鹿賀丈史&市村正親「ペテン師と詐欺師」
※最後まで読むとばれます。これから観る人は、適当なところで引き返してください。
ローレンス・ジェイムソン | 鹿賀丈史 |
フレディ・ベンソン | 市村正親 |
クリスティーン・コルゲート | ソニン |
ミュリエル・ユーバンクス | 愛華みれ |
ジョリーン・オークス | 香寿たつき |
アンドレ・チボー | 鶴見辰吾 |
何か新年らしい明るく楽しい舞台でも、ということで日生劇場へやって来た。
この2人のベテラン俳優が火花を散らす「ペテン師と詐欺師」は一昨年に上演され、今回は再演だが、前回は行こう行こうと思いつつ結局見逃してしまった。なのでこれが初見。
入念な仕掛けと洗練された雰囲気で、金持ち女から次々と大金を巻き上げる凄腕詐欺師のローレンス(鹿賀)と、出たとこ勝負の一匹狼詐欺師・フレディ(市村)が繰り広げる、ドタバタのミュージカル・コメディ。音楽もギャグも軽めの味付けで、正月料理でもたれた胃にはもってこい、という作品だ。
作品の見どころは言うまでもなく、2人の演技合戦だ。特に2幕に入ってからのテンポのいい駆け引きと掛け合いは、コメディに浸る幸せを存分に感じさせてくれる。
鹿賀の声には、かつての張りはなく、セリフもだいぶ聞き取りづらくなっている。しかしその圧倒的な存在感は健在。ローレンスはたびたび指をならしてスポットライトを要求するが、照明などなくても常にその姿は観客の目を引く。そして、自身が非常に楽しそうに演じているのが伝わってくるのが心地良い。一幕最後、そして二幕最初のしてやったりな表情、心の底からわき上がってきたような笑顔は強く印象に残った。
一方の市村の役柄は、ローレンスの「静」の演技に対し「動」が求められるが、その動きに実にキレがある。若い奥さんをもらったからかもしれない。いやきっとそうだ。市村といえば「ハタチの恋人」というひどいドラマが記憶に新しいため、その本領を発揮した姿に、やっぱりこの人はすごいんだ、と安心した。あのドラマはひどかった。長澤まさみは好きだから見てたけどな。アドリブも絶好調で、観客に話しかける場面では「初観劇ですか?いい演目を選ばれましたね」と客席を和ませていた。
もし、10年前の彼らのコンビで観ていたなら、もっとパワフルでスピード感にあふれたやりとりを目撃できたかもしれない。だが、恐らく今の2人だからこそいい味が出たと思われるのが、ラストシーン近く、ビーチチェアに腰を下ろして語り合う場面だ。これまでの人生を振り返りながら、引退を考え始めるローレンスと、イタい目にあいながらもまだまだヤマを追いかける気まんまんのフレディ。長い役者人生で、数え切れないほどの役とさまざまな人生経験を積んだ二人だからこそ、この場面に深みが生まれる。俳優というのは、役の向こうに自分自身の人生を映し出す職業なのだと感じた。
脇を固めるのも個性的な面々だ。詐欺の一味にして警察官、フランス人なのに生真面目、という珍妙な役を絶妙の演技で形作るのは鶴見辰吾。舞台で見るのは初めてだが、「高校聖夫婦」や「ポニーテールはふり向かない」のころからちっとも変わらないその強烈な雰囲気は、舞台上でも全く色あせることがない。もっと多くの作品で彼の演技を見たいものだ。
そして前回奥菜恵が演じたヒロイン、クリスティーンを演じるのはソニン。そういえば奥菜恵の引退騒動はどうなったんだろう。そのソニンは、昨年、結局これも見逃してしまった「スウィーニー・トッド」での演技が高い評価を受けており、どんなものだろうと思って見たが、なるほどこれは逸材である。声に力があり、セリフも歌詞も実によく届く。正直なところ、今回の出演者の中で最もセリフが聞き取りやすかった。そして演技も、いかにも田舎から出てきた純朴なお嬢さん、という雰囲気が非常によく出ていた。ここはこの舞台の成否を分ける大きなポイントだ。しかし、持ち前のナイスバディは隠せない、というか衣裳によってはより強調されていて、いつも以上にしまらない顔で眺めていた。歌は以前から聴いていたから、そのクリアでよく伸びる声質は知っていたが、声量は思ったほどでもなかった。声帯は相当強そうなので、ミュージカルのボイストレーニング(そんなものがあるのか知らないけど)によって、いくらでも伸びていきそうな気がする。期待は大きい。今年の夏には「ミス・サイゴン」への出演も決まっている。ミス・サイゴンはもういいかな、と思っていたが、かなり彼女のキムを見たくなってきた。
