« ニューヨーク2012のまとめ | トップページ | 宝塚花組「オーシャンズ11」@宝塚大劇場 蘭寿とむのカリスマ性がヤバい »

2013年1月 6日 (日)

映画「レ・ミゼラブル」は「アマデウス」以来の傑作だ

前評判どおりの傑作である。

近年相次いでいるヒットミュージカルの映画化は、おおむね出来がよく、あまりがっかりした記憶がない。「オペラ座の怪人」「シカゴ」「ヘアスプレー」「マンマ・ミーア」・・・どれもそれなりによく出来ていた。しかし、舞台版を超える感動をもたらす作品になったのは久しぶりだ。ミュージカルではないが、舞台の映画化としては「アマデウス」以来の快挙かもしれない。

盛大にネタばれになるので、とくに舞台を観たことがあって、これから映画を観る人はここから先は読まないでください。

まずヒュー・ジャックマンがいい。ブロードウェイ経験もあるから歌えるのは知っていたし、昨年末、結局渡航を断念したため見逃したが、「Hugh Jackman, Back on Broadway」のチケットも持っていたぐらいだから、彼のエンターテイナーとしてのポテンシャルは十分に理解していたつもりだ。しかし、いきなり「独白」をオリジナルキーで歌ったところで度肝を抜かれた。もちろん「彼を帰して」も。演技と歌の両面でここまで魅了できる俳優は、いま世界中で彼しかいないんじゃないかと思えるほどだ。

ジャベールのラッセル・クロウは歌はヒュー・ジャックマンに及ぶべくもないが、その表情、雰囲気、さすがの貫録。ジャベールは演じる人によって、冷徹さが前面に出る場合と、職務への忠実さが前面に出る場合があるが、彼のジャベールは冷徹さを押し出しながらも、その影に言い知れぬ「怒り」を感じさせる。劇中、ひとことだけ過去に触れている(「対決」の中で、牢獄で生まれたことを明かしている)が、そのエピソードの延長にある、社会へのどうしようもない憤りが伝わってくるのだ。

アン・ハサウェイもアマンダ・セイフライドも、そして25周年コンサートに出ていたサマンサ・バークスも、みな素晴らしいのだけれど、最終的にこの映画を成功に導いたのはやはり監督・トム・フーパーだろう。

ユーゴーの大河小説「レ・ミゼラブル」は、人間模様を縦軸にしながら、フランス革命以降のフランスの歴史、そしてパリという大都市の生態を描いた作品だといわれている。舞台では、その歴史と都市の部分をごっそり削って、人情劇の部分だけを取り出している。そのため、あれだけ原作が長いわりには、実はストーリー的にはあまり省略がないのだ。かつて奇才漫画家・上野 顕太郎が「夜は千の目を持つ」の中でレ・ミゼラブルを1ページで描くという離れ業を演じることができたのも、そういう事情がある。トム・フーパーは、映像化にあたり、この舞台が捨て去った部分をていねいに拾い上げ、そのエッセンスを加えることで、この映画をよりリアルに、深みのあるものにすることに成功した。

また脚本の面では、舞台版では語られていないエピソードや描写も盛り込んでいる。ガブローシュが「バスティーユの象」に住んでいること、下水道の中をマリウスを抱えて歩くバルジャンが溺れかけること、といった細かいエピソードから、コゼットをテナルディエ夫妻から引き取ったあと、ジャベールに追われて修道院に身をひそめるといった重要なエピソードがまでが書き加えられた。ヒュー・ジャックマンはインタビューの中で「どうしても舞台には『ストーリーの穴』ができてしまうが、監督はその穴をうまくふさいだ」と話しているが、おそらくこの修道院のあたりを指しているものと思われる。舞台と映画の両方を知る彼ならではの言葉だ。

さらに、穴をふさいだだけではない。修道院のくだりには、唯一の新曲「Suddenly」が添えられた。これが実に名曲で、これによってバルジャンのコゼットへの思いが実に明確に描かれることになる。

舞台版と比較すると、いくつか曲順の変更があったり、このシーンに出るべき人が出ていなかったり、という演出上の違いがある。しかし、そのすべてに意味がある。そして、そのすべてが狙い通りに決まっていて、実に小気味いい。プログラムの中で、萩尾瞳氏がエポニーヌの扱いに異を唱えているが、これも監督の計算内で、最終的にエポニーヌというキャラクターから受ける感動は、決して小さなものにはなっていないと思う。

