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2009年11月 8日 (日)

AKB歌劇団「∞・Infinity」

AKB48と広井王子がタッグを組んだ、その名も「AKB歌劇団」。東京ドームシティ・シアターGロッソを舞台に約10日間ほどの公演が行われ、8日、千秋楽を迎えた。

この企画はかなり早い段階で発表されており、楽しみにしていた。広井王子といえば、ゲーム「サクラ大戦」の生みの親である。恋愛シミュレーションと戦略シミュレーションを融合させた画期的なゲームシステムには俺も見事にはまった。藤島康介のキャラクターやあかほりさとるの脚本、そして田中公平の音楽もそれぞれ絶妙で、斬新さと完成度の高さを兼ね備えた、ゲームの域を超えた素晴らしいエンターテインメントだった。その後サクラ大戦は広井自身の手で「サクラ大戦歌謡ショウ」として舞台化もされた。いろいろなインタビューを読むと、彼の舞台への思いはかなり熱いもので、そしてそこから新しいエンターテインメントを生み出そうとしている姿勢には、かねがね共感していた。これは面白くなりそうだ、と直感した。

しかしその企画発表あたりからAKB人気が急上昇してきたこともあり、なかなか実現されなかった。広井王子のブログを読むと、かなりのすったもんだもあったようだ。ともあれ、こうして公演ができたことはめでたい。

250年の時を経て再会した、バンパイア・ルカとその恋人の魂が転生した女子高生・麻里亜。ルカとの記憶は失っていた麻里亜だったが、次第にその愛を取り戻す。しかし、自らもバンパイアとなってルカと共に永遠を生きることには、家族やクラスメートたちを思いためらう麻里亜。そして、ルカの命を狙うバンパイアハンターの影が2人に忍び寄る――。

こう見ると、とてもありきたりな話のように思える。実際、ラストシーンまではしごく平凡な展開である。だが、クライマックスで交わされるルカと麻里亜のやりとりに愕然とする。再演もあるかもしれないし、恐らく発売されるであろうDVDで観る人もいるかもしれないから詳しくは書かないが、ここで初めて、観客はこの演劇のタイトル「∞・Infinity」の意味を知る。なんとなく物語の設定としか考えていなかった、250年の重みを感じ取り、そして目の前で展開している物語が、250年に留まらない、無限の時間の流れの中の一コマを切り取ったものに過ぎないと気付かされる。この衝撃はすさまじい。広井王子の面目躍如である。

そして確かにラストまでの展開は平凡だが、そこにはこれでもかというぐらい、AKBのナンバーが盛り込まれ、楽しませてくれる。短い公演時間ながら「歌と芝居の歌謡ショー」の構成になっているのだ。前半はAKBのナンバーを楽しみ、クライマックスではその演技に心を打たれる。

曲の使い方もいい。広井自身のセレクトによるものだというが、彼はその構成にあたり「マンマ・ミーア!」のようなカタログ・ミュージカルの手法を意識したという。ファンならより楽しいが、そうでなくても楽しむことができる、というのがその鉄則だ。そのルールは見事に守られていた。

クライマックス以外では、冒頭の病室のシーンが印象的だ。ベッドに横たわる麻里亜の傍らにそっとたたずむルカ。その光景はまるで「ガラスの仮面」で、北島マヤを陰謀に陥れた乙部のりえを、姫川亜弓がコテンパンにやっつけた「カーミラの肖像」のオープニングのようだ。

これ↓

Kamira

そういえば、このシーンで姫川亜弓演じる吸血鬼にキスされる少女の名もマリア。そしてその吸血鬼の名前はミラルカ。吸血鬼でありながら、どこか物悲しく、観客の同情を集めるというそのキャラクターといい、共通する部分が多い。偶然かもしれないが、偶然でないとしても、別にストーリーをパクっているわけではない。広井王子がこっそり脚本に忍ばせた隠しコマンドのようなものだろう。

さらに、ルカのキャラクターはどこか「エリザベート」のトート閣下とダブる。立場を超えて純粋な愛を貫こうとしながら、実に不器用で、スネたり苛立ったりと感情を隠さないあたりが、だ。

マンマ・ミーア!にエリザベートにガラスの仮面。故意にせよ偶然にせよ、次々とさまざまな舞台を連想させるところからも、広井王子の舞台への愛情が伝わってくるというものだ。

さて、この舞台の配役はダブルキャスト。ルカと麻里亜は秋元才加・高橋みなみペアと、宮澤佐江・柏木由紀ペアによって演じられる。自分が行った日はマチネ宮澤・柏木ペアで、ソワレ秋元・高橋ペア。で、両方観てきたわけだ。

2公演を見比べ、どちらが良かったかと言われればこれはもう、確実に秋元・高橋ペアである。

先に宮澤・柏木ペアを見たが、もちろん悪くはない。宮澤演じるルカは実にキュートで、少年のあどけなさ、純真さを全身から感じさせる。そして柏木の麻里亜は演技が実に自然で、本当にどこにでもいる女子高生(実際にはこんなカワイイ女子高生はそんなにいない)が、大きな事件に巻き込まれているように見えて、ハラハラしてくる。

