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2009年9月13日 (日)

四季「南十字星」夢子のリナが秋で舞う 

保科 勲 阿久津陽一郎
リナ・ニングラット 秋 夢子
島村中将 田代隆秀
原田大尉 鈴木 周
塚本少尉 前田貞一郎
ニングラット博士 池田英治
ルアット・ニングラット 内田 圭
ニルワン 藤川和彦
キキ 山中由貴
オットー・ウィンクラー 吉賀陶馬ワイス
原田春子 都築香弥子
岡野教授 維田修二

南十字星の初日に足を運ぶ。この作品、かなり久しぶりだ。どのくらい久しぶりかというと・・・初演の初日以来だ。実に5年ぶりとなる。

別に避けていたわけではないが、キャストもほぼ固定で、また観よう、という誘因がなかったのだ。

5年前に見たとき、作品全体には好印象を持ったが、荒削りな部分が多いのと、エンターテインメント性をもっと出したほうがいいのでは、と感じた。その印象は、5年たって再見しても、あまり変わらない。多少の変更はあったように思うし、気のせいかテンポが良く感じたが、ほとんど変化はないといっていい。

そもそも、この作品はあくまでメッセージを伝えることが第一であり、演出やエンターテインメントは二の次、という考えもあるかもしれない。しかし、本当にそうだろうか?

自分は、「昭和の三部作」の上演自体には反対ではない。もし、四季が8月は毎年、輸入物のミュージカルの上演をいっさいやめて、徹底して昭和の三部作を上演する、と言っても、それはそれでありだろうと思う。シベリア抑留やBC級戦犯の話は、近年また語られる機会が増えているように思うが、これらは確かに未来へ語り継がなくてはいけない記憶だ。そして、四季はそれをミュージカルというエンターテインメントの形を取ってなしえようとしている。

さればこそ、もっとエンターテインメントとしての完成度を上げてほしいのである。「李香蘭」はある程度出来上がっているように思うが、「異国の丘」「南十字星」は、もっともっと磨き上げる必要がある、いや磨き上げればもっと上質のエンターテインメントになるはずだ。上演時間も短くていい。それでは戦争の記憶を言い尽くせないというかもしれないが、2時間40分が5時間30分になったところで、語り尽くせるものでもあるまい。何となく楽しいから、あるいは楽しそうだから観よう、という観客が増え、そうした人たちが自然に戦争の記憶を共有するようになるのが理想ではないかと思う。その人がどう感じるか、興味を持って自ら詳しいことを調べたり、折に触れて思い出したりするかどうか、それは観た側の問題だ。

さて、この日、長く固定されてきたキャストに変更があった。主人公・保科勲は阿久津陽一郎のままだが、ヒロインのリナ・ニングラットに秋夢子が起用された。

中国出身の美人シンガー、秋夢子はCATSのジェリーロラムでおなじみ。自分も好きな女優さんだが、「アイーダ」は日本語のセリフの発音がおぼつかないことを差し置いても、やや期待はずれだった。

しかし、今回のリナ役の起用は大正解だ。

歌のうまさは言うまでもない。そして何度も言うけど、とにかく美人。最初、かすりの着物で登場したときは思わず膝を打った。

これまで樋口麻美がずっとリナを演じてきたわけだが、麻美リナに比べると、夢子リナはちょっとアダルトなムード。テレビ東京の旅行番組に出てくる美人若女将みたいな雰囲気だ。だがそれがいい。

特に、二幕でリナらが独立運動を始めたあたりから、ぐんと良くなる。リナのインドネシア人としての誇り、同胞たちと共に戦おうとする覚悟がびりびり伝わってくる。麻美リナだと、保科への好き好きビームの熱量が多すぎて、ラストがどうも保科を想うリナと、自分の信じた道を歩む保科、というややすれ違いな結末に思える。しかし夢子リナの場合、保科もリナも、互いに信じるところを貫き通し、日本やインドネシアという国を超え、共に人類の長い歴史を紡いでいくこうとしているように見える。そこで2人は恋人として、同士として、そして同じ人類として、強く、固く結びついているのである。

夢子リナは、強いのだ。それがいい方向に作用している。思えばそれが悪い方向に作用したのがアイーダだった。アイーダは、王女としての誇りを常に身にまといながらも、どこか弱さがあり、それがアイーダという人物の魅力になっている(アムネリスは、弱そうに見えて最後は王女としての立場に目覚める。この2人は対称的なのだ)。しかし夢子アイーダは強すぎて、その弱さを表現しきれていなかった。だから物足りなかったのだろう。

阿久津の保科は、ますます役と俳優が一体化しているようで、四季特有の発声法ながらセリフやものごしが実に自然だ。まあ最初のシーンの詰襟学生服姿とカツラは思いっきり不自然だが。あとカーテンコールのにやけた表情もな。でも、この保科の優しく力強く、そしてすがすがしい生きる姿勢を見事に演じていることは、もっと賞賛されていいと思う。

ほかの役にも、春のめざめで若者を叱り飛ばしていた大人の男性・大人の女性がそのままスライドしてきていたり、アンサンブルにも坂本剛や菊地正、荒木美保に田村圭といった濃いメンバーが顔をそろえており、なかなかの見応えだ。この日「おっ」と思ったのは、内田圭のルワット。前回見たとき、この役は藤川ニルワンの怪演に目を奪われてあまり印象が残らなかったが、内田ルワットは、「エビータ」のマガルディで見せたような甘いマスクとボイスを完全に封印し、力強く、血気さかんな独立運動の闘士を熱く演じていた。

ミーハー視点で見ても十分面白いものになってこそ、この作品の存在価値はあるだろう。そしてさらに洗練させていけば、国境を越えて愛される作品になるかもしれない。ぜひその日を目指して、四季はこの作品を勇気を持って変えていってほしいと思う。

「南十字星」のホームページ
http://www.shiki.gr.jp/applause/minami/index.html

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コメント

沖縄楽しまれていますか?
行きたいと思いつつ、飛行機が苦手で、まだ果たせずにいます。

南十字星観てきました。
去年観て、一度でいいかなと思いましたが、秋さんに惹かれて行ってきました。よかったです。阿久津さんの保科とのバランスがいい気がします(歌は秋さんがリードしてるかも)


南十字星はミュージカルにしては、歌が少ないですよね。
李香蘭の川島芳子のように岡野教授に歌ってもらってはどうでしょう?

投稿: 千尋 | 2009年9月20日 (日) 18時42分

千尋さんこんにちは。

確かに!この作品、エンターテイメント性を重視する姿勢は感じられるんですが、歌が少ないですね。

短期間で作ったために、どうも未完成な印象が残ります。上演のたび、ブラッシュアップしてほしいです。

投稿: ヤボオ | 2009年9月21日 (月) 10時24分

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