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2007年12月22日 (土)

映画「魍魎の匣」やっと公開

制作発表会見からずいぶんと長らく待たされたが、やっと公開にこぎつけた映画「魍魎の匣」。「姑獲鳥の夏」に続く、京極夏彦の「妖怪シリーズ(通称:京極堂シリーズ)」第二作の映画化だ。

このシリーズでは、古本屋にして「憑きもの落とし」の京極堂(中善寺秋彦)、人の記憶が見える超能力を持った破天荒な探偵・榎木津礼二郎、気弱な小説家・関口巽らアクの強い連中が集まって、毎回奇妙な事件を解決していく。基本はミステリーだが、重厚な描写と圧倒的な情報量で築きあげる独特の世界観と、登場人物のユニークさ、犯人捜しやトリック暴きではなく、人の心の中に潜む事件の原因を客観的に突き止めていく斬新な手法などにより、絶大な人気を誇っている。自分もファンの一人だ。

2005年にはシリーズ第一作「姑獲鳥の夏」が映画化されたが、そのときの監督は故・実相寺昭雄。賛否は分かれたが、自分は比較的好感を持った。実相寺の演出は個性的過ぎると言われるが、「ウルトラセブン」を撮っていたころに比べれば、晩年の実相寺作品は格段に丸くなっており、毛嫌いするほどではない。そして、「帝都物語」もそうだったが、この映画で表現されたビジュアルイメージは、自分が原作を読んで感じていたそれにぴったりと重なっていた。そうでなかった人にとってはさぞ不満の残る作品だっただろうが。

とにもかくにも「魍魎の匣」の制作が決定してから、本当に楽しみにしていた。監督は原田眞人だという。原田眞人といったら最近の人にとっては「突入せよ! あさま山荘事件」とか「金融腐蝕列島〔呪縛〕」とかだろうが、自分としては「おニャン子ザ・ムービー 危機イッパツ!」であり「ガンヘッド」である。つまり、世間的にクソ映画扱いされているが自分にとっては傑作を提供してくれる人だ。これは期待するところ大である。

しかし、公開日がやっと決まって、不安になった点がある。R-15はおろか、PG-12にもなっていない。「魍魎の匣」はシリーズの中でもとりわけ猟奇性の高い作品だ。指定がないということは、だいぶマイルドになっているということか。別にスプラッター好きではないのでいたずらに残虐シーンを望むわけではないが、この作品においては死体を用いた描写が不可欠だ。それがなくて果たして成立するのか?期待と不安を持って鑑賞に臨んだ。

観終わっての感想だが、まず上記の不安についてだが、これは杞憂に終わった。かなり踏み込んで描写している。正直、かなりキモチ悪い。怖い映画の嫌いな人は観ないほうがいい。自分もちょっと苦手なので、あれ以上踏み込まれたらちょっとやばかった。今からでも遅くないから、PG-12にしたほうがいいんじゃないか。

そして原田演出の京極ワールドはどうだったか。多分にネタバレを含むので、これから観る人はここから先は読まないでください。

監督が替わったから当然ではあるが、テイストがだいぶ違う。前作が、原作の雰囲気をそのまま映画の中に流し込んでいた(少なくとも自分にはそう見えた)のに対し、今回は原作のさまざまなエッセンスを切り出し、映画というハコの中に「みっしりと」詰め合わせた感じだ。

全体的に、演出がポップである。描かれる時代が戦後数年、そしてそこで起きる猟奇殺人、となれば市川崑+横溝正史な雰囲気を想像してしまうが、あのずっしりとした湿感のある映像とは対極にある、軽くてサクサクした演出だ。これには原作ファンの多くが面食らうだろう。どちらかというと、京極堂シリーズよりも、榎木津が主役になって悪党を懲らしめる「百器徒然袋」シリーズのテイストに近い。

事件が陰惨なだけに、明るめの演出でバランスを取った、というわけではないだろうが、結果的にはそうなっている。そして、それは京極堂シリーズのひとつの特徴である、悲惨な事件に巻き込まれながら、登場人物たちはどこか和気あいあいと事件解決の糸口を探探っている、という雰囲気にもつながるものだ。

登場人物の雰囲気もだいぶ変わった。前回も登場したキャラクターは、関口巽が永瀬正敏から椎名桔平に変わった以外、ほぼ同じ俳優が演じているのにである。堤真一の京極堂はやけに行動的だし、阿部寛の榎木津はあまり馬鹿さ加減を発揮せず、しかも熱心に捜査をするし、田中麗奈の中善寺敦子は元気が良すぎて、雑誌編集者というより突撃レポーターのようだ。

パンフレットのインタビューなどを読むと、監督からキャラクターについてだいぶ前作と異なる指示が出ていたようだ。それに加え、役者自身もアドリブをまじえ、自分なりのキャラクターづくりを進めたらしい。