パンフレットのソニンのプロフィールを見ると「2000年ユニットでデビューし」と書いてある。そのユニットとはご存知「EE JUMP」だ。このユニットは、当初3人だったのにデビュー前に一人抜け、デビュー後もユウキ(後藤祐樹、窃盗犯)の度重なる不祥事により振り回され続けた。でもそのころから自分を含むマニアの間ではナイスバディが話題になっており、そのへんを生かせばソロでもやっていけるよなあ、と不謹慎なことを言っていたらその通りになって(「カレーライスの女」でエッチな衣裳を披露)、こちらが慌てたものだ。だがそのあとは土佐犬と闘ったりして意味不明なキャラに育ってしまい、ちょっと興味が失せていたが、ここへ来てまた自分の興味範囲にずかっと入ってきた。
デビュー当時は後藤真希の弟ということで注目を浴びるユウキの影に隠れ、そのうえ不祥事にほんろうされ、踏み台にされてもじっとこらえるけなげな姿が印象的だったソニン。しかし今、ユウキは強盗グループのリーダーにまで転落した一方で、ソニンは着実にスターへの階段をのぼりつつある。こうして見ると、あの「堪え忍ぶ健気なキャラ」は全て計算で、踏み台にされていたのは実はユウキだったのか?
なーんて思いたくなるのは、きっと…。
↑ちょっとキモチ悪いけど、ナイスなデザインのハンドタオルを購入。
「ペテン師と詐欺師」WEBサイト
http://hpot.jp/drs/
<おまけ>
アンサンブルに森実友紀がいた。お願いだからエーゲ海の小島に戻ってくれ!アリがいないんだよー!一緒に飯野めぐみを連れてきてもいいから。(ソフィやったりして)
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コメント
寒中お見舞い申し上げます。ご挨拶が遅れましたが、本年もよろしくお願い致します。
昨年1年間は、「正常でない観劇態度」だったため、取りあえず今月は自粛中です。
し、しかし、年頭から師匠の完璧なレポを拝見し、羨ましくてしかたありません。
『ペテン師と詐欺師』は、06年・銀河劇場版で観劇致しました。軽くお洒落で楽しい舞台でした。
今回は一部キャスト変更があり、よりパワーアップしているようですね。自粛中でなければ、観たい!
注目のソニン嬢、私は『スウィーニー・トッド』(07年・日生劇場)が初見でした。 難解と言われるソンドハイムの楽曲を、美しいソプラノボイスで見事に健闘していましたよ。
ミュージカル初舞台だったと記憶しておりますが、演技もなかなかでした。
私も『ミス・サイゴン』が楽しみになってまいりました。
投稿: ゴンタ | 2008年1月15日 (火) 08時07分
明けましておめでとうございます(遅っ)
昨年の今頃
「スゥイニー・トッド」でソニンを見て
「コイツは必ずキムに来る!!」と勝手に確信していましたが
まさかこの作品にも出る事になるとは・・・。
奥菜恵さんは
「下手っぽく芝居をして歌う」のではなく
本当に・・・アレでした。
銀河では市村さんがバルコニーに向かって
私が観た3回とも「クリスティーヌ アイラブユー」とやっていたのですが
・・・今回は如何なのでしょう・・・来週が楽しみです。
本年もお邪魔させて下さいね♪
投稿: 巻き髪(yukko) | 2008年1月15日 (火) 18時30分
ゴンタさん
本作初演も、スウィーニー・トッドもご覧になったのですね。さすが!
この作品は、銀河劇場ぐらいの大きさで観るのがぴったりのような気がします。日生劇場だと大きすぎで、劇場全体の熱気が高まらないように思います。
今年もよろしくです。
投稿: ヤボオ | 2008年1月15日 (火) 23時11分
巻き髪(yukko) さん
うーむ、見事な洞察ですねえ、キム役確信したとは。
本作初演も、スウィーニー・トッドもきちんと観ておくべきでした。反省して、今年は四季以外にも足を向けるようにします!
今年もよろしくです。
投稿: ヤボオ | 2008年1月15日 (火) 23時13分