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2009年5月 2日 (土)

四季「春のめざめ」初日 デブ男の歌がうますぎる

※かなりばれます。

ベンドラ 林 香純
マルタ 撫佐仁美
テーア 有村弥希子
アンナ 松田佑子
イルゼ 金平真弥
メルヒオール 柿澤勇人
モリッツ 三雲 肇
ハンシェン 一和洋輔
エルンスト 竹内一樹
ゲオルグ 白瀬英典
オットー 加藤 迪
大人の女性 中野今日子
大人の男性 志村 要
女性アンサンブル 玉石まどか、勝間千明
男性アンサンブル 伊藤綾祐、南 晶人

何かと物議を醸したい感ありありながら、いまいち醸し出せずにいるままで初日を迎えた「春のめざめ」。教育再生会議のメンバーとか、政治家に頼んで「上演中止要請」でも出させて論争にするとか、そういう猿芝居でもあればちょっと面白いのにな、と思っていたが、さすがにそんなことはできなかったか。

とにもかくにも、昨年末にあっちで観たとき、しまったもっと前から観とくんだったと歯ぎしりした快作が日本上陸だ。トニー賞独占とはいえ、およそファミリー層からは縁遠い「若者たちの性の目覚め」を描くロック・ミュージカルとあってさすがの四季もメガヒットにはならないと判断したか、自由劇場での公演というずいぶん控えめな選択をした。

この作品の魅力はスタイリッシュさ。その一言につきる。洗練された音楽と、意表を突いたパフォーマンスとがあいまって作り出す圧倒的なカッコ良さ。それが「春のめざめ」のすべてと言っていい。

自分のように音楽に詳しい人でなくても、この作品の音楽が魅力にあふれたものであることは分かる。ミュージカルの音楽の場合、ノリのいい曲、耳に残る旋律でなくても「イイ!」と素直に言えるケースは少ないからだ。いつのまにか繰り返し聞きたくなってしまう、蠱惑的なその響きは、何とも形容しがたい思春期の心情を見事に観客の中に再現してくれる。

そしてあちこちで伝えられているように、自分もエントリーでレポートしたが、極めて特徴的なマイクパフォーマンス。あえてハンドマイクやスタンドマイクなど、形としてのマイクを登場させ、その持ち方、取り出し方、渡し方で登場人物の心理状態を表現するという、誰でもやりそうなのに、誰も考え付かなかったという斬新な演出手法だ。

性の問題、自殺、同性愛、世代間対立といった重苦しい問題を描きながらも、音楽とパフォーマンスのパワーによってその重力部分を吹き飛ばしてしまい、後には何も残らない。あえて言えば、爽やかな観後感(そんな言葉あるんかいな)だけが観客の心に残るのだ。

だから、この作品はある意味、「感動させて」しまったら失敗なのだと思う。日本の観客の中には「泣ける」ことを期待して劇場に向かう人も多い。しかし、泣いてしまったら、この作品の真価を味わうことはできないのだ。

四季の実力なら、音楽やパフォーマンスをオリジナルどおりに再現することは十分にできるだろう。不安なのは、それが重さを吹き飛ばすほどの風力をもったカッコ良さに昇華できるかどうか、である。

期待半分、不安半分で自由劇場に到着。ロビーに入って、さっそくひとつ安心した。案内などのスタッフが、そろいの作品ロゴの入ったTシャツを着ていたからだ。実は、これはオリジナルの劇場でもやっていたことなのだ。ブロードウェーの劇場でスタッフがTシャツを着ていることは珍しく、それがまた実に決まっていた。ロゴもかっこいいからね。物腰も他の劇場とはちょっと違って、よりフレンドリーな印象だった。なんだかアップルストアのように、スタッフひとりひとりが作品の世界観、ブランドを体現しているのだ。「これは他の作品とは違うな」とまず感じた記憶がある。自由劇場のスタッフは、中身はいつもと変わらないけれど、形から入るのが日本人だ。大いに結構じゃないか。

そして劇場内に足を踏み入れると、客席の雰囲気もオリジナルとそっくりだ。緞帳はなく、ステージはそのまま見えている。舞台装置はほとんどなく、昔の教室をイメージした高い壁と、数々の楽器と、ステージシートが用意されているだけ。劇場というより、ちょっと大きなライブハウスに入った感覚だ。うーん、わくわくしてきた。

そして開演。細かいところで変更点もあったようだが(正確には把握できてません。すいません)、ほぼオリジナルどおりだ。日本の文化に合わせて変更、などという情報もあったが、それはセリフをどう訳すか、という問題に収斂されたのだろう。訳については他の輸入作品同様、賛否両論があるだろうが、そんなに違和感を感じたところもなかった。

出演者については、全般的に男性陣の熱演ぶりが目立った。主役・メルヒオールの柿澤勇人。文句なしのハンサムさんだ。会見の映像では仮面ライダーカブトとかメイちゃんの執事の人みたいな雰囲気かな、と思ったが、実際に見るとアンジャッシュの人みたいだった。でもかっこいい。メリハリの効いた演技で、頭脳の明晰さと精神的な不安定さが同居するメルヒオールの危うさをうまく表現できていたと思う。歌も合格点だ。エルンストの竹内一樹とハンシェンの一和洋輔は、90年代に日本テレビで放送された「同窓会」を思い出させる同性愛シーンに体当たり。キモチ悪いほどのガチホモっぷりで、観客がさあーっと引いていくのが分かったほどだ。

ダメ男くんのモリッツを演じたのは韓国出身の三雲肇。ブログのエントリーは上げていないものの、彼が「ライオンキング」でシンバデビューを果たした舞台を実は観ている。そのときは「あちゃー」というぐらい日本語の発音が全くできておらず、比較的外国人俳優の発音には寛容な自分もさすがに許せなかった。しかし、この舞台では全く問題ないと感じた。ダメダメな演技もなかなか堂に入っていたと思う。