だがそれでいて、不思議に京極堂ワールドの雰囲気を壊していないのは、もともとのキャスティングがイメージにぴったりだからだろう。阿部寛の榎木津は他に考えられないし、田中麗奈もよくぞ出演してくれたと思う。脇役陣も、荒川良々の和寅や、堀部圭亮の青木文蔵など、実によくツボを押さえている。

そして今回の事件の中心的な人物、久保竣公に宮藤官九郎。このセンスはもう脱帽である。それを聞いて思わずうなったほどイメージ通りだ。幼稚さとダークサイドをこれほど強烈に醸し出せる俳優はそう多くあるまい。脚本家や映画監督としての力量も大したものだが、俳優としての活躍に今後も期待したいところだ。この事件のヒロイン・柚木陽子に黒木瞳というのも、前作の原田知世の起用に勝るとも劣らないナイスな選択だ。

残念なのは、宮迫博之演じる木場修太郎の、柚木陽子に寄せる純情な想いがいまひとつ伝わってこなかったことだ。これは演技の問題というより、単純に出番が少なかったからだと思う。彼が如何に陽子(女優・美波絹子)のファンだったか、ということを描くより、そのファン心理が、男の純情に変わっていく様子を掘り下げてほしかったように感じた。また、阿部寛が「前作は、はじけ方が足りなかった。次回はもっとはじけていきたい」と語っていたので期待していたが、あまりはじけておらず、むしろ有能な探偵のように見えてしまったあたりも少しもの足りなかった。

役者以外に目を向けると、上海で長期ロケを行うなど、大規模な仕掛けの映画だったことにも驚いた。なかなか公開されないので、てっきり低予算映画になっているのかと勝手に思いこんでいたからだ。そして、スローテンポで話の進んだ前作と違い、いきなりトップスピードで次々と話が展開する演出は、観客を最後まで飽きさせない。

その中で、随所に小技を効かせている。「魍魎の匣」は複数の事件が連鎖的に起こり、それがラストに向かってひとつに収斂されていく構造がひとつの魅力である。その発端となったのは女子高校生連続殺人事件だが、原作と異なり、そのくだりのシーンは非常に少ない。その短時間で強烈に印象を残すために、「制服」を実にうまく使っている。ちょっと趣味の世界にに走りそうだからここでやめるが、楠本頼子と柚木加菜子が話すシーンは、まるで「櫻の園(中原俊監督)「1999年の夏休み」(金子修介監督)といった青春映画の傑作を思い起こさせる。

役者もいい、演出もいい、それなりに原作の世界観も再現している、ということで、自分としては非常に満足をしている。しかし、他人にお奨めできるかというと、ちょっと疑問符がつく。

まず、人物関係やストーリーが分かりにくい。原作を知らず、前作を観ていない人にはほとんど何が何だか解らないで話が進んでいってしまうだろう。また、あの膨大な量の小説を2時間の映画にするのだから、かなり原作とは異なる部分もあり、それ自体問題ではないものの、原作をなまじ知っているとかえって混乱するかもしれない。

また演出について言えば、一点大きな不満がある。「ハコの中身」が強調されるシーンがたびたびあるのだが、個人的には「ハコの中身」が「ハコ」に「みっしりと」詰まっている状態を見たかった気がする。ラストのアレは、「ハコの中身」の美しさ(あるいは、それを美しいと見る心理)を、観客に不快感を与えずに描いた苦心の産物だと思われる。それは理解するし、いいシーンだとは思うが、「ハコの中身」だけでは、この事件にかかわった人物たちが取り憑かれた美しさが何であったのか、正確に伝えきれないのではないか。

上で、この映画は原作のさまざまなエッセンスを切り出し、映画というハコの中に「みっしりと」詰め合わせた、と述べた。だが、どうもハコの中身にこだわりすぎて、それを包み込むハコそのものがややおろそかになってしまった気がする。そのために、観ている間は楽しいが、見終わった後に映画全体から伝わる感動がやや薄まってしまっているきらいがある。

とはいえ、自分としては好きな映画だ。監督や役者がこの映画で何をしようとしているのかは非常に明確で、映画に対する真摯な姿勢がよく伝わってくる。日本映画にはもっともっともっともっと頑張って欲しいが、手軽に「泣ける」映画ばかりではなく、こういう力の入った映画が、今後も多数登場してくることを願って止まない。

今後のシリーズ化はどうなるのだろう。「狂骨の夢」はあまりに精神的世界の話なので映像には向かなそう。「陰摩羅鬼の瑕」とか観たいな。榎木津が馬鹿だし。いっそ、百器徒然袋」をやってくれないかとも思ったり。

「魍魎の匣」ホームページ(無駄に重い)
http://www.mouryou.jp

今回は田中麗奈の出番が多くて良かった。自分は田中れいなも好きだが田中麗奈も大好きだ。田中れいなも本名は田中麗奈だ。姓名判断はやはり当たるらしい。自分も娘を持ったらぜひ麗奈という名前をつけたい。いや、苗字が田中じゃないから無理か。田中という家で婿養子とか探してたら連絡ください。できれば財閥とかきぼう。

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