四季「ウィキッド」樋口麻美エルファバ登場
グリンダ | 沼尾みゆき |
エルファバ | 樋口麻美 |
ネッサローズ | 山本貴永 |
マダム・モリブル | 森 以鶴美 |
フィエロ | 李 涛 |
ボック | 金田 暢彦 |
ディラモンド教授 | 武見 龍磨 |
オズの魔法使い | 松下 武史 |
開幕から5カ月、ついに第二のエルファバ登場だ。すでに発表されている樋口麻美であり、サプライズではない。しかし、濱田めぐみがあまりにも完璧すぎる演技を続けたために、すっかりエルファバ=濱田めぐみというイメージが出来上がってしまった。予想されたこととはいえ、そのバトンを受け取るのは相当なプレッシャーだろう。入団以来エリート街道をばく進してきた樋口の実力が試される時だ。これは観なくては、といそいそと海劇場へ。
樋口麻美をアンサンブル以外で最初に観たのは2000年の「夢から醒めた夢」福岡公演だろうか。幻の樋口マコである。この時は旅行を兼ねて数日滞在し、別の日にも観たのだが、もう1回はベテラン鈴木京子がマコだった。どうもそちらの印象が強すぎて樋口の記憶が定かでない。その後「夢から醒めた夢」のピコを始めいくつかの役で彼女を観ているが、特に「南十字星」のリナは印象的だった。牢の外でブンガワン・ソロを歌う樋口の姿に、いい女優に成長したなあ、と感動したのを覚えている。最近では、「ウェストサイド物語」のアニタで、これまでの娘役っぽい殻を破った演技を見せたのが記憶に新しい。また一段とレベルアップしたところをアピールしていた。
だから、いかに濱田の後といえど、樋口エルファバを見ることにに不安は感じない。むしろどんなエルファバだろうかとわくわくして開演を待つ。
グリンダ様のお姿を拝謁した後、回想シーンに入っていよいよエルファバ登場。観客の前に勢いよく樋口エルファバが飛び出してきた。
その第一印象は、なんだか赤塚不二夫のマンガに出てくるメガネくんみたいだった。かなりインパクトが強い。率直に言っておかしい。濱田に比べ樋口は丸顔だが、丸顔にあのメガネの組み合わせは非常に危険だということがよくわかった。
そしてこのエルファバ、非常に元気がいい。屈折している雰囲気はあまり感じさせず、威勢の良さで周囲の目をはねのけているような、なんだか江戸っ子のようなエルファバである。また、明るいというほどではないが、笑顔もよく見せる。ただ樋口は、表情を大きく変化させるときに笑顔のように見えることが多く、そのせいもあったかもしれないが。
もっとも容姿については「Popular」でメガネをはずすとぐっと変わる。濱田は緑でもキレイだが、樋口は緑でもかわいい。その落差は樋口のほうが上だ。
のっけから元気がいいため、「ネッサを返して!」など、感情を爆発させるときのインパクトがやや薄くなる、というようなこともあったが、基本的にこの元気ハツラツなエルファバは悪くない。学生時代のシーンであり、若さを表現していると考えればむしろ自然だ。
歌にも元気があふれている。もともと声量のある樋口だが、その力強いボーカルをいかんなく発揮している。一幕最後の見せ場「Defying Gravity」では、濱田に負けない圧巻の歌声を披露。この作品では、一幕が終わり休憩に入ると、客席が「すごいね」「面白いね」とざわつくのが、リピーターにとってちょっと嬉しい瞬間なのだが、それはこのDefying Gravityというナンバーの出来によるところが大きい。この日もちゃんとざわついていたので、第一段階はクリア、という感じだ。
しかし、一幕は学生時代だから元気いっぱいでいいが、果たして二幕はどうなるんだろう。あれこれ頭の中で予想しつつ休憩時間を過ごす。
基本的には、二幕に入っても、やはり元気のいいエルファバだった。ただ、その元気の蔭に不安や孤独が見え隠れしている。それによって「強がっている」というエルファバの側面を表現することに成功している。なるほど、これはこれで面白い。濱田のエルファバは、意志によって支えられ、凛とした印象なのに対し、樋口のエルファバは、根性によって支えられ、脆さを感じさせる。
