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2007年7月12日 (木)

「レ・ミゼラブル」歌穂禅カップルは最高

ジャン・バルジャン 橋本さとし
ジャベール 今 拓哉
エポニーヌ 島田歌穂
ファンテーヌ シルビア・グラブ
コゼット 菊地美香
マリウス 石川 禅
テナルディエ 駒田 一
テナルディエの妻 田中利花
アンジョルラス 岸 祐二

さて、今期3回目のレ・ミゼラブルである。

今年からバルジャン役として登場した橋本さとしとついにご対面だ。といっても橋本さとしは新感線時代に何度か見ている。特に「ゴローにおまかせ3」のオカマ軍団の隊長、「直撃!ドラゴンロック~轟天~」の橋本じゅんと対立する悪の組織の首領といったあたりが記憶に残っているが、残念ながら初の主役を射止めた「BEAST IS RED~野獣郎見参!」は見逃している。

新感線を飛び出した後はあまり目立った活躍もしていないので残ってればよかったのに、と思っていたが、東宝ミュージカルに認められ、ミス・サイゴンのエンジニアに続き、バルジャン役までつかんでしまった。人生分からないものである。

その橋本バルジャン。当然のことながら、若さあふれるバルジャンである。長身を生かしたキレのいい動きで魅了する、これまでにないタイプだ。そして話すような声で自然に歌うのがいい。レ・ミゼラブルのように全編が歌という作品は、力んだ歌い方ばかりでは疲れてしまうからだ。

声量はそりゃ山口祐一郎や今井清隆と比べたらいまいちだが、高音もきれいに伸びるし、十分合格点ではないか。熱のこもった演技も見ていて心地良い。

まだ荒削りだが、今後磨き上げていけばいいバルジャンになるだろう。しかし、現時点では、ある決定的な要素が欠けているように思う。

それは、「敬虔さ」だ。

一幕では、だいたいいいんだけど、でも違う、とムッシュ・レイエのようなことを思いながら観ていた。二幕に入り、「彼を帰して」でようやく分かった。

バルジャンにとって、神に対する姿勢は演技する上で極めて重要だ。あの軽い山口バルジャンですら、「神よ」「主よ」と口にするときには、そこに特別な響きがこもる。しかし、橋本バルジャンにはそれが感じられないのだ。

恐らく、それは今まで彼の経験してきた役の中にはないものなのだろう。日本人には皮膚感覚で理解できないものでもある。それを学ぶには、この作品を徹底的に観るしかない。滝田栄バルジャンがいればいい手本になっただろうが……。東京公演千秋楽までに、ぜひそこをつかんでほしいものだ。歌も演技も合格点なのだから、もうひといきだ。

対するジャベールは今拓哉。アンジョルラスでは見たことがあるが、ジャベールは初見である。このジャベールも、橋本に負けず劣らず「若さ」を感じさせる。生意気な若い役人、という風貌で、ジャベールって若いころはこうだったんですよ、という「ジャベール・ビギンズ」を見ているようだ。セーヌ川に飛び込んだあと、奇跡的に助かって、あのふてぶてしいジャベールができあがるのだ、と変な想像をしながら見ていた。

だから橋本バルジャンとのバランスもぴったりで、若さのぶつかりあう、フレッシュな「対決」はなかなかの見物である。

しかし、この日の主役は、バルジャンでもジャベールでもなかった。スペシャルキャストの石川禅マリウスと、島田歌穂エポニーヌである。

今季からジャベールを演じている石川が、かつての当たり役マリウスを演じる。年齢的にはかなりきつい。最初出てきたときには、「うっ」と思うほど、無理矢理感が漂っていた。特に生え際あたり。

しかし、表情や演技、声は明らかにマリウスである。それも現役マリウスが束になってかかっても太刀打ちできないほど完璧な、150%のマリウスだ。生真面目で、不器用で、優柔不断で。まるでマリウスがおじさんの体に乗り移っているようにも見える。しかしだんだん、(慣れてくるのか)姿形もマリウスそのものに見えてくるから不思議だ。演技とはかくあるべし。おじさんが演じることで、マリウスの本質のようなものが逆に見えてくるのだろうか。女形が女より女らしいように。浄瑠璃の人形が表情とは何かを教えてくれるように。

でもときどき、「おじさんがいるなあ」と思ってしまう場面もないではない。ABCカフェに、ひとりだけおじさんが座っている。しかし、それが妙な違和感ではなく、ほほえましさを呼んでしまうのは石川のキャラクターの強みだろう。まあ、「彼を帰して」で橋本が「若い~彼を~」とか「まるでわが子です~」と歌ったとき、不謹慎にも脳内で吹き出していたことは認めよう。

