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2007年9月26日 (水)

ツンデレ化する劇団四季

劇団四季はきょう、9月4日に突然中止した出演者名の公表を再開した。WEBサイトのコンテンツである「キャストボックス」を復活させたのではなく、各演目ごとのページにサブコンテンツとして出演予定者を発表する形式である。この空白期間、会場に行かなければ分からなかった「実際に出演した俳優」の名前も、きちんとWEBで報告するという。回りくどいが、情報内容としてはほぼ以前のレベルに近いものになっている。

もっとも、相変わらず四季の公式ウェブサイトでは「ファンの声を真摯に受け止め」といったような姿勢は一切なし。それどころか浅利慶太代表の言いたい放題ロングインタビューまで掲載する始末だ。にもかかわらず、実態としてはサービスを元に戻している。ほんとに素直じゃない。

「べ、べつにあたしはキャストの情報なんてどうだっていいんだからね。でもまあ、アンタがどうしても、って言うんならちょっとぐらい教えてあげてもいいけど・・・」

いつから四季はツンデレ属性になったのだ。

ひととおり真面目に代表インタビューを読んでみると、折り合いの付け方としてはこういうことのようだ。

・四季は「作品至上主義」ではあるが、「唯作品主義」ではなく、役者も作品の一部であり、二番目か、少なくとも三番目ぐらいには大事な要素である。それについて情報を公開することはやぶさかではない。

・これまでWEBサイトでは作品ごとのページと並んでキャストボックスがあったが、これは主義と相容れない。あくまで作品のページの中で、作品の紹介の一部としてキャストを公表する。

WEBサイトの階層構造を落としどころとして利用するとは、考えもよらなかった。頭のいい人もいたものだ(ちょっと棒読み)。だがそこには四季の社員達の血のにじむような交渉があったことも感じられなくはない。

さらにこのインタビューを読んでいくと、「生涯賭けてきた演出の仕事の、60%は『キャスティング』」と役者の起用を重視する姿勢を見せ、その上で「俳優たちが、いろんな作品で別のキャラクターを演じる。そこを楽しんでいただきたい」と、だいぶこちら側の言い分に近いことを言っている。さらには、これまでほとんど公表されることのなかった、今後のキャスティング予定についても「濱田・沼尾コンビは年内続投」「花代マリアはもう少し先」「渡辺正がラダメス稽古中」とリップサービスしている。ツンデレどころかデレデレだ。なーんだ、キミも役者が好きなんじゃない。つかキミの奥さんは女優だったな。

てなわけで、いったいこの3週間ほどの大騒ぎは一体なんだったんだ、というしまらないオチになった。

 

とは言うものの、今回の騒動は、自分が四季を観るようになってから20年弱の期間で、幾度か繰り返されてきた事件の中でも最大級の危機だったと思う。四季とファンはまさしく一触即発のところまで来ていた。それが最悪の事態を回避し、かつそれなりの落としどころに軟着陸できたのは、ひとえにファンが軽率な行動に出ず、大人の態度で四季に対し意見を述べたからだと思う。

多くのブログに、自分はこう思う、こんなことを書いて送った、というエントリーがあがったが、いずれも冷静かつ論理的で、しかも四季、そして演劇全体への愛情を感じさせるものばかりだった。自分のような感情論とおちょくりしかないブログとは大違いである。そうした誠意ある意見が大量に届いたことで、代表も考えを変えたことはほぼ間違いないだろう。今の世の中、消費者が騒ぎ、マスコミがそこに乗っかって大騒ぎになり、企業がしぶしぶ対応するという場面はよくある。それに比べれば、今回の四季のファンたちがとった行動は実にスマートであり、その結果は大いに価値のあるものだ。これは誇っていいと思う。みなさん、本当に尊敬します。

 

だがしかし。これで一件落着かといえば、無論そうではない。

第一に、根本的な問題は何ひとつ片づいていない。一時的なサービス低下がもとに戻りました、というだけの話だ。根本的な問題、それは公演レベルの低下だ。もちろん、20年前と比べれば、四季の公演レベルは比べものにならないぐらい上がっている。しかし、近年外国人だけでなく日本人の俳優も含め、首をかしげるようなキャスティングが多いこともまた事実だ。これに対し、四季は何ひとつ答えていない。今回のキャスト騒動も、外国人俳優に目が向けられないための措置、という見方がある。日本人名の芸名付与もそうだ。代表は「あくまで本人の要望があれば」と言っているが、「自由意思」を建前とした強制、というのはいつの世にも存在する。まして、インタビューにあるように「同じ苗字がたくさんいて覚えられない」というのは、差別以外の何ものでもあるまい。自分は、前のエントリーからの繰り返しになるが、外国人俳優の起用そのものには反対しないし、「お気に入り」の外国人俳優もたくさんいる。だがそれは実力があっての話であることは当然だし、演じるときは自分の国の名前で堂々と、誇りをもって演じるべきだという考えは譲れない。

第二に、9月16日の社長声明における「正常ではない」発言、そして「買わない会員は退会」発言は、その文章のまずさから多くのファンに無用の心配を抱かせ、そして傷つけた。社長名で出された発言が人を傷つけた以上、これは謝罪があって当然であると考える。これについての釈明も現在のところない。

第三に、結局代表の登場によって事態の収拾を計っている点である。やはり四季は浅利代表あってのもの、というイメージがますます強化され、四季という組織の自律性は全く機能していないことが証明されてしまった。つまり代表が倒れたら、遠からず四季は崩壊する。ほかのカンパニーが現在四季が手がけている演目をすぐ受け継げるとは到底思えない。それは困るのである。「作品」のファンとしては。

もちろん、のっぴきならない状況なので、シンボル的な存在として代表にお出まし願った、というならまだいい。だがどう考えても今回の事態は原因を作ったのも代表である。騒動を起こすのも代表なら、それを鎮めるのも代表という、究極の自作自演。キラとLを両方演じている夜神月くんもビックリである。

もともと、浅利慶太という人はツンデレだったんだろう。演出家としての意地を通すツンの部分と、政治家や大企業、そして消費者の心をつかむデレの部分と。だが以前は「劇団」というフィルターを通ることで、ツンデレというある種の毒は直接観客に届くことがなかった。今回、ダイレクトにその毒にわれわれが当てられているということは、フィルターが機能していないことの何よりの証左だ。それどころか、何を勘違いしたかそのフィルターまで毒を吐いてしまった。浅利慶太という演出家個人でなく、劇団四季という組織全体がツンデレ化してしまったのである。

「役者ではなく作品を見ろ」というのは理解できる。だがこう言い返したい。「演出家ではなく、作品を見たいのです」と。スターを排するという主義が、実は演出家をスターにする主義でした、というのでは興ざめもいいところではないか。

自分は別に浅利代表に黙っていろとか引退しろとか言うつもりは毛頭ない。むしろもっと暴言でもなんでも吐いてくれたほうがおちょくりがいがあって嬉しい。あくまで演出家としての言葉であれば(浅利氏も四季株式会社の代表権を持っているので、甘いと言われるかもしれないが)、多少の暴言は許されると自分は思う。富野由悠季の暴言が(ある程度までは)許容されるように。しかしその暴言の毒は、「劇団」という組織の中できちんと分解された上で社会に届けられなくてはいけない。それを現在の四季が全く果たせていないところに、今回の騒動をここまで大きくしてしまった元凶がある。

 

さて、今後どうしていけば四季にとって、ファンにとってベストの解となるのか。それは分からない。分かっていたら俺はいまごろどっかの社長にでもなっている。現実的に、第一、第二の問題は、そう簡単には解決を見ないだろう。ファンの側としても、ねばり強く、しかしあくまで大人の姿勢で、要望を述べていくしかない。

第三の問題については、社長以下の四季の社員にがんばってもらうしかないが、これは株主でもない自分が言える立場ではない。ただただ、その奮起を期待する以外にできることはない。とりあえず、浅利代表がツンデレの両面を演じているところを、ツンだけのキャラにして、デレは社員の誰かに任せてみてはどうだろう。そうだ、せっかく今回名が売れたので、佐々木社長がいい。ウェブに掲載されたロングインタビューも、あのような自演の香りが漂う中途半端なものでなく、観客のためを思う社長とわがままな演出家の対談にしたらいい。手本になるのは「日本一まずいラーメン屋・彦龍の店主『憲彦』さんブログ」だ。

こんな感じ
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社長:
キャストボックス終了について、多くのご意見をいただいているようですが?

代表:
お前が説明したんだろ?ならそれでいいじゃねえか

社長:
あなたもその意見に……。

代表:
賛成賛成、両手を上げて大賛成だよ。何言ったか知らねえがな。そういや俺あての手紙もたくさん来たぜ。

社長:
それをお読みになって……。

代表:
ああ読んだ読んだ。2、3通な。結構マジに書いてあったんで、会員の奴らもいっぱしに読み書きができるんだなって初めて知ったよ。あんまりうるせえなら別にいいんじゃねえか?キャストボックスぐれえ復活させてもよ。まあそのうち大人しくなるぜ。

社長:
私の声明で「どういった会員が退会になるのか」「私も退会になりますか」など不安に思っていらっしゃる会員の方がおられるようですが。

代表:
決まってるじゃねえか、買わない奴らだよ!そうはっきり言わねえからぶつぶつ言われるんだろうが。
---------------------

ほら、代表がいい人に感じられて、四季の社員も支えてあげたく……ならないか。

 

とにもかくにも、不便さが解消されてほっとしている。今月内に何も動きがなければ、「四季の舞台は観ませんよ宣言」を10月まで延長しようかとも思っていたが、それはやめる。濱田・沼尾コンビはしばらく出るらしいし、花代マリアも近日公開を期待できそうだし・・・というわけで、今後もこの「正常ではない観劇態度のブログ」をどうぞよろしくお願いします。

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コメント

始めて書き込みさせて頂きます。
つい最近こちらのブログに辿り着き、あんまり面白くてミュージカル関係の記事は過去の過去まで残らず拝見させて頂いちゃいました。

>「役者ではなく作品を見ろ」というのは理解できる。だがこう言い返したい。「演出家ではなく、作品を見たいのです」と。

この一文を見て思わず吹き出してしまいました。
全くその通りですよね(笑)。
「正常ではない観劇態度のブログ」、大好きですv
これからも応援してます!!

投稿: satoko | 2007年9月27日 (木) 00時19分

satokoさんこんにちは。

考えてみたら、正常ではないのは観劇態度のみならず、生活態度全般なのではないかと最近やっと気が付きました。

こんなくだらないものですが、今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: ヤボオ | 2007年9月28日 (金) 00時23分

初めまして。キャスボ廃止についての記事が全て的を得ていて、読みながらうなずきまくっていました。
社長からの言い訳と、浅利氏のインタビュー、いくら理解をしようと頑張ってみてもできません。突っ込み所満載で何から言えばいいのか…
怒りというより、ショックです。本当にファンの声を真摯に受け止めるという姿勢は全くないですよね。
それどころか、好きな演目を何回でも見たいファンに対して自然ではないと言ったり、特定の俳優を見たい人に対して「四季以外のスター主義のものを見ればいい」と言ったり、挑発してるかのような発言をされていますから。別にスター主義のものを見たいのではないんですけど…四季に出ている俳優が見たいのに他で見ろと言われても困ります。
このインタビュー記事、載せない方が良かったのではと思います。

投稿: あっきー | 2007年9月29日 (土) 00時41分

あっきーさんこんにちは。
代表インタビューは確かに全く筋が通ってませんね。
あれは演出家のハチャメチャ(死語)ぶりを楽しんでもらおうという読み物なのではないでしょうか。

企業の代表者としてのしかるべきコメントは、別にあって当然と思います。

それがあの社長コメントだというなら、チャンチャラおかしくてヘソが茶を沸かします。

投稿: ヤボオ | 2007年9月29日 (土) 10時55分

こんにちは。
またまたこちらでキャストボックスの件を知りました。
四季に関する情報はこちらで得た方がいいですね!
面白いし(笑)
それにしても今回の件は何だったんでしょうね・・・。

ところでお伺いしたいのですが
保坂知寿さんって休団中らしいのですが
(最近知ったのです。苦笑)
ご病気なのですか?それとも何か確執でも??
ご存知でしたら教えて下さい。

投稿: シリウス | 2007年9月29日 (土) 19時52分

はじめまして、ぼくも保坂知寿さんのことは大変気になっています。このサイトは2月の知寿さん休団の記事で知りました。いろいろ噂もあるようですが、実際のところ四季の関係者でなければ分からないと思います。実際体調が悪いのか?
実質退団なのか全く分かりません。四季のルールで退団後1年経てば、他のカンパニーに出れると思います。1年様子を見るしかないのでは・・・。ほんとに僕も知りたいし、元気な舞台姿が早く観たいです。

投稿: テツ | 2007年9月29日 (土) 22時06分

初めまして
ちょっと前に保坂さんの記事を探していてたどり着きました。
むなしい願いかもしれませんが、また保坂さんのドナが見たいです。
今回のキャストボックスの件で「ツンデレ」化する四季、
富野さんのお名前まで見つけて思わずにやっとしながら
読ませていただきました。
私のように地方から東京まで出かける者にとって、
「情報」がもたらす利便性も考えてほしいなあと思います。(全国公演と東京の公演の差が見え隠れするのも事実ですが…)
逐一的を得たお話でした。
またお邪魔させてください。

投稿: tizu | 2007年9月29日 (土) 22時21分

>さて、今後どうしていけば四季にとって、ファンにとってベストの解となるのか。それは分からない。分かっていたら俺はいまごろどっかの社長にでもなっている。

家族で毎回爆笑しながら読ませていただいておりますが、かなり前から皆口を揃えて「ヤボオさんが社長になればいいのに」って言ってました(笑)

私は浅利さんの言い分がわからないわけでもありません。理想を追う芸術家としての姿勢は尊敬します。でも、言葉が乱暴なんですよね。好きな俳優で観たいという方に「だったら四季以外の舞台を御覧になれば」なんてショックですよ。俳優の名前も知らずに初めて四季の作品を観たときの感動があるからこそリピーターになり、好みの俳優も出てくるんですから。

私はどの演目もキャストにものすごくこだわることはありませんが、JCSだけには個人的に特別な想いがあります。これだけはどうしてもスンラユダで観たい。絶対に譲れないんです。そんな作品が一つくらいあったっていいじゃないですか。

投稿: サーディ | 2007年9月30日 (日) 00時42分

シリウスさん、こんばんは。

テツさんもコメントされてますが、保坂さんのことは内部の人にしか分からないと思います。

さまざまな憶測は出てますが…

投稿: ヤボオ | 2007年9月30日 (日) 00時50分

テツさん、こんにちは。

保坂さんがどういう決断をされても、正常でない観劇態度の保坂ファンとしてありのままに受け入れたいと思います。

でもやはり、おっしゃるように元気な姿をまた観たいですね。正直な気持ちとしては。

投稿: ヤボオ | 2007年9月30日 (日) 00時57分

tizuさん、こんにちは。

保坂知寿という女優が四季にとっていかに大きな存在であったのか、ひしひしと思い知らされています。

何かこう、パッと明るい話題でも欲しいところです。

投稿: ヤボオ | 2007年9月30日 (日) 01時09分

サーディさん、こんばんは。

特別な思い、素晴らしいではないですか。それが自然だと思います。

自分はスンラユダ未見なので、芝ユダや沢木ユダとどう変わるのか、興味あります。

京都に登場したら、突発しちゃいそうで恐い。

投稿: ヤボオ | 2007年9月30日 (日) 01時16分

みなさん!保坂さんに関するコメント、
ありがとうございました。

>四季のルールで退団後1年経てば、他のカンパニーに出れると思います。

そうなんですね。そんなルールがあったのですね。

そういえば、レ・ミゼを観に行って
何となく楽屋口で出待ちというのをやったことがあり
坂本健児さんに握手をしていただきました。
「シンバだ!」と、ちょっと嬉しくなりました。
退団後の初のミュージカルの仕事でした。
しばらく姿が見えないと思っていたのですが
そんなルールがあったからなのだと今回初めて知りました。

それにしてもキャストボックスが復活して良かったですね。
経済的事情や仕事の休み等の事情もあり
私は1作品1観劇なのでキャストまで選べません。
いえ、私のような人もいるのだからキャストを選んで
チケットを買いたいという方もいるでしょうからね。

長い書き込み、失礼しました。また遊びに来ます。

投稿: シリウス | 2007年9月30日 (日) 16時49分

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