ロンドンのオリジナル・キャストであるコルム・ウィルキンソンが出演することは早い段階で明らかにされていたが、これもファンへのプレゼント、というレベルのカメオ出演ではない。その起用に、あんな意図があったとは!もう脱帽するしかない。

しかし、そのトム・フーパー監督が、自分より4歳も若いと知って愕然。「英国王のスピーチ」などの作風から、「巨匠」と呼ばれるにふさわしい年齢かと勘違いしていた。

とにかく、これはかならず劇場で、できれば音響のいい映画館で観ておくべき作品。だけど、デートで観るのはやめたほうがいいだろう。男性はみっともない泣き顔をさらすことになるリスクが高いし、女性はメイクが崩れる可能性大だから。

ふだん、あまり映画で感動することのない自分も、小学生のとき「ドラえもん のび太の恐竜」を観たとき以来、久しぶりに泣きそうになった。

舞台版を観ている人のほうが、感動は大きいかもしれない。舞台での感動を思い出しながら、さらに新たな感動がそこに加わるからだ。

そしてもうひとつ。日本のミュージカル「レ・ミゼラブル」ファンの多くがそうだと思うが、本田美奈子さんが天国へ旅立って以来、エポニーヌのエピソードは冷静に観ることができなくなった。この映画でも、サマンサ・バークスの丁寧な演技を、ふと彼女を思い出しながら見つめていた。出演がかなわなかった2005年の帝劇公演ではファンティーヌを演じる予定だったが、美奈子さんのファンティーヌはどんなだったろう。これからは、舞台だけでなく、この映画を観る度ごとにも彼女を思い出すことになる。それでいい。

今年は新演出で幕を開ける帝劇のレ・ミゼラブル。映画が生んだ新たな観客も劇場に足を運ぶことになる。その期待に、新キャストが応えることができるか。新演出が受け入れられるかはやや不安もあるが、その不安を吹き飛ばす力強いパフォーマンスに期待したい。

|

« ニューヨーク2012のまとめ | トップページ | 宝塚花組「オーシャンズ11」@宝塚大劇場 蘭寿とむのカリスマ性がヤバい »

コメント

師匠、おつかれでやんす。

相変わらずのご慧眼。意見の一致ができて嬉しいです。

私は帝劇のレミゼは見てないのですが、今回の映画でぜひ一度行きたいと思いました。師匠がおっしゃるとおり、帝劇を知っているのといないのとでは大きく感動が違う気がします。
やはり、帝劇のライブ、それも鹿賀丈史先生辺りに唸っていただいたら、脊髄が痺れまくるでしょうねえ。

投稿: らいおんきんぐ | 2013年1月 6日 (日) 22時42分

らいおんきんぐさんこんにちは。

鹿賀バルジャンはかなりの回数観ましたが、歌はそれほどでもなくても、演技で魅了させてくれました。ジャベールは近年になって再び演じてくれましたが、バルジャンもまた観たいです。

投稿: ヤボオ | 2013年1月 8日 (火) 00時03分

初めまして、レミゼの映画感想のブログを検索していたら、こちらにたどり着きました。田舎住まいなもので舞台版は未経験です。初日に観に行きましたが、観終えたあとにまだ席を立ちたくない!しばらく余韻に浸っていたいと感じたのは初めてでした。新演出で舞台版が日本でも上演されますね。映画を観て、舞台版経験してみたくなってます。

投稿: たかたか | 2013年1月 8日 (火) 16時16分

たかたかさんこんにちは。

映画と舞台はまた全く違うものなので、舞台を観るときはいったん映画のことは忘れて楽しむといいと思います!

投稿: ヤボオ | 2013年1月 8日 (火) 23時10分

ヤボオさん、こんにちは。

僕は舞台版も好きなので、アンジョの最期とか映画版が舞台ファンのこともちゃんと考えて作られてるのが嬉しかったです。
エポニーヌについては僕も舞台版の「オン・マイ・オウン」が一番の泣きどころなので少しカットされた感がして残念でしたが、決して雑に扱っていた訳ではないし、ガブローシュが手紙を届けるとはなかなか工夫していたと思います。

今回の映画から舞台に興味を持つ人も多数いると思われるので、今回の日本カンパニーは相当プレッシャーでしょうね。
僕も新演出版は未見なので、今から楽しみです。

投稿: わっち | 2013年1月 9日 (水) 00時11分

わっちさんこんにちは。

新演出、賛否両論分かれるでしょうが、キャストのがんばりで評価が変わると思います。期待しましょう!

