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2014年12月28日 (日)

Here Lies Love(ヒア・ライズ・ラブ)

12/28 17:00
The Public Theater

かつてフィリピンを牛耳っていたマルコス大統領の妻、イメルダ夫人。歴史的な悪女として世界的に有名になった人物だ。その人生には多くのクリエイターが刺激を受けるようで、多くの小説や舞台の題材となってきた。

現在、パブリックシアターで上演されている「Here Lies Love」も彼女を描いた作品だ。トーキングヘッズの元メンバーで、坂本龍一とともに「ラストエンペラー」の音楽を手掛けたデビッド・バーンがファットボーイ・スリムとコラボして創り上げたコンセプトアルバム「ヒア・ライズ・ラブ」を舞台化したもの。2013年の初演が高い評価を受け、再演となった。フィリピンの台風被災者支援のチャリティー公演も行っている。

これを観るために、地下鉄に乗って8丁目へ。パブリック・シアターに入るのは初めてだが、その前は何度も通り過ぎている。この向いにブルーマンの劇場があり、いい目印になっているからだ。

この日4本目ではあるが、居眠りなんかしない。いや、できない。何しろこの作品の上演には、座席がない。

オールスタンディングの空間に、バブル期のディスコのお立ち台のように舞台がしつらえてあり、その上で俳優たちが演技する。

そしてDJがマシンガントークを繰り広げながら、ノリノリの音楽をかけて進行していく。雰囲気は完全にクラブだ(行ったことないけど)。

そして出演俳優はほぼオールアジア系。これは快挙というか、きわめて珍しいことらしい。

ホール内に入ると、開演前から大音量で音楽がかかり、こりゃバーも欲しいな、と思ったらちゃんと用意されている。一杯飲みながら開演を待てるわけだ。俺は飲めないけど。

始まると、お立ち台はスタッフの手によって人力で移動し、その度ごとに観客たちは右へ左へと移動する。これはしかもお立ち台は人力で移動し、そのたびに観客はスタッフの指示に従って右へ左へと移動する。デ・ラ・グアルダの「フエルサブルータ」(2回観た。このときこのとき )と同じシステムだ。

そしてそこには大きな意味がある。観客たちはイメルダ夫人を見守る傍観者、ときに熱狂して国の行く末を大きく変える民衆の役を与えられているのだ。

これは、ちょうど「エビータ」の劇団四季による上演(2005年の新演出)と同じ手法だ。

その手法だけでなく、この作品の物語はエビータに通じる点が多い。もともと女性が権力を握っていく話だからどうしても似てしまうが、ニノイ・アキノがマガルディとチェを足したような感じで登場したりもする。別にパクっているわけではないが、かなり意識しているのが伝わってくる。

この作品、音楽が実にいい。ワールドミュージックに造詣の深いデビッド・バーンの手による曲は、どこかアジアンなテイストで、同じアジア人である自分の心の琴線に触れる。ゼントラーディー人の遺伝子に組み込まれたプロトカルチャーの記憶が、リン・ミンメイの歌によって呼び覚まされていくようだ。

その曲が、ファットボーイ・スリムの手によってダンスミュージックにアレンジされている。外側はノリノリのクラブサウンドだけど、中身はアジアン。この味わいが絶妙である。

上演時間は90分。会場内を右往左往しながら楽しんでいるうちに、あっという間に終わってしまう。面白かったー。この単純に「面白かった」と言わせる作品に、久しぶりに出会った気がする。

この作品を特徴づけるクラブ風の演出は、イメルダ夫人の極彩色の半生(注、彼女はまだ現役バリバリの政治家です)を描くのにはぴったりと言える。だが、意図したものかどうかわからないが、それ以外の感想もある。

自分もそうだけど、アジア系の人たちだけで欧米発のカルチャーにどっぷり浸かっていると、そこには自然と「違和感」が生じる。別にいい、悪いの話ではないし、今の日本のカルチャーの大部分はそうなわけだが、これは現実としてある。欧米人だけのアニメイベントに違和感を感じるのと一緒だ。

人は、そしてその集団は、時として傍から見ると「変な行動」を取るときがある。それは本人たちには分からない。しかも、その「変な行動」は、国を変えるほどのパワーを発揮する。このクラブ演出が感じさせる「違和感」は、それを強烈に思い起こさせるのだ。

あと、これはいつものことだけど、この観劇終了後の充実感は、この再演でイメルダ役に抜擢されたJaygee Macapugayがとっても魅力的だったのと無関係ではない。ずっと「ジュリアナ東京みたいだなー」と思っていたら、フィナーレでワンレンボディコン姿で登場し、思わずのけぞった。

ああ、これまた観たいなあ。来日公演やってくれないかな?日本人による翻訳公演でもいいけど、できればJaygeeの姿を見たいです。

ちなみに「Here Lies Love」は、イメルダ夫人がかつて自分の墓標にはそう刻むよう命じた、とされている言葉だ。

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ヒア・ライズ・ラブのウェブサイト
http://herelieslove.com/

Jaygee Macapugayのツイッター
https://twitter.com/jaygeemacapugay

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