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2014年3月12日 (水)

「ラブ・ネバー・ダイ」憎めないB級感

ファントム 市村正親
クリスティーヌ・ダーエ 濱田めぐみ
ラウル・シャニュイ子爵 橘 慶太
メグ・ジリー 彩吹真央
マダム・ジリー 鳳 蘭
グスタフ 松井月杜
 

「ラブ・ネバー・ダイ」日本公演の初日を観てきた。

いちおう解説しておくと、「オペラ座の怪人」の続編にあたる。前作はガストン・ルルーの小説を原作にしているが、今回はオリジナル。最初A・L・ウェバーが原案をフレデリック・フォーサイスに依頼し、後にそれが「マンハッタンの怪人」として出版されたが、結局その話ではなく異なる脚本が別途作られた。ただ、ニューヨークが舞台、という点は共通している。

90年代から制作が噂されていたが、ようやく幕を開けたのが2010年のロンドン。ご存知の方も多いと思うが、その評価はさんざんで2011年夏に終了。ブロードウェイは劇場を開けて待ってたけれど上演されることはなかった。

しかし演出をがらりと変えてメルボルンで上演されたバージョンは「まあまあ」の評価を受けた。それは早々にブルーレイ化されている。ブロードウェイでの上演や各地でのロングランは望めないと踏んで、コンテンツビジネスでの回収にかかったのだろう。

で、そのブルーレイは発売されてすぐ買った。映像だけで舞台を判断するのは危険だが、確かにこれは受けないわな、という感想は持った。

とはいえ、個人的には気に入った点もいくつかあり、リアルで観る機会があったら行きたいものだ、とも考えていた。

そこに、日本人キャストによる上演のニュース。

しかも四季ではなく、ホリプロの制作という。

ふーん。

四季でオリジナルのファントムを演じた市村正親が登板するという。

へー。

鹿賀丈史とダブルキャストとか。

はあー。

クリスティーヌは濱田めぐみ。

何とッ!それは行かなくては!

というわけで、気張って初日のチケットを獲得して日生劇場へ。

ファントムは市村だ。彼の怪人を見逃したのは、自分の観劇史の中では悔やまれる点である。その前に上演した「ハンス(現:アンデルセン)」は観てるわけだから、何で行かなかったのか不思議だが、金のない大学生だった時だからそういうこともある。

声楽出身ではない彼は、当時から歌より演技で見せるファントムと言われていた。その後、四季のファントムは多くが歌重視だったから、演技重視のファントムは沢木順ぐらいしか知らない。あのファントムは好きだった。

初めて見るその市村ファントムは、26年のブランク、そして65歳という年齢を感じさせない、心に響く存在感だった。この数年、彼の舞台はいくつか観たが、その中では断然一番だと思う。もちろん声楽家のような声は出せないけど、ボイストレーニングもこの役のために重ねたようで、聞いていて心地よかった。

そして濱田めぐみのクリスティーヌ。もう彼女が出てきて動くだけでニヤけるほどのめぐ推しな自分だから、歌ったりした日にはもう幸せいっぱいなわけだが、こちらも四季退団後の舞台の中では一番、という印象。今年はこの後に数本の舞台を控えていて、休む暇がないほどだが、もちっと仕事を選んでもいいんじゃないか。

ただプログラムで彼女自身も語っているが、クリスティーヌの歌い方は濱田めぐみの声には合わない。それを乗り越えての熱唱熱演には頭が下がる。ただ、シャレじゃなく、この作品ではめぐ様にはクリスティーヌよりメグ・ジリーを演じて欲しかったなあと。じゃあクリスティーヌは誰?そりゃ沼尾みゆきに決まっとろうが。

なぜメグを演じて欲しかったかはネタばれになるから控える。で、ここから少しネタばれを含むので、何の予備知識もなく舞台を観たいという人は読まないでください。

作品自体どうかといえば、ブルーレイで見たときとそんなに変わらない。まあ、一般的に言って失敗作だろう。で、俺がそのどこを個人的に気に入っていたのかというと、作品全体に漂う「B級感」だ。

舞台は壮麗なパリのオペラ座から、猥雑な遊園地へ。そこで行われているショーは、悪趣味というか、「野望の王国」の橘征五郎が「なんという醜悪な!」と評した饗宴のようである。

そして前半の情緒も何もない唐突な展開と、後半のほとんど昼メロな展開。どこをとっても安っぽくて、前作の資産を全部食いつぶした二代目の放蕩息子みたいな作品だ。

だがそれがいい。

「オペラ座の怪人」は、何度観てもこちらが緊張するピリピリした作品だ。それが魅力なのだが、この「ラブ・ネバー・ダイ」はなんかぬるい。俺も年を取ったのか、ぬるいのが好きになってきたっぽい。ウェバー作品で同じぬるさを持っているのは、「スターライト・エクスプレス」だ。あれも好きなんだよなあ。両者に共通して言えるのは、自分の趣味だけで作っているということ。今回のプログラムに寄せたコメントで、これは「最も私的な作品である」と述べている(the most personal of all my stage works)。

それにもともと、ガストン・ルルーの「オペラ座の怪人」はB級ホラーだ。そこに回帰したのだと考えれば、世界観はさほどブレていない。というか、こっちのほうがしっくりくる。

音楽に詳しい人なら、また違った感想もあろう。自分は音楽は素人なので、分かりやすい旋律の多い前作のほうが好みだが、ブルーレイで観たときから表題曲は素晴らしいと思ったし、1幕終わりのロックな「The Beauty Underneath」はかなり気に入っている。

この日は、初日ということで市村が口上を述べた。「26年ぶりに、この仮面をつけることができました」という一言だけだったが、感動的な重みを持つ言葉だった。

そのあと、演出家や技術スタッフを舞台上に招き、紹介。ひととおり紹介して終わりかと思ったら、最後にA・L・ウェバーがサプライズ登場。この時の歓声は、この日一番大きかったかもしれない。俺も驚いたし、いいもん見たわーという満足感いっぱいだった。

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「ラブ・ネバー・ダイ」のウェブサイト
http://lnd-japan.com/index.html

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