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2009年12月25日 (金)

石丸幹二&白井晃「兵士の物語」

四季退団後の石丸幹二の活動は知っていたが、なかなか観る機会を得られなかった。それが、年の瀬も押し迫った12月25日にようやくかなうことに。白井晃演出、ストラヴィンスキーによる音楽劇をベースにした「兵士の物語」だ。

これは今年はじめに上演された「イノック・アーデン」同様、「言葉と音楽のシリーズ」と銘打たれた、基本的には朗読劇だ。登場人物は石丸幹二のみ。大きな本を片手に、朗読と演技の中間を行くようなパフォーマンスを1時間15分にわたり繰り広げる。音楽劇がベースだが石丸が歌うことはない。ピアノと、パーカッションの音楽が朗読と効果的に交じり合い、独特の空気感を生み出していく。

物語は、休暇で故郷に帰ってきた兵士が悪魔と出会い、自分の心の象徴であるバイオリンを悪魔に渡す場面から始まる。ひきかえに手にした幸福、そこから感じる虚無感、悪魔との確執、勝利、敗北――を淡々と描いていく、という暗示に満ちたストーリー展開だ。

とにかく石丸幹二の体全身から発せられているように聞こえる「言葉」が圧倒的だ。声楽家として鍛えられた声、四季で学んだであろう発声法、石丸自身の演技、白井晃の演出、とさまざまな要素がミルフィーユ式に積み重ねられ、その上に「音楽」が絶妙のバランスで加わる。すべての言葉に、そうしたリッチな情報が高密度に圧縮されていることから生じるパワーはすさまじい。しかし、その圧縮の仕方は力任せのものではなく、極めて繊細で、それこそパティシエの技のようなデリケートで緻密な技巧に満ちている。

この至高の言葉を浴びるように聞いているうちに、恍惚とした快感に襲われてくる。そんな魅力を秘めた舞台だ。

役者としての白井晃は「オケピ!」はじめ何度も目にしているが(俺は初演も再演も青山劇場に足を運んでいるので、彼のサックスもコンダクターも見ている。自慢)、その演出は初めて目にした。何とも細やかな演出で、彼のほかの作品もぜひ見たいと感じた。

また、こうして自分のアーティストとしての原点を見つめ、その基礎を磨き上げながら新境地にチャレンジしている石丸幹二。そうして力を蓄えた彼を、またグランドミュージカルの舞台で見たいものだ。やはりバルジャンか、ジャベールか。いやいやトート様でも!

とにかく、石丸幹二と白井晃の舞台に対する真摯な姿勢が300%感じられる舞台である。だからあえて言うが、真面目すぎるほどの舞台なので、それなりの覚悟をして臨んだほうがいい。エンターテインメントの要素はほとんどない。

だが、そんな生真面目な舞台なのに、観客の側も1時間15分、集中力を切らさずに見ることができる。作品の力、役者と演出家の技がそれを支えるのだ。

自分が見たのは初日で、このあと28日まで計6回の公演が東京であり、そのあと大阪公演が控える。やはり固い舞台はこの不景気では敬遠されるのか、当日券も出ているようだ。こういう時代だからこそ、逆に硬派な舞台で自分の感覚を研ぎ澄ますのもいいかもしれない。

「兵士の物語」ウェブサイト

http://www.heishi.jp/

今回の会場は、イッセー尾形の「わたしの大手町」同様、大手町の日経ホール。職場からとっても近い。大手町でイッセー尾形や石丸幹二が見られるなんて、いい時代になったものだ。

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2009年12月24日 (木)

メリークリスマス!

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今年のお相手はマリちゃんつうことで。

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2009年12月20日 (日)

北区つかこうへい劇団・尋 由帆一人芝居「蒲田行進曲~小夏の青春~」

※ネタばれします。

東京都北区とつかこうへい先生がタッグを組んだ「北区つかこうへい劇団」が誕生したのは1994年。ちょうど自分がつかこうへいにはまり出したのはこのころなので、つかファンとしては自分はかなりの新参である。

当時、つか先生は両国の「シアターX(カイ)」で「熱海殺人事件」の連続上演を行っており、そこでさまざまな同作品の亜種が生まれた。そのうちのひとつが阿部寛を役者として開眼させた「モンテカルロ・イリュージョン」である。自分は劇団四季や東宝のグランドミュージカルから舞台に入り、つかの影響で芝居を見始め、それが新感線によって加速していった。自分にとってつか作品は特別な存在である。

