「RENT」ブロードウェイ・ツアー
「ウェストサイド物語」「コーラスライン」に続き、今月3本目の来日公演。もはやツアー公演に対するネガティブなイメージはなくなった。そこへ来て、この「RENT」ツアーは、オリジナル・キャストであるアダム・パスカルとアンソニー・ラップが出演するという。これはまた期待が持てそうだ、と赤坂ACTシアターへ。
恥ずかしながら、「RENT」を観るのはこれが初めて。過去にも何度か来日ツアー公演はあり、さらには日本人キャストの公演も行われていたのにもかかわらず、である。それよりなにより、自分が初めてニューヨークを訪れたのが96年末。まさにRENTがブロードウェーで大旋風を巻き起こした時期だった。だけど観なかった。「エイズをテーマにしたミュージカルだ」という間違いではないが正しくもない中途半端な情報だけで、敬遠してしまっていた。もっとも、自分はだいたいその年のトニー賞をとるような作品はパスする傾向が強い。2006年末にニューヨークに行ったときは「春のめざめ」を観てないし、昨年末のときは「ビリー・エリオット」を観てない。
この「RENT」は、特にオリジナル・キャストへのファンの思い入れが強い作品だと聞いていた。なるほど映画版でもこの2人、そしてRENTに続き「ウィキッド」のエルファバ役でその名声を不動のものにしたイディーナ・メンゼルらが参加している。そのオリジナル・キャストが来日するというのだから、この機会に観ない手はない。
そして、観劇後の感想。
すごかった。
俺はこんなものを13年も見逃していたのか。
後悔はないが、改めて世の中には自分の知らない素晴らしいエンターテインメントの世界が無限に広がっていることをひしひしと思い知らされた。
ボヘミアンなアーティストたちが巣食うアパートを舞台に、ゲイ、ドラッグ、HIVといった、およそ伝統的なブロードウェーでは正面から描かれることの少ないモチーフをギュウギュウに詰め込んで、魂で絶叫するように歌い上げるこの作品は、衝撃度と破壊力において他のミュージカルの追随を許さない。そんなことは言われんでも分かっている、と言われても、これは言わずにいられない。
序盤は、ただただ圧倒されているばかりだったが、ミミのソロあたりから、この作品の魅力にずっぽりと嵌まり込んでいた。そして、モーリーンのアバンギャルドなパフォーマンスで脳天を吹き飛ばされ、完全に降伏した。ラ・ヴィー・ボエームのシーンでは、頭の中が完全に空白になっていて、呆けるように見入っていた。後半は、登場人物たちの不安と悲しみに涙し、ラストではそれを超えたところに何が見えるのか、懸命に目を凝らそうとする自分がいた。
作者であるジョナサン・ラーソンが、プレビュー直前に死去したことは前に読んだことがあった。それがこの作品を一層「伝説」にしている、ということも聞いていた。確かに、この作品には作者の悲痛なまでの叫びと、生きとし生ける者への大きな愛情が満ち溢れている。神の域に達した作品は、その作者までをも飲み込んでしまうのだろうか?そう感じさせるだけの迫力がある。
作品内の時代設定は80年代末だが、この作品が公開された96年といえば、アメリカはとんでもない好景気に浮かれ、ニュー・エコノミー論なんていう世迷言がまかり通っていたころだ。加えて、ニューヨークではジュリアーノ市長の治安回復策が効果をあげ、街全体が明るく楽しい雰囲気に包まれていた。自分が訪れたのがホリデーシーズンだったこともあるが、ニューヨークといったら危険、というイメージしかなかった田舎者の自分は、あまりにも街がホンワカしていたので拍子抜けした記憶がある。そんな中で、若者たちの不安と絶望、そしてその超克を描いたアンダーグラウンドな青春群像劇が大ヒットしていたのは、実に興味深い事実だ。
これは観てよかった。負け惜しみで言えば、もしニューヨークで初めて見ていたなら、自分の英語力では内容がサッパリ分からなかっただろうから、日本で見たのは正解だったかもしれない。つうかいい加減英語マスターしろよ俺。この「ブロードウェイ・ツアー」は、米国内でスタートし、日本のあとは韓国で上演し、また米国に戻るという。この機会に米地方都市に訪れてみるのも一興か?ま、金はないが。
そうそう、「コーラスライン」リバイバル上演でコニー役を射止め、その模様が映画「ブロードウェイ・ブロードウェイ」で描かれている、沖縄出身の高良結香が、コーラスラインの来日公演に出ていなかったので残念がっていたら、こっちに出演していた。想像以上に小さな体で、想像以上に大きな存在感のすばらしい俳優だった。彼女は今も沖縄と米国の両方に拠点を置いて活動している。いつか、そのライブにも足を運んでみたいものだ。
「RENT」ブロードウェイ・ツアー公式サイト
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