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2007年10月20日 (土)

映画「ヘアスプレー」トラボルタが気持ち悪い

ヘアスプレーである。自分にとっては昨年末のブロードウェー観劇今年の来日ツアー版観劇に続く映画版の鑑賞だ。もちろん、そのブロードウェー観劇の前にジョン・ウォーターズ版の映画「ヘアスプレー」(1988)は押さえている。

ここで説明しておくと、「ヘアスプレー」はもともとジョン・ウォーターズ監督による映画である。それも氏の出世作「ピンク・フラミンゴ」ほどではないものの、既存の価値観なんてぶっ飛ばせという過激なメッセージを含んだだいぶ悪趣味な映画だ。しかし物語では、それが結果的に人種差別の撤廃といういたって社会的なメッセージに収斂されたため、政治的に正しい映画と解釈することもできる。これを、ブロードウェーのプロデューサーが60年代音楽満載のミュージカル・コメディーに仕立て直して上演したところ、大ヒットとなり2003年のトニー賞を受賞。それをまた映画にしたのが本作、ということになる。

「ウェストサイド物語」の映画版と同じく、この作品も空撮から始まる。そして映し出されるボルチモアの町並み。それは数年前の出張で、ニューヨーク-ワシントン間を非人道的な身体検査を避けるために特急列車で移動したとき、車窓から見たボルチモアと何ら変わるところがない。あの時代が止まったような町並みは、その保守的な土地柄を象徴的に示しているものだ。

本作の出来だが、基本的には舞台に忠実に作られており、ミュージカル「ヘアスプレー」ファンにも大満足の出来となっている。そして初めて「ヘアスプレー」に触れる人にとっても、ユニークな登場人物とゴキゲンな音楽とで観客を力強く引っ張っていく、大いに楽しい一作だ。

チビでデブだけどダンスは抜群の嵐を呼ぶ娘、トレーシーにはオーディションで選ばれたニッキー・ブロンスキー。ブロードウェーのオーディションにも応募したが年齢的にまだ16歳ということで合格できなかったのだという。幼少時よりレッスンを積んでおり、その実力はかなりのもの。踊りだけでなく、歌もいい。これまで観たりCDで聴いたトレーシーは、ちょっとアニメ声がかったかわいい歌い方が多かったが、彼女の歌い方は本格的で、声量も十分。舞台にも出て、カルロッタとか演じてほしいほど。そしてもちろんチャーミングな、なんたって18歳だ。

そして力士のように太ったその母に、「グリース」以来29年ぶりのミュージカル映画出演となるジョン・トラボルタ。「サタデー・ナイト・フィーバー」の大スターから、鳴かず飛ばすの時期を経て、「パルプ・フィクション」で華麗に復活、個性派スターとして引っ張りだこになったと思いきや、新興宗教サイエントロジーの広告塔として「バトルフィールド・アース」という珍作を作っちまい、以来すっかりラズベリー賞の常連に。この人の人生は、映画以上に面白い。当然自分の大好きな役者だ。そのトラボルタが巨漢の女性に扮する。もうそれだけで期待にこちらの胸もふくらむというものだ。そしてスクリーンに登場したトラボルタは、ジョン・ウォーターズ版のディヴァインが明らかに男だったのに対し、驚いたことにきっちり女になりきっていた。それだけにかえってキモチ悪い。旧作がカラッした悪趣味なのに対し、これはねっとりした悪趣味だ。フィナーレでは微妙に「サタデー・ナイト・フィーバー」な動きや、「パルプ・フィクション」な動きもにじませつつ、キレがいいのか悪いのかよく分からないふしぎなおどりを披露。これは一見の価値があるのでぜひ劇場に足を運んでほしい。

トラボルタの夫役には「バットマン・リターンズ」でペンギンを操りバットマンと対峙した冷徹な悪役が印象的だったクリストファー・ウォーケンだ。「さえない男」のイメージがある同役には、ちょっと意外かつ豪華なキャスティングである。そしてそのクリストファー・ウォーケンを含むところあって誘惑しようとするテレビ局プロデューサーにミシェル・ファイファー。そう、「バットマン・リターンズ」でウォーケンに恋し、裏切られて殺されかかってキャットウーマンに転生したのが彼女だ。あの窓から突き落とすシーンは実に悲惨だっただけに、この2人のからむシーンを観ていると何となくほっとするのは俺だけではあるまい。ちなみに、元祖「さえない男」を旧作で演じたジェリー・スティラーはトレーシーをイメージキャラクターに起用するアパレル会社の社長として本作にも出演している。

ほか、映画版「シカゴ」のママ・モートンも記憶に新しいクイーン・ラティファも参加しており、実に豪華な顔ぶれで大ヒットミュージカルの映画化したわけだが、無論この映画はそれだけではない。"Mama, I'm a Big Girl Now"を大胆にカットするなど多少曲の入れ替えも行っているし(その代わり、エンディングで流しているあたりはさすが)、展開も少し変えてテンポをよくしている。"I Can Hear the Bells"は舞台版がいかにも舞台的な演出だったので、ここは逆に映像ならではの手法で見せてきた。このシーンは見ていて本当に楽しかった。そしてラストにもサプライズなヒネリを加えてきた。舞台の魅力を忠実に再現しながら、独自色を発揮するのにも成功している。

トラボルタのキモチ悪さ以外は、「毒気」はさらに抜かれた印象もある。その一方で、人種差別というテーマ性はより強調された。それによってますます政治的に正しい雰囲気になってしまった点には、この作品の悪趣味さを買っているファンとしてはやや複雑な気持ちもある。だが決して説教くさくなく、歌って踊れば人生は最高だよ!というマンマ・ミーアなフィナーレはある意味とてつもなくノウテンキであり、その無責任さはジョン・ウォーターズのアナーキーな作風に通じる、という解釈ができないこともない。

とにかく、ひとことで言えば楽しい映画。音楽も実に丁寧に作り込んであるので、ぜひ音響施設の優れた劇場で観ることをお勧めしたい。

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このピニール製のPOP、ちょっと欲しい。

映画「ヘアスプレー」公式サイト(音が出ます)
http://hairspray.gyao.jp/

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コメント

やった!コメント一番乗り!

私もつい先ほど見てきました。
全体的に今日もヤボオさんの評価にさんせいなのですが、私の印象としては、「やや上手につくりすぎているな」という感じでした。

前作ってもっとハチャメチャに飛んでいたような気がしました。

まあ、今作も面白いことには変わりないのですけど。
また、意見がまとまってきたらコメントします。

投稿: よしぼう | 2007年10月22日 (月) 01時24分

こんばんは

まあ、今回は明るく楽しい映画、ってことでよいのではないでしょうか?

パンフレットによればウォーターズは今回の監督に「ぽっちゃりではダメだ。デブを出せ」と言ったらしいですが、それを守ったことで「ヘアスプレー」らしさを保てたような気がします。

投稿: ヤボオ | 2007年10月22日 (月) 23時48分

お久しぶりです。
実は私は学校の部活で2年前にヘアスプレーをやりました。

今回の映画はミュージカルのよさを残しつつ映画としてのよさを出していたと私は思いました。キャストもすばらしかったです。
ただペニーがシーウィードより背が高いのは…。

話に深みも出してましたよね。
でも結構好きだった「The Big Doll House」がなかったのは残念です。
まあ全員で牢屋で歌ってるっていうのがもとから無理矢理ですけどね。

それにリンクがトレイシーを助けに行くわけではないのが…。
でも前作も確かそうでしたよね?
あれ?トレイシーが牢屋にいる間はリンクは病院にいるんでしたよね。

あと「I Know Where I've Been」は、ミュージカルの、夜中のレコードショップで歌うというほうが私は好きでした。

投稿: 凛 | 2007年10月28日 (日) 20時14分

こんにちは。

あのアバンギャルドな作品を学校で上演するなんて!すごいです。やはりエドナは男性が?

ミュージカル版は、後半少し脚本が荒っぽいところがあるので、映画はそこをうまく修正したように思います。でもカットされた曲は残念でしたね。

確か前の映画でもリンクは助けに行っていないと思います。どっちかというと、このくだりは助けに行かないほうが個人的には好きです。

投稿: ヤボオ | 2007年10月28日 (日) 23時34分

いえ、女子校なので女性でした。
なので男役も皆女の人が演じました。

ちなみに私はリンクを演じたんですよ。笑
そこからペンネームの凛が来てるんですけどね…。

リンクという役はかなりの勘違い野郎で、助けにいかないとその感じがよく出ますよね。人前ではかっこつけてて人気があるけれど、実際はすごく不器用というか。助けに行っちゃうと、ただのヒーローになっちゃうなって感じはありますよね。

投稿: 凛 | 2007年10月28日 (日) 23時49分

やや、リンク様でありましたか!
お見それいたしました。

鐘が聞こえる~♪

投稿: ヤボオ | 2007年10月29日 (月) 23時25分

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