人の強さ、弱さ、悲しさ、おかしさ、残酷さ、暖かさ、とにかくすべての要素をMAX値で盛り込み、それを血の通ったセリフの数々で観客にたたきつけてくる。その迫力は観た者にしか分からない。しかし決して敷居が高いわけではなく、くだらないギャグも存分に盛り込まれ、飽きさせることなく物語は進んでいく。そしてどんなに悲しい結末であっても、劇場の外に出たとき、明日に向かって歩きだせるよう、前向きな気持ちにさせてくれる。それがつか作品だ。

つか作品を劇場で観るのはちょっと久しぶりで、3年前の紀伊國屋ホール公演「売春捜査官」以来。そして北区つかこうへい劇団のホームグラウンドである「北とぴあ」に来るのは、1998年の石原良純(当時彼は北区つかこうへい劇団に在籍)主演、「熱海殺人事件最終バージョン・サイコパス~木村伝兵衛の自殺~」のとき以来だ。

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前置きが長くなったが、実に10年ぶり以上の月日を経てここにやってきたのは、つか先生が新たに書き下ろしたという「蒲田行進曲~小夏の青春~」を観るためだ。

かの有名な「蒲田行進曲」を、ヒロイン・小夏の視点から描き、しかもそれを一人語りで演じるという、なんとも興味深い取り組みだ。

演出・主演は大分つかこうへい劇団出身で、現在は北区つかこうへい劇団に所属する新進の女優、尋 由帆(じん よしほ)である。

会場は北とぴあに先月新しくオープンした「ペガサスホール」。ホールというよりライブスペースのような感じで、ビルの1フロアを改造したものだから天井は低い。面積は秋葉原48シアターと同じぐらい。そこに簡易座席やパイプ椅子などを無造作に並べている。全体で50席ぐらいだろうか?

全席自由で、入場料は500円。何ともふるった値段設定だ。同じつか作品でも、青山劇場など大きな箱で、大手のプロダクションが主催する場合はそうはいかないが、基本つか先生は芝居で高い金を取ることはあまりしたくないようだ。シアターXの熱海殺人事件も1500円とかそんな感じだった。しかし今どき500円とは、もうこの段階からつかの世界観は始まっているといっていい。

そしてつか作品らしいエンターテインメントなオープニングからスタート。ああつかの舞台だと嬉しくなってくる。

尋由帆は、まだ若いが演技に力があり、かつて「蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く」で小夏を演じた平栗あつみをほうふつとさせる。平栗あつみはシュッとした美人さんだが、尋由帆は丸顔でちょっとかわいい感じだ。

小夏の視点で、銀ちゃんとの出会いやヤスとの生活など、「蒲田行進曲」で描かれているエピソード、描かれていないエピソードが織り交ぜられながら展開する。基本的に「蒲田行進曲」の物語を知っていることが前提になっているが、知らなくても大丈夫なように配慮はされている。

そして、あの「階段落ち」と出産のあと、小夏は自分の中に眠っていた「映画女優」の本能に目覚める――。銀ちゃんへの一途な想いと、ヤスからの想われる喜び。それらの結晶として、子供を世に産み落とした瞬間から、純粋に女優として歩き始めるのである。その力強い眼差しにははっとさせられる。

銀ちゃんやヤスとの思い出を綴りながら、実は小夏の「女優魂」はちらちらと覗いている。特に、銀ちゃんの話をするときには、その瞳の奥に、銀ちゃん自身というよりも、銀ちゃんがスターであることへの憧れが見え隠れしている。そしてヤスの話をするときには、撮影現場の生々しい空気感に官能的な喜びを覚えているのが垣間見える。

ただ、どうしてもチャーミングな女優さんなので、観客には銀ちゃんへの想いが強く感じられてしまう。もう少しヤスとの日々に見出している喜びを感じさせたほうが、最後の「銀ちゃんでもなく、ヤスでもなく」という決断をすっきり受け入れられるかもしれない。

たった3日間、5回の公演だが、ぜひ再演を期待したい佳作だ。尋由帆の熱演ぶりにはすっかり魅せられてしまったので、今後の活躍にも注目していきたい。

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北区つかこうへい劇団のホームページ
http://www.tsuka.co.jp/

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ペガサスホールは15階にあるので、ロビーからは王子の街が一望できる。

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