そうした雰囲気で最後まで樋口が演じ抜いたエルファバは、個人的には十分満足のできるものだった。
濱田との比較で言えば、濱田が演技・歌ともに強弱のメリハリをつけたものであるのに対し、樋口は常にフォルテ気味。ここは好き嫌いの分かれるところだろう。ただ歌について言うと、他の役者とハモるところでは、いまいちしっくりこない。自分の声で相手の声を消してしまうのを恐れ、必要以上に声を小さくしてしまったり、ということがある。なので二幕の「For Good」はいまいちだったかもしれない。
ひょっとしたら、元気がいいのはまだ登場したばかりで、肩に力が入りすぎているためなのかもしれない。少し時間を置いて、また見に来ることにしよう。
トータルに考えれば、濱田にはまだまだ叶わないのは事実だ。しかし、エルファバとしての合格ラインはゆうにクリアしていると思う。「えーめぐじゃないのか」と言わず、ぜひ足を運んで新しい西の魔女を目撃してほしい。
そうそう、樋口エルファバが濱田に勝っているところもある。それは笑いの取り方だ。エルファバが笑いを取るシーンはそう多くはないが、いい間合いで確実に笑いのツボを押さえていた。ダンスホールのあのダンスでも、濱田は、おかしいんだけど笑っていいものかちょっと迷う、というぐらいだったが、樋口は容赦なく、MP総取りのふしぎなおどりで爆笑を誘っていた。まあここも好みはあると思うが。
濱田が、登場時からすでに自分の中に完成されたエルファバを持ち、それを少しずつ「濱田めぐみ」に馴染ませていくように役を作ってきたのに対し、樋口は「樋口麻美」をエルファバに全力でぶつけ、その衝撃によって樋口エルファバを抽出しようとしている。まだ荒削りだが、今後磨きがかかっていけばもっとよくなるという期待感はある。
濱田・樋口とも他に演じるべき重要な役を持っているので、ウィキッドばかりにしばられるわけにはいかないだろうが、これからもこの2人にはエルファバを演じ続けてほしいものだ。
「ウィキッド」のWEBサイト
http://www.shiki.gr.jp/applause/wicked/index.html
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コメント
はじめまして。
濱田エルファバのファンで観れるうちにと週1のペースで通ってました。
予想以上に早く登場した樋口エルファバ、実は今日観劇予定なので観た方の感想がとても気になりました。
細かいレポ、ありがとうございます。
正直言って樋口さんの歌、演技は苦手なのでかなりの不安があります。
できれば今日の観劇は濱田エルファバで観たいです。
そして次回は余裕の気持ちで樋口エルファバを観たいです。
投稿: フォリ | 2007年11月24日 (土) 09時22分
フォリさんはじめまして。
私のレポートはいいかげn&主観にかたよっているので、あまり参考にはならないかもです。
濱田エルファバはこれで見られなくなるわけではないので、どちらが出演されてもぜひ楽しんできてください!
投稿: ヤボオ | 2007年11月24日 (土) 10時22分
ヤボオさん、相変わらずの鋭い指摘をされていて
参考になります。
樋口エルファバはある程度安心して観れるだろうと思っているのですがmグリンダはどうでしょう?
実際交代してみて、観てみないとわかりませんが、ちょい不安なんです。
木村花代さんもしくはヤボオさんが常々言ってらっしゃる堀内敬子さんがグリンダだったらなぁ と思ってるんですが。
しかし、樋口エルファバ早く観たいです
投稿: kuffskuffs | 2007年11月24日 (土) 21時10分
こんにちは。
確かに、次のグリンダが気になりますね。ほかのエントリーでもたびたびグリンダのことに触れてまして、どうも自分はグリンダという役が相当好きだということが最近分かりました。
沼尾さん大好きだし、沼尾グリンダがんばってますが、濱田エルファバ並みに、これぞグリンダ、というキャストが出てくることを期待してやみません。
投稿: ヤボオ | 2007年11月25日 (日) 12時42分