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2008年7月 6日 (日)

東宝「ミュージカル デュエット~They're Playing Our Song~」 保坂知寿の帰還

ついに保坂知寿が舞台に帰ってきた。シアタークリエのミュージカル「デュエット」開幕である。

2007年2月の「マンマ・ミーア!」千秋楽以来、1年半近いブランクを越えて保坂が挑むこの作品。三谷幸喜が尊敬してやまない、トニー賞&・ピューリッツァー賞戯曲部門受賞の実力派劇作家、ニール・サイモンと、「コーラスライン」の作曲歌、マービン・ハムリッシュの手による、男女一人ずつしか登場しない「2人芝居」のミュージカルだ。

客席に座ると、ステージ上に設置された巨大なグランドピアノが目に入る。軽やかな音楽に乗って、そのグランドピアノの屋根が開かれると、そこにアパートの1室が現れる。劇中、このピアノがアパート以外にさまざまな“役”を演じるという、演出の鈴木勝秀が考えた洒落た仕掛けだ。しかし、それが単に奇抜な舞台セットというだけに止まらないところがこの作品のみそである。

アパートの部屋にいるのは、石井一孝演じる売れっ子の作曲家・ヴァーノン。人気絶頂ではあるが、生来の几帳面さが災いして人間関係には苦労している。そこに現れた、保坂演じる売り出し中の作詞家・ソニア。舞台衣装のお下がりという、かなり奇妙な服装を身にまとった彼女はヴァーノンとは対称的なぶっ飛んだ性格の持ち主で、不思議ちゃんがそのまま大きくなった、大きい不思議ちゃんだ。対極的な2人の共通点は、音楽に対する非凡な才能。そして、同じ精神科に通っているということだ。不安定な精神状態を抱えつつ、2人が惹かれあい、また対立しながら共同で楽曲を創り上げていく様を、都会的な笑いのセンスでコミカルに描いていく。最後に2人の関係がどうなるのか、はらはらしながら見守るラブ・ストーリーでもある。

一見、2人の舞台上での関係は対等に見えるが、実はこの作品、基本的にヴァーノンという男の一人称で語られている。つまり、ヴァーノンが一人でいるシーンは存在するが、ソニアが一人でいるシーンは例外的にしか存在しない。ヴァーノンと一緒にいないソニアが何をしているのかは描かれず、観客はヴァーノンと共に頭を悩ますことになる。

この構図は、すなわちこの作品がヴァーノンの成長をつづった物語であることを示している。ピアノの中に閉じこもっていた男が、ピアノの「外」の世界とかかわり、やがてピアノの外に出て行く。そのカギを握っているのがソニア、という仕掛けだ。

2人の丁々発止のやりとりは小気味よく、歌われるナンバーも軽めの明るい曲が多い。いまだ精神科への偏見が消えない日本人には、歯医者に通うように精神科へ通う2人の心理が伝わりにくいかもしれないが、何の難しさもない気軽に楽しむことができる作品だ。上演時間は休憩含めて2時間半余り。

さて保坂知寿である。やや実年齢より低めの役柄ながら、魅惑の保坂ボイスと細やかな仕草でキュートな大きい不思議ちゃんを好演している。普通のセリフでも笑いに変えてしまう保坂マジック(例:「夢から醒めた夢」の「一日だけでいいんでしょう?」、「マンマ・ミーア!」の「言葉のアヤよ」)も健在で、マシンガンのようにしゃべりまくるセリフは、どこまでが真面目なセリフなのかどこからが笑いを取るセリフなのか解らないほどだ。その演技のキレに、ブランクは全く感じられない。そして、すべてのシーンで異なる衣装で出てくるのが、保坂ファンにはまたたまらないかもしれない。もっともどの衣装もごちゃごちゃした感じのものが多いので、保坂の薄味美人な魅力が埋もれてしまっていると言えなくもないが。

歌声については、すでに「マンマ・ミーア!」の千秋楽のころには、全盛期の60%ぐらいのパフォーマンスになっていたことは否めない事実だ。それをどこまで回復させたか、といえば、残念ながら目をみはるほどの回復とまでは言えないのが正直な感想だ。ところどころ、伴奏にその声がかき消されてしまうような部分もあった、もちろんそれは音響の調節の問題ではあるが、全盛期の保坂なら、伴奏も共演者の声も圧倒してしまうパワーがあったことを思い出さずにはいられない。

対する石井一孝。マリウス役が板につきすぎて、それ以外のイメージがどうしても薄いが、自らが相当な音楽オタクである石井にとって、ピアノの中に引きこもっている作曲家というのはまさにはまり役だ。でかい声にでかい顔、そしてついでにでかい目で、強烈な印象を残す。ぽんぽん話すソニアに負けじとヴァーノンもばんばん言い返すが、四季役者も真っ青の丁寧な発声で、ひとつひとつのセリフがすべて耳にきちんと入ってくるのがいい。