美香ちゃんコゼットとのバランスは、「異国の丘」での下村ボチと花代愛玲のバランスより悪い。だがこれも石川のキャラクターが生きて、「援○交際」ではなく、父と娘のように見えるのは幸いだ。結婚式のシーンは、なんだか「マンマ・ミーア!」のサムとソフィのように見えた。うん?禅サムってなんだかとってもぴったりじゃないか?ぜひ博多座の公演のあと、そのまま福岡にとどまり、かなり厳しい状況になりつつあるサマー・ナイト・シティ・タヴェルナを助けてあげてほしい。

そのマリウスと絶妙に呼吸を合わせていたのが島田エポニーヌ。この人のエポニーヌは、初演以来ずっと見続けていたわけだが、レギュラー出演していた最後のころは、実はちょっと避けていた。本田美奈子のエポニーヌに心を奪われていたこともあったが、どうも貫禄がつきすぎてエポニーヌらしくないように思えていたからだ。だが2005年に2000回記念キャストとして復帰したとき、島田はすっかり変わっていた。引き締まった体と演技で、エポニーヌの悲しさを痛いほどに表現していた。

そして2年ぶりに見た島田エポニーヌは、一層研ぎ澄まされていた。舞台に登場しただけで、空気が変わってしまうほどの存在感。「オン・マイ・オウン」を歌い始めると、全ての観客の神経がすっと一点に集まり、異様なほどの緊張感が劇場全体を包み込んだ。

正直なところ、声量はピーク時に及ぶべくもない。しかし、そんなことは全く気にならないほど、いやむしろ昔以上に、感動を引き起こしてくれるエポニーヌだった。石川が150%マリウスなら、島田は200%エポニーヌだった。

この2人が演じた「恵みの雨」。死を迎えるエポニーヌと、それを見守るマリウス。お互い消え入りそうな声で、歌い続ける。誰もが耳をそばだてて、その息づかいを感じようとしている。このシーンで涙が出そうになったのは何年ぶりのことだろう。素晴らしい演技を見せてもらった。

カーテンコールでも、ひときわ大きな拍手を集めていたのはやはりこの2人。テナルディエに背中を押され、真ん中に出てきた2人が、「こんな若い役やっちゃってスミマセン」とばかりにぺこりとおじぎをしたのがかわいかった。そして最後は石川が島田をおんぶする大サービス。すると負けじとばかりに橋本が今を背負う。会場は大爆笑だ。

この2人の安定感によって、この日の舞台は支えられていた。そして、ほかのスペシャルキャスト登場公演はいつも以上に緊張感が漂うものだが、この日は2人のキャラクターのなせる業か、ずっと和やかなムードに包まれていて、終演後はあたたかい気持ちで帰途につくことができた。こんなレ・ミゼラブルも、たまにはいいかもしれない。

レ・ミゼラブルのホームページ
http://www.tohostage.com/lesmis/top.html

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コメント

こんばんは。

禅ちゃんと歌穂さん。
ほぅ・・・。

いつも完璧なレポに感服です。

投稿: こえり | 2007年7月15日 (日) 02時42分

年齢を重ねることで役に磨きがかかる、ってことがあるんですね。例え老け役でなくても。

本当にこの日は2人のベストカップルぶりに感動しました!

投稿: ヤボオ | 2007年7月15日 (日) 19時01分

信長野様、初めて拝見致しました。物凄い洞察力・詳細なレポート、目から鱗です!
私も、石川マリウス&島田エポニーヌ観ましたが、「感動!!」「号泣!!」と言った単語でしか表現できなくて…。ほんとにほんとにすばらしかったので、友人にも伝えたのですが、感じたことの1%も理解してもらえなかったかも、と落ち込んでいたんです。
でも、信長野様の見事なレポを拝読して、私の言いたかったことすべて網羅している!、とまたまた感動してしまいました。語彙が乏しくてすみません。勉強になりました。ありがとうございます。

投稿: ゴンタ | 2007年7月17日 (火) 21時44分

ヤボ夫さん、こんばんは。
久々に書き込ませていただきます。
私も同じ日にスペシャルなマリウス&エポニーヌを楽しみました。
禅さんも歌穂さんもなんて丸くて優しい歌い方をするんでしょうか。
悲しい、悔しい場面であってもこちらの心を穏やかにしてくれる
ような気がしました。
ただマリウスが登場早々「こいつぅ」みたいな感じでエポニーヌをつっついた所は(後方の席だったので確かではないかも知れませんが・・・)微笑ましさのあまり動揺してしまいました。

投稿: ちゅんた | 2007年7月17日 (火) 22時46分

ゴンタさん、初めまして!

このカップルは2005年の記念キャスト公演でも見ているんですが、そのときはほかの記念キャストも一緒だったので、突出した印象はなかったんですよね。今回、若いキャストにまじったことでその存在感がくっきり浮かび上がