Little Mermaid(リトル・マーメイド)
30日 14時~16時30分
Lunt-Fontanne Theatre
いよいよ今回の大本命、リトル・マーメイドだ。2007年秋にオープンしたので、昨年末に行こうとチケットを取っていたのだが、旅行予算のめどが立たず断念した。1年越しで念願がかなったというわけだ。
ディズニーとしては「ターザン」が評価、興行成績ともに振るわなかったこともあり(自分は結構気に入った)、この作品で名誉挽回、といきたかったところだろう。しかし、フタを空けてみるとこのリトル・マーメイドも評価はいまいちだ。さすがネームバリューもあり、興行的にはまずまずだが、このままだと早めのクローズもあるかもしれない。
ともあれ、観てみないことには何ともいえない。そして、映画「リトル・マーメイド」は自分にとって「美女と野獣」以上のお気に入りでもある。悲劇である「人魚姫」をハッピーエンドにしてしまったことには賛否両論あるだろうが、四季の「55ステップス」にも取り入れられている美しい音楽と、セバスチャン(カニ)のナイスキャラで、何度観ても楽しい作品だ。
それがどう3次元化されたか。公開前には「いったいどうやってサカナの世界を舞台で表現するのか?」が話題となったが、そこはすでに明らかになっている。予備知識なく米国に観に行きたい、という人は、この先は読まないほうがいいでしょう。
一部のサイトなどでは、「人魚たちがローラースケートを履いている」といった情報が流れていたが、違う。履いているのはローラーシューズだ。ちょっと前に子供たちの間で大流行した(今もか?)かかとのところにローラーがついているあれだ。
そして尻尾の部分はそれっぽいものを腰に装着し、足の部分はスカート状の衣装で隠す。これで人魚の出来上がり…って、見えるかあ!
「美女と野獣」では人間が蜀台や柱時計にポットを演じさせ、「ライオンキング」ではあっと驚く前衛的な手法で動物たちを表現したディズニーにして、これはないだろう、という出来だ。しょぼい。しょぼすぎる。ちょっと予想はしていたが、頭にさかなクンのような帽子を載せたヤツもいる。思わず苦笑いがこぼれそうだ。
また、ローラーシューズという発想もどうなんだろう。安易、ということに目をつぶっても、ローラーシューズですべる場合の姿勢というのは、ほぼ固定されてしまう。だから、すべっている時は体が止まっているように見える。水中を泳いでいるようにはとうてい見えない。「浮力」が感じられないのである。「スーダラ節」を歌っている植木等のほうが、よほど水中を漂っているように見える。その無重力感がほしい。
のっけからマイナス方向に衝撃を受けてしまったわけだが、もちろん中身がよければ文句はない。「ライオンキング」だって最初はみんな「なんじゃこりゃ」と思ったものだ。
しかし、話が進んでもどうも乗り切れない。まあもともとさほどストーリーが面白いわけでもないし、肝心の音楽で見せ場を作ってくれれば・・・と思っていたが、「Part of Your World」も、あまりアリエルのこみ上げる地上への憧憬が伝わってこないし、「Under the Sea」も、「Be Our Guest」のような観客を圧倒する盛り上がりにいは及ばない。「Kiss the Girl」も、セバスチャンが周りの動物たちに少しずつ力を借りてロマンチックなムードをつくりあげる、という面白みがいまひとつだ。
その3曲が厳しいとなると、もう後がない。いや、追加されたオリジナル曲はどうだ?美女と野獣では「愛せぬならば」などの名曲が生まれたが――。これもぱっとしない。どうした、アラン・メンケン!
どう考えても、ディズニーにとって大きな財産とも言えるこの作品を、安易に舞台化してしまった印象は否めない。ターザンに続き、粗製乱造と言われても仕方あるまい。いや、オフの雄であるDe La Guardaとの子ラボなど、まだターザンのほうがチャレンジ精神がうかがえた。残念ながら今回は「さすがディズニー」というところが何ひとつない。
ここではたと気がつく。この作品は、美女と野獣、ライオンキングとはジャンルが違うんじゃないか。すなわち、ディズニーが初めて手がけたファミリーミュージカルなのではないかと。美女と野獣やライオンキングも、ファミリーに受けてはいるが基本的な造りは大人向けである。しかし、今回のリトル・マーメイドは、子供目線で作っているのだ。
事実、客席の子供たちには大きくウケていた。目をきらきら輝かせて舞台を見入る子供と、それを暖かく見守る親たち。それは素晴らしい光景だし、子供たちにとって、そして親たちにとっても、忘れられない思い出となることは間違いないだろう。だが、少なくとも東京ディズニーシーに数時間で行ける距離に生活する日本人にとっては、ワンデーパスポートの倍以上の金額を払ってまで観る必要性は感じられない。
だから、この作品を見るためだけに渡米しようとするなら、それはやめておいたほうがいい。そのお金でホテルミラコスタにでも泊まろう。自分のように、ダメならダメで面白い、というようなマニアなら話は別だが。実のところ、自分は終演後、ついつい大量にグッズを購入してきた。これが唯一「さすがディズニー」という点だ。
でも、役者たちの演技は素晴らしいものだ。なんと開幕から1年も経つのに、アリエル、アースラ、トリトン王、エリック王子はオープニングキャストが続投している。Sierra Boggessはまさにアニメーションから飛び出してきたようなアリエルで、見た目だけでなく、その表情やしぐさまでもが、すべてがアリエル。それは、確かにわざわざアメリカまで観に行く価値のあるものだった。そして個人的にもっとも印象が強かった、アースラ役のSherie Rene Scott。圧倒的な存在感と声量で、舞台全体に力を与えていた。またどこかコミカルな雰囲気も、ディズニーの悪役には欠かせない。そして、この日はトリトン王は代役だった。これが自分にとってがっかり感を増幅させてしまったかもしれない。何しろトリトン王はNorm Lewis。前回ブロードウェーに来たとき、「Les Miserables」でジャベールを印象的に演じていた俳優だ。彼の演技をぜひもう一度観たい、と思っていた。もっとも、この日出演したJC Montgomryも十分に王の威厳と父の優しさを併せ持つ魅力的なトリトンだったが。またRogelio Douglas JR.のセバスチャンも、ぼやきながらもアリエルの世話を焼く才能に音楽家という役どころをうまくこなしていた。セバスチャンは、自分でも歌うが、それよりも周りを巻き込んでいく「指揮者」であるという点がユニークだが、同時にこの役を演じる難しさでもあると思う。
ファミリー層への受けはいいので、「ターザン」や「アイーダ」と比べればロングランするかもしれないが、そんなに長くは続かないような気がする。そういう意味では観ておいても損はないかもしれない。恐らく日本公演も望み薄だろう。東京ディズニーリゾートで目が肥えている客を満足させられるとは思えない。四季の代表は「ディズニーに買えと言われたが断った」と宣言していたが、珍しくその判断には賛成である。
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コメント
楽しく拝見させていただいてます。
その後、脚の調子はどうでしょうか?
さて、ついに『リトルマーメイド』四季版が決定しましたね。
今回はヨーロッパ版をもとにして、フライング技術や装置・衣装も大幅に変わるようです。
この記事を見るとブロードウェイ版はなかなか微妙だったようですが、今回の日本版、ヤボオさんはどう思われますか?
投稿: わっち | 2012年11月 5日 (月) 17時08分
わっちさんこんにちは。
発表になりましたねー。あちこちの記事を読む限り、また舞台写真を見る限り、完全に別ものと考えてよさそうです。
欧州版スタッフの舞台デザインの人は「メリーポピンズ」も手掛けた凄腕なので、たぶんもともとこの人を起用したかったのが、ブロードウェイではなんらかの事情でできなかったんじゃないでしょうか?
だとすれば期待大です。もっとも、ツアー公演が可能なように設計されているので、あまりゴージャスではないかもしれませんが。
でもアースラだけは、ブロードウェイのほうがよかったかもです。
投稿: ヤボオ | 2012年11月 5日 (月) 22時16分
ヤボオさん、お返事ありがとうございます。
やはり、ブロードウェイ版とは別物という感じなんですね。
映像を見る限り、ヤボオさんが仰っていた「浮遊感」は、ヨーロッパ版のフライングでは上手く出ているような気がします。あのトンガリヘアーはちょっとアレかもしれませんが…。
「メリーポピンズ」のスタッフの方ということで、期待しようと思います!!(できたら「メリーポピンズ」も日本版が見たいです。)
そして、あとはとにかく「誰がアリエルを演じるのか」という問題に尽きるかもしれないですね…(笑)
僕も見に行く予定ではいますが、開幕後のヤボオさんの記事も楽しみにしています。
投稿: わっち | 2012年11月 6日 (火) 10時40分
私はまりえ一択で。
投稿: ヤボオ | 2012年11月 8日 (木) 00時04分