こういう2人の呼吸が全てという作品は、おそらく公演を重ねることで、少しずつ変化していくのではないかと思う。今月限りの上演だが、機会あればまた足を運びたい。

とにもかくにも保坂知寿がミュージカル界にカムバックした。ファンのひいき目で言えば、もっと華やかな舞台を美々しく整えてほしかった気もするし、四季以外の日本の人気ミュージカルで、保坂にふさわしい役がどれほどあるかと言われればやや不安を感じないでもないが、まずはこの「女王の帰還」を心より喜びたいと思う。次の作品が何になるのか、期待して待とうではないか。

「デュエット」のホームページ
http://www.tohostage.com/duet/

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コメント

ヤボオさんお久しぶりです。
早速のレポート有難うございます。
私は、楽前に遠征する予定です。彼女の歌唱に賛否両論があるのが気になっていますが、ファン馬鹿の僕としては知寿さんの表現力で十分カバーできると思います。もう彼女もそう言う時期に来ているのでしょう。私が観る時にはデュエットが、もっともっと評判になっていることを願っています。
 私は、そんな華々しいメガミュージカルより、じっくり彼女の評価が高まるような作品に出てもらえるほうが嬉しいです。それに彼女の薄顔は、多彩な役柄に対応できる素材としては最高なので決して顔をいじってほしくないですね。
希望としては、マイフェアレディのイライザを観てみたいと思ってます。(大地真央さんも嫌いじゃないですが、また違ったイライザが観れるのでは・・・強固な宝塚ルートはくずせないか?)

投稿: てつ | 2008年7月 8日 (火) 12時33分

てつさんこんにちは。

マイフェアレディ、いいですねえ。想像するだけでわくわくしてきます。

東宝も、この機会に奮発して「サンセット大通り」でも買ってきてほしいものですな。

投稿: ヤボオ | 2008年7月 8日 (火) 23時14分

嬉しいニアミス、同日のソワレを観ました。
四季に長いこと慣れ親しんだ者としては、華々しい
舞台を期待してしまいましたが…
でもThey'er Playing…を聞いた瞬間には「よっしゃー!!」
という変な気合が入ってしまいました(笑)

音響とのバランスが悪いのか、マイクの位置が悪いのか
はたまた石井さんの滑舌が良すぎるのか…
知寿さんの歌声が聞きづらく感じました。
あと数回観る中で変化して欲しいものです。

オーバーオールを着たとき、ドナを思い浮かべませんでしたか?

投稿: らべたん | 2008年7月 9日 (水) 12時59分

らべたんさんこんにちは。

確かに、時にドナが、時にローズが、オンディーヌが・・・

でもピコが成人したらこんな困った大人になるかも?

これからどんどん新しい役に挑戦して、ニュー保坂を見せてほしいです!

投稿: ヤボオ | 2008年7月10日 (木) 00時16分

こんばんは

自分の眼で舞台を見るまでは・・・と
ヤボオさんのレビューを読むのをずっと我慢していました

早くも、次回作のこと、考えてしまいますよね。

個人的には
「スウィート・チャリティ」が観たいのですが如何でしょう?


サンセット大通り・・・ヴァーノンのセリフで出てきましたね。

石井さんがCDで歌っていたからかなー、と

(笑いも起きてました)

トラックバックまたまたさせて頂いちゃいましたー

投稿: 巻き髪(yukko) | 2008年7月24日 (木) 23時45分

巻き髪(yukko)さんこんにちは。

「スウィート・チャリティ」、川崎悦子先生演出なので観ようと思いつつ見逃した記憶があります。

いろいろ言う人もいるでしょうが、やっぱり一度はファンティーヌを観たいです。

投稿: ヤボオ | 2008年7月26日 (土) 00時46分

はじめまして。いつも楽しく拝見させていただいています。
デュエット観てきました。保坂さん健在でホッとしました。フォンテーヌが実現したらいいですね。
宝塚枠と思われるので、舞台では無理かもしれませんが、「私だけに」や「星から降る金」なども一度聴いてみたいです。

投稿: 千尋 | 2008年7月26日 (土) 10時12分

千尋さんこんにちは。いつもダメなブログですいません。

モーツァルトやエリザベートには出演の可能性ありそうですね。

この人のこの役、というのを想像するのは楽しいものです。というわけで、その後に四季を去った男優が何で出てくるか?にも注目ですな。

投稿: ヤボオ | 2008年7月27日 (日) 01時29分

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劇団四季を辞めたら知寿さんは舞台の世界から居なくなってしまうのではないかと 何となく&勝手に思っていた巻き髪 それが、あざみ野を後にする人にしては多分・・・’初’の扱い 劇団の幹部俳優と共に写真にも納まったサヨナラ記事の掲載@アルプ・・・を経....... [続きを読む]

受信: 2008年7月24日 (木) 23時46分

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