投稿: ヤボオ | 2013年1月10日 (木) 00時20分

祐一郎さん、レミゼ降板されましたね。新演出ということで楽しみにしていたのですが。

投稿: I love 祐 | 2013年1月10日 (木) 19時01分

I love 祐さんこんにちは。

もう山口バルジャンは観られないかもしれませんが、あの新演出には合わないかもしれません。山口氏には何か新しいことに取り組んでくれるのを期待します。

投稿: ヤボオ | 2013年1月10日 (木) 23時33分

映画版は個人的にも楽しんだのですが、役者がセットで歌った歌を使うというところにこだわったことで表情をアップ中心にせざるを得なかったこともあり、カット割が少し単調になりがちだった気がします。

個人的にはマリウス役のエディ・レッドメインが一番のサプライズでした。

投稿: kunedog | 2013年1月18日 (金) 23時50分

エディ・レッドメインって見たことあるなーと思ってパンフレット見たら、武田鉄矢やってた人か

投稿: ヤボオ | 2013年1月19日 (土) 00時50分

こんにちは。寝ぼけたタイミングのコメント失礼します。いつもブログ更新を楽しみにしている者です。品川CATSの頃から数年間四季に通いまくり、今は年に数回に落ちついています。

昨年末に映画レミゼを見てものすごく感動し、こちらの記事になるほど納得と感銘を受け、以降6回映画館に通いました。
昔、帝劇で2回レミゼを見た時は正直それほど…で、みんなが大好きなレミゼに自分は縁がないのかと思ってきたのですが、まさか今こんなにハマるとは(笑)

ヤボオさんの視点や語り口の大ファンなのですが、他の場所(Twitterなど)でおことばを発信されていたりはしないのでしょうか…?よかったら教えてくださいませ。

長々とすみませんでしたm(_ _)m

投稿: おもちゃん | 2013年3月 6日 (水) 05時04分

おもちゃんさんこんにちは。

映画レ・ミゼラブルいいですよね。帝劇公演は新演出がみなさんに受け入れられるか不安です。

そんなに器用でもないので、ツイッターもSNSも使ってはいますが外向きの発信はしてません。

投稿: ヤボオ | 2013年3月 7日 (木) 23時52分

やっと、この回のブログを読みました。というのも、映画版をやっと、音響自慢の映画館で見たので、この日までレビューを読むのを我慢しました。映画を観終わって、ヤボオ様のを読んでやっと自分の心の中に入れられるといった感じです。それにしても映画すごかったです。よくぞここまで演じたとプロの技に脱帽です。ガブローシュの死体のシーンがあまりにリアルで怖かったです。映画「コーラスライン」の最後の燕尾服でのラインシーンに入る時、違和感を感じたというか、へ?ストーリーここで終わるの?的なものでしたが、レミゼの最後まで圧巻のラストシーンまでの自然な流れはよかったです。 大好きなコルムウィルキンソンが出てきた時には、あ~この役かって思いました。ラッセルクロウは途中で、三國シェフに見えてきてしまいましたが、雑念をはらって集中しました。自殺シーンでゴツンって息の根を留める終わり方でしたが、他の監督だったら、飛び降りシーンと、川の流れだけで、死んだのか?生き延びるのか??と考えさせる演出もしたのでは・・と思っていました。 それにしてもヒュージャックマンの演技力には脱帽です。マッチョになったり頬がこけたりとウエイトコントロールは凄いです。僕も1億だけでも、もらえたら、真面目にダイエットします(^^ゞ

投稿: マイク | 2013年11月25日 (月) 13時41分

マイクさんこんにちは。

もうあのラストシーンは舞台を超えたと思いました。ネタばれになりますけど、ネット上ではエポニーヌがあの場にいないのは格下げじゃないかと思った人が多いみたいですが、私はむしろあっちにいさせてあげた監督に敬意を表しますね。

投稿: ヤボオ | 2013年11月26日 (火) 23時45分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/98342/56478096

この記事へのトラックバック一覧です: 映画「レ・ミゼラブル」は「アマデウス」以来の傑作だ:

» 『レ・ミゼラブル』 [みかん星人の幻覚]
1862年に『レ・ミゼラブル』を書き上げた文豪ユーゴーは、その売れ行きが気になり [続きを読む]

受信: 2013年1月11日 (金) 00時26分

« ニューヨーク2012のまとめ | トップページ | 宝塚花組「オーシャンズ11」@宝塚大劇場 蘭寿とむのカリスマ性がヤバい »