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2010年11月 3日 (水)

北区つかこうへい劇団「飛龍伝」

つかこうへい永眠後、初めて迎える北区つかこうへい劇団の本公演。その演目が「飛龍伝」になると聞いたときは嬉しかった。「熱海殺人事件」と並び自分の好きな作品だからだ。もし、数年に一度しか登場しないこの作品がもっと頻繁に上演されれば、「熱海」を大きく上回り、自分の最も好きな作品と言えるようになるのかもしれない。

今年、黒木メイサ主演で上演された「ラストプリンセス」は観ていないため、この作品を劇場で観るのは2003年の広末涼子版以来。その前に観たのが1994年の石田ひかり版。考えたら、俺この作品観るのまだ3回目じゃないか。しかし、そのセリフひとつひとつまでが強烈に印象に残っており、タイトルを聞くだけで軽い興奮を覚える。そのぐらい「飛龍伝」は特別な存在だ。

日本中が熱かった安保闘争の日々。そのさ中に出会った、全共闘委員長・神林美智子と機動隊隊長・山崎一平の壮絶な恋の行く末を軸に、若者たちの熱い心を描きだす群像劇、それが「飛龍伝」である。

一時の活動休止ののち、演劇を再開したつかこうへいが「初級革命講座飛龍伝(1973年)」を大幅に改稿し、1990年に上演した「飛龍伝’90 殺戮の秋」。以来、山崎一平は一貫して筧利夫が演じてきた。飛龍伝の山崎といったら、筧そのものだった。

しかし、今回は北区つかこうへい劇団の団員のみによる上演である。筧も、有名女優もいない。その飛龍伝がどう自分の目に映るのか。そしてこれからの北区つかこうへい劇団はどうなるのか。興味を持って初日の舞台に足を運んだ。

先日もNHKの番組で取り上げられるなどこの公演に対する注目度は高く、チケットは売り切れの盛況ぶりだ。初日とあって関係者の顔もちらほら。広末版で高崎俳句大学の学生活動家を演じていた及川以造の姿もあった。

そして開幕。

休憩なしの2時間半。

終演。

感想は――

素晴らしかった。

初めて、本当の飛龍伝を観た気がした。

山崎一平を演じる筧利夫の演技は、神業と言っていいすさまじいものだった。それ無しで、はたして飛龍伝の魅力を感じられるか疑問だったが、これはその問題意識自体が大間違いだったことに気付いた。

筧の山崎は確かにすさまじい。しかし、それは飛龍伝という作品自体のすさまじさとは全く別のものだったのだ。これまで、筧はその演技力と存在感によって、飛龍伝の強烈すぎる刺激から、観客を守ってくれるフィルターの役を果たしてくれていたのだ。

その筧が今回はいない。観客を守るものがない。その結果、「飛龍伝」に直接さらされることになった。直射日光をもろに浴びるどころか、太陽を直視するような、人間の許容能力を超えたエネルギー。真の感動とは、それほどの刺激を受けたときに生じるものだということを、今日自分は学んだ。これに比べれば、ふだん「感動した」「泣けた」と言っているレベルの感動など、もはやゴミ同然である。

そう、ゴミだ。自分の全存在を掛けた行動を伴わない思想も、理想も、恋愛も、青春も、結婚も。飛龍伝は圧倒的な説得力で、そう語りかけてくる。そのセリフ一言一言が、なかなか一歩踏み出せずにただ漫然と年を食っているだけの、リアルな社会を生きる人間の心にいちいち深く突き刺さる。

これが飛龍伝だったのか。自分が、たった2回しか観たことのないこの作品になぜこんなにも惹かれるのか、少し分かった気がする。同時に、この作品が好きでいたことを、誇りに思う。

もうひとつの関心事項だった、北区つかこうへい劇団の行く末。北区がつかこうへいなきあと、今後この劇団をどう支えていくのかは、今回の公演が大きく影響するように思う。行政判断だから、その地域に住んでいない自分の言えることではないが、あえて言おうじゃないか。今回の公演を観て、この劇団を投げ出すような判断をするなら、その見識を疑う。

つかこうへいは逝った。しかし、その精神はかなりの濃度で凝縮され、彼ら北区つかこうへい劇団の団員たちの中に宿っている。劇団としてのまとまりもある。飛龍伝は群像劇という側面があることを、今回の公演で強く感じた。それは、団員たちの結束がなせる技だった。そう考えると、今回の公演に飛龍伝を選んだのは大正解だったと言える。

今回の公演が北区にどう評価されるかは分からないが、それがかんばしいものであったとしても、今後常に厳しい波風にさらされていくことになるだろう。頑張ってほしい。自分は観に行くことしかできないが、応援したい。

だが試練を受けているのは彼らだけではない。つかこうへいという存在を失った、日本の演劇界自体が試されているのだ。そこでもまた、自分は観ることしかできない。それがわずかでも演劇界に貢献していくことだと信じて、これからも全力で多くの舞台を観ていきたい。

北区つかこうへい劇団のホームページ
http://www.tsuka.co.jp/

 

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