だが何というのだろう、どうしてもアイドルのイベント、という枠を脱しきれなかった印象がある。「歌と芝居の歌謡ショー」としては百点満点の出来だから、AKBファンとしては全く不満はない。素晴らしいと思う。しかし、ミュージカルファンとしては、やや物足りない印象が残る。もちろん、それが望み過ぎだということは分かっている。

しかし、秋元・高橋ペアは違う。アイドルのイベント、という枠を、のっけから軽々と超えてしまった。細かい演技力で言ったら、このペアが宮澤・柏木ペアより勝っているとは必ずしも言えない。しかし、演技力というより、「芝居力」とでもいうべきものが、この2人にはある。秋元も高橋も、役の雰囲気を色濃く伝える独特の空気感を持っているのだ。そしてその2人が交わるとき、圧倒的な「芝居感」があのだだっ広いGロッソのステージを埋め尽くす。冒頭の病室のシーンから、まさに視線がクギづけである。

秋元のけれん味あふれる演技は、見ていて楽しく、ちっとも嫌味にならない。これは秋元のキャラクターのなせる業だ。宮澤のルカを東宝版エリザベートの初演に例えるなら内野聖陽のトート閣下であるのに対し、秋元ルカは完璧に山口祐一郎トート。スケールの大きさと、傲慢ながら憎めない雰囲気がソックリである。

高橋みなみは、いつもの「たかみな」を完全に封印。吸血鬼との突然の出会いに戸惑い、次第に心を奪われていく少女を危うさたっぷりに演じる。押えても押えきれない、周囲の人たちをみな元気にしてしまう、ポジティブすぎるたかみなオーラを無理やり押さえ込んだことで、ちょっとした刺激にもはじけ飛んでしまいそうなデンジャラスな雰囲気が図らずも生み出されていたのが面白かった。

主役以外のメンバーは全公演シングルキャストで出演を果たした。出番は多くはないが、みな頑張って個性を発揮していたように思う。ダンス部のキレ者上級生を演じた米沢瑠美が特に光っていた。また、ルカに仕えるメイドを演じた仲谷明香と田名部生来が実に良かった。二人ともチームBではちょっと微妙な立ち位置にいるが、こういうコスプレっぽい衣装が実に映える。

一方で、もったいないと思ったのが、広井王子がブログで吐露しているように、製作費の少なさが舞台にありありとにじみ出てしまった点だ。あまりにもしょぼい舞台セットを、音を立ててガラガラとスタッフが動かしているのはあまりにも興ざめである。また、準備期間の短さも作品に大きく影響している。もっと時間をかけられれば、物語の構成を含め、もっと面白いものになったに違いない。これは、広井王子自身が最も歯がゆく感じているところだろう。

もし、十分な製作費と時間があったなら、2006年の「リボンの騎士 ザ・ミュージカル」を超えるステージ・エンターテインメントの誕生になったかもしれない、と思うと、いっそう残念さが増してくる。ぜひ、広井王子にはこれに懲りず、またAKB歌劇団をプロデュースしてほしいものだ。そのときにはもちろん、AKB側もきっちり協力体制を取ってくれることが必須となる。今回のように、稽古時間はおろか、チケットを発売した本公演まで「スケジュールの都合で」キャンセルして払い戻す、なんていう、前代未聞の不祥事をしでかすようでは甚だ心もとない。これについては秋元康に猛省を求めたいところだ。

終演後、メンバーたちは劇場出口で観客ひとりひとりに写真を渡して見送る。主役のところには当然長い列ができるので、マチネ終了時にはそれ以外のキャストのところに並ぼう、と思い迷わず内田眞由美のところに。ソワレももう一度うっちーのところに行こうと思っていたが、あの演技を見てしまったら秋元才加のもとに駆け寄らずにはいられない。こちらの言葉にきちんと反応して、ハイテンションで応じてくれるさやかは本当にナイスガイ、じゃなかった、最高のレディーである。

公式サイト内 AKB歌劇団のページ
http://www.akb48.co.jp/akb48_kagekidan/index.html

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コメント

こんにちは。「レベッカ」観劇記事にコメントさせていただいた末吉です。
明日の「いいとも!」テレフォンゲストにAKB48の皆さんが出られるそうです。
ヤブオさんならもう既にご承知かと思いましたが
TVを観ていて、ヤブオさんの事が浮かんだのでコメントしてみました。

どこに書き込んだらいいかな?と思っていたのですが
最新記事がAKB関係だったし、偶然にも山口さんの名前もあったのでこちらに書いてみました~(o^-^o)

投稿: 末吉 | 2009年11月11日 (水) 13時26分

末吉さんこんにちは。おひさしぶりです。

いったい誰が出るのか?何人出てくるのか?ちょっと楽しみではあります。まあ個人的にはメディアでの仕事よりも、ライブ活動を重視してほしいところですが。

投稿: ヤブオ | 2009年11月12日 (木) 00時27分

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