そして出色の出来は、太ったメガネの男、ゲオルグを演じた白瀬英典の無駄に素晴らしい歌声だ。パンフレットの写真を見ると本当は太っているわけではないようだが、髪型や衣装で藤子不二雄のまんがに出てくるような太った少年になりきっている。その見た目のインパクトは相当なもので、少年たちのシーンではまずそこに目が行ってしまうほどなのだが、その見た目からは想像できない、低音ながらクリアーな美しい声で「どうしても 揉みたい あのオッパイを♪」とか歌う。もう二重三重に面白い。面白いだけでなく、それがちゃんとカッコいい。これは重要なポイントだ。

対して女性陣は低調だ。ベンドラはじめ、みな思春期っぽさがない。なんだかみな大人びていて、大人びた上に子供の演技を重ねているようで、いまひとつ説得力がないのだ。この男性陣との差は何なのだろう。頭の中がエロでいっぱい、という時期は男だとみな一様に体験しているので、演技がしやすいのだろうか。女性の場合、そういう時期があってももう少し複雑で、一人ひとり異なるものなのかもしれない。

実年齢とか、見た目の問題ももちろんある。しかし、そこは演技でカバーできる部分だと思う。オリジナルだって、ティーンエイジャーの俳優ばかりが演じていたわけではない。まあ確かに自分が観たときのベンドラはリアル18歳の超絶美少女だったけれど。極端な話、芝清道がメルヒオール、荒川務がモリッツを演じたって、作品としては成立するはずだ。面白すぎて別の作品になってしまう恐れはあるが。

ただ、一人だけ、ひときわ輝いていた女優がいた。イルゼ役の金平真弥だ。彼女は良かった。二幕から唐突に出てくる(原作でもそう))メルヒオールやモリッツの幼馴染み、イルゼ。彼女は、ほかの娘たちと違いちょっとあばずれていて、その分少し大人っぽいキャラだから演技しやすい部分もあるのだろうが、その表情にはせつなさがあふれ、その歌声には慈愛の情が満ちている。正直、オリジナルを観たときにイルゼの印象はあまり強くなかった。金平の実力によってこの役が引き立ったのだ。

全体的には、十分満足のいくものだった。しかし、まだカッコ良さが重苦しさを吹き飛ばしきれていない。客席には涙を浮かべている人もいた。繰り返すが、この作品は泣かせては失敗なのだ。もっともっとカッコ良くしなくてはいけない。男性陣はまだ固さもあったので、それがほぐれてくればさらなるブラッシュアップが可能だと思う。控えにまわった厂原時也の登場も楽しみだ。問題は女優で、相当なテコ入れが必要になるだろう。こちらは固さも多少あったかもしれないが、どちらかといとそれぞれの役者レベルではもう完成してしまっているような気がする。だから、対応策としては総取り替えしか道はないかもしれない。「ふたりのロッテ」を観たときには、女学生っぽい女優さんがたくさんいるじゃないか、と思ったが、あれは制服に騙されていただけなのか?

しばらくは、女優の変化を期待しつつ、男優の進化を見守るという形でリピートすることになりそうだ。

最後に、一部の人は気になっているであろうアレのシーン。「エクウス」のように暗くしたり、という演出はなかったのでよかった。しかし、ベンドラの衣服のはだけ方が実に控えめで、1階席ではどこまで見えたのか判別不能だった。次は2階席でチェックする予定だが(最低)、おそらくあまりたいしたものは見えないのではないか。実に残念だ。メルヒオールのほうは、オリジナル同様、ちょっと半ケツが見える程度。柿澤ファンの人は上手側から狙おう

200905021248000

「春のめざめ」WEBサイト
http://www.shiki.gr.jp/applause/springawakening/index.html

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コメント

ヤボオさん、こんにちは。

観たいような観なくても良いような微妙なラインで迷っていた作品ですが、レポを拝見し非常に行ってみたくなりました。(というか行かねば!)

働いても働いても、四季と旅費に消えてしまうこの生活をなんとか改善しなくては…と思いつつ、また今月もチケット代が↑↑しちゃいます(笑)。

投稿: らべたん | 2009年5月 3日 (日) 18時50分

らべたんさんこんにちは。

そう言われると責任を感じてしまいますが、音楽と、新感覚の演出は一見の価値がありますので、個人的に見て損はないと思います。

男優は今のメンバーでも、控えが出てきても楽しみなんですが、女優がなあ・・・。

投稿: ヤボオ | 2009年5月 4日 (月) 00時50分

お久しぶりです。
ヤボオ様も『春のめざめ』初日にいらしていたのですね。
この演目についてこれからどういう風に向き合っていくべきか。これを考えた時にヤボオ様の記事を拝読して、自分が考えていたものとほぼ同じであったことに感激し、コメントさせていただきました。
でもさすがヤボオ様。僕は見知った女の子たちの出演に浮かれていましたけれども、確かに妙に大人びていましたね…。
恐らく何度も足を運ぶことになると思いますが、キャストのカッコよさが、観劇毎に上がっていくことを願っています!

投稿: jurun | 2009年5月 4日 (月) 01時33分

jurunさんこんにちは。

ついに始まりましたねえ。この作品はコむずかしいことを考えずに「何これ?おもしれー!」と言わせてくれるはずの作品だと思います。つい余計なことを考えてしまうスキを与えない疾風怒涛のステージになってくれたら嬉しいっすね。また行きます!

投稿: ヤボオ | 2009年5月 4日 (月) 23時52分

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