に出演する。

ミーハーな自分としてはついチケットに手が伸びるところで、2008年には「エクウス」でダニエル・ラドクリフの全裸姿を見ているし、2010年にはあのアル・パチーノの「ベニスの商人」を観た。

「エクウス」
http://kingdom.cocolog-nifty.com/dokimemo/2008/12/equus-8b35.html

「ベニスの商人」
http://kingdom.cocolog-nifty.com/dokimemo/2010/12/the-merchant-of.html

今回もヒュー・ジャックマンを直に見られるというだけでチケットを取ってしまったが、その演目はやや重い。ミュージカルではなく、ストレートプレイ。英国出身の気鋭の劇作家にして、映画界からも熱い注目を注がれているジェズ・バターワースの「ザ・リバー」は、イギリスでは2012年に上演され、話題となった作品だ。

登場人物は3人だけで、上演時間も1時間25分と短い。その物語は難解で、ミステリーとも、サイコ・サスペンスとも、不条理劇とも取れるものだという。

ただでさえ英語の壁があるのに、そこに分かりにくさが加わってはお手上げだ。観るのやめようかとも思ったが、何事も経験である。年明けには東京でも岡本健一主演で上演されるといから復習はできそうだ。そして調べたら、予習の道も開けた。脚本がペーパーバックとして売られていたのである。さっそくアマゾンで注文。

到着したのは薄い本(そっちの薄い本ではない)だった。しかも脚本だから長い文章もなく、読みやすい。これなら楽勝、と思って読み始めたが、楽勝なのは最初だけで、どんどん「?」なやりとりが出てくる。セリフもどんどん長くなる。詩のような抽象的な表現も多くなり、さらには詩そのものも多用されている。英検4級の実力をいかんなく発揮して辞書を引きながら繰り返し読むが、さっぱり分からない。

というわけで「どうせ日本語で観ても訳わからないだろう。だったら英語で観ても同じだ」と開き直って劇場へ。

このサークル・イン・ザ・スクエア」は、今はなき青山円形劇場のような作り。大きさもちょうどそんなもの。きわめて演劇的な空間だ。ちなみにこの劇場は「ウィキッド」がロングランされている大劇場、ガーシュイン劇場と同じ建物の地下にある。青山劇場と青山円形劇場のような関係だと思ってくれればいい。

中に入ると、コンパクトな空間にぎっしりと席が並び、その中央に舞台がしつらえられ、観客は3方向から見つめる形になる。最前列と舞台の間は数十センチ。AKB劇場の最前と舞台との距離よりも近い。

実に演劇的な空間。もうそこにいるだけでテンションが上がってくる。

やがて開演。脚本を読んで想像していたとおり、流れる川の音に乗せて、静かに男女3人の物語が始まる。軽口をたたく場面では笑いも起き、意外に重い雰囲気にはならない。そこにはヒュー・ジャックマンのパーソナリティーも影響しているのだろう。

そして、その明るいキャラクターが、物語が進んで展開がナゾめいてくると、別の効果を発揮してくる。だんだん「訳の分からないヤツ」に見えてきて、それがいっそうナゾな雰囲気を深めていくのだ。ハリウッドスターのオーラと、鍛え上げられた筋肉隆々のボディーを身にまといながら、淡々としたセリフと「静」の演技だけで観客にアピールする。そこに凄まじい気迫すら感じられる。

全体像が把握できないまま、時折笑いも交えながらセリフのやりとりだけが延々と続く雰囲気は、どこか「スルース(探偵)」にも似てるな、などと感じながら観ていた。

確かに難解で、けっきょく最後まで訳がわからなかったのだが、脚本を読んだときに全く気付かなかった、ある要素が用意されていた。これは驚いた。それが今回の公演での演出なのか、もとからそうなのかは分からない。しかし、これによって、演劇というものが脚本だけに規定されるものではないことを改めて理解した。

ヒュー・ジャックマンという役者の深みを目の当たりにして、ますますファンになってしまったが、この「ザ・リバー」という作品にも大いに関心が出てきた。2月の岡本健一の舞台、観に行こうっと。南沢奈央も出るしね!

この「サークル・イン・ザ・スクエア」という空間も最高だった。久しぶりにまた演劇らしい演劇を観たくなった、というのも南沢奈央の次ぐらいに2月の舞台を観に行きたくなった理由のひとつだ。

そして同じ建物にあるガーシュイン劇場では、ブロードウェイの中でも一、二を争うキャパシティーを誇る空間を、ウィキッドが10年以上も埋め続けている。この2つの劇場の関係性がまた素晴らしい。

一方で、多くの名作を生み出してきた青山劇場と青山円形劇場は、年明けに閉館が決まっている。

1972年オープンの劇場で、21世紀最大のヒット作を上演し、同じ建物にある実験空間にハリウッドスターが出演する国と、1985年オープンの劇場を「老朽化したから」と閉鎖する国。

その違いは、資本のことだけではあるまい。われわれ観客を含めた演劇、エンターテイメントにかかわるすべての人に突き付けられた課題として、大いに考え直す必要がある。

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ザ・リバーのウェブサイト
http://theriveronbroadway.com/

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