劇団☆新感線「シレンとラギ」
作・中島かずき 演出・いのうえひでのり
ラギ | 藤原竜也 |
シレン | 永作博美 |
ゴダイ大師 | 高橋克実 |
ギセン将軍 | 三宅弘城 |
シンデン | 北村有起哉 |
ミサギ | 石橋杏奈 |
ダイナン | 橋本じゅん |
モンレイ | 高田聖子 |
モロナオ執権 | 粟根まこと |
キョウゴク | 古田新太 |
ショウニン | 右近健一 |
ヒトイヌオ | 河野まさと |
ギチョク | 逆木圭一郎 |
トウコ | 村木よし子 |
アカマ | インディ高橋 |
ヨリコ | 山本カナコ |
コシカケ | 礒野慎吾 |
モロヤス | 吉田メタル |
マシキ | 中谷さとみ |
セモタレ | 保坂エマ |
ヤマナ | 村木 仁 |
トキ | 川原正嗣 |
北の王国の貴族・宮女/ 南の王国の民・教団員 |
上田亜希優子、須水裕子、中野真那、 西田奈津美、松尾杏音、吉野有美 |
北の王国の貴族・兵士/ 南の王国の民・兵士・教団員 |
蛯名考一、小林賢治、桜田航成、 二宮敦、武田浩二、藤家剛、加藤学、 川島弘之、安田桃太郎、伊藤教人、 菊地推人、南誉士広 |
お久しぶりの新感線。昨年の「髑髏城の七人」(小栗旬主演)はそりゃもう見たかったわけだが、チケットを確保していたにもかかわらず行くことができなかった。今回もいったん行けなくなったが、別の日程で買い直して無事観劇。
今回は藤原竜也、永作博美という2人の客演によるダブル主演。気合の入り方が伝わってくるキャスティングだ。
舞台の藤原はこれまた数年ぶり。相変わらず素晴らしい存在感だ。テレビや映画で見ているととても舞台向きには見えないのだけれど、なぜか舞台でまばゆいばかりの輝きを見せる。こういう人がいる限り、日本の演劇もまだまだ捨てたものではない。
永作の舞台は初めて。最近演技力に磨きがかかってきたが、俺にとってはやっぱり「ribbonの子」だ。そのribbonが新感線の舞台に出演したのは1993年の「Timeslip 黄金丸」。俺が新感線を見始めたのは94年なので、間に合わなかった。
藤原は蜷川仕込みの狂気さをケレン味たっぷりに、一方で永作は「伝説の殺し屋」をあくまで普通の女性として演じる。この2人の対象的な演技が絡み合う面白さは、実にぜいたくな味わいである。
もう一人、高橋克実の客演も実に生きている。離風霊船の出身だから舞台での実力はあるのだろうと思っていたが、これは想像以上。鬼気迫る圧倒的な迫力で巨大な青山劇場を実に演劇的な空間に変えていた。
「いのうえ歌舞伎」は、2005年の「吉原御免状」以降、「いのうえ歌舞伎第二章」として、それまでの何でもアリのド派手な娯楽作品から、様々な方向性を試しつつ人間ドラマを重視するものに変わってきている。しかし、今回の作品を観て感じたが「第二章」はその長い旅路を終え、次第に「第一章」に戻りつつあるのではないか。人間ドラマをきっちり描ける実力を持った人たちが作る単純な娯楽作品ほど面白いものはない。「いのうえ歌舞伎第三章」の誕生はもうすぐそこまで来ているのではないか。
「シレンとラギ」の登場人物たちはみな、濃い陰を抱えながらしぶとく人生を渡っている。そんなクセ者どもが、中島かずきの真骨頂である裏切りと信頼のらせん構造の中で実にイキイキと殺し合いを演じている。それぞれの陰影は、エンターテインメントの光の中でうすぼんやりとしたものに見える。だが目をこらしてみるとその陰影がくっきりと読み取れる。この多重構造は、いのうえ歌舞伎、そして劇団☆新感線ならではのものであり、商業演劇と小劇場の2つの文化が盛りたててきた日本演劇界を象徴するものでもある。
さらに、今回のストーリーには、藤原竜也を迎えたからだろうか、シェイクスピアへのオマージュが随所に見てとれる。そしてそれが消化不良にならず、いのうえ歌舞伎の雰囲気に溶け込んでいる。「メタルマクベス」はじめ、新感線、いのうえひでのりもシェイクスピアとさまざまな局面でかかわって来た。だからそんな芸当も可能なのだ。
ちょっと面白かったのは、この舞台の世界観だ。日本のいつかの時代の話のようにも見えるが、そうでないようにも見える。大河ドラマ「平清盛」では、皇室を「王家」と呼称して話題を呼んだが、その賛否はともかく、そうすると明らかに日本の話なのに、どこか異国の話のようにも感じ取れることが分かった。「シレンとラギ」はその手法をうまく活用している。
7年ごとの節目で上演される「髑髏城の七人」を昨年見逃したのは悔やまれるが、予定どおりに行けば来年は3年ごとに上演される「ネタもの」の年。前回の「鋼鉄番長」は主演の橋本じゅんはじめ怪我人続出で一時公演中止に見舞われたが、その前の「犬顔家の一族」は死ぬほど面白かった。2作品ともDVD化されていないのが全くもって悲しい。「犬顔家」は歴史に残るバカバカしさで、ぜひ多くの人に見てもらいたいのだが――。
そうそう、アンサンブルに上田亜希子がいた。四季を卒業してから地味に活躍しているが、こういう実力ある人がもっと前面に出る機会が増えれば、日本の演劇がもっと面白くがなるのに!
あと、どうも自分が観た回を、松井玲奈が観ていたようだ。それに気付かなかったとは、何たる不覚。仕事以外の時はもっと神経を研ぎ澄ませておこう、と心に誓った。
劇団☆新感線「シレンとラギ」公式サイト
http://www.shiren-to-ragi.com/
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
エディプス系が苦手なんですが、作品の力で最後まで集中して観ることが出来ました。
永作ちゃんの舞台は井上ひさしの「雨」に続き2度目で、その時もイイ女優じゃんって思いましたが、シレンの最後のセリフにスゲー女優になったなぁと思っちゃいました
投稿: | 2012年6月19日 (火) 20時05分
↑名前入れるの、忘れちゃいました
投稿: の。の | 2012年6月19日 (火) 20時06分
の。のさんこんにちは。
ご覧になりましたか!
相変わらずそれぞれの登場人物に見せ場を作ろうとするので長くなってますが、今回はあまり長さを感じませんでした。なかなかの完成度では?と思います。でも、基本的にはネタものが好きです。
投稿: ヤボオ | 2012年6月20日 (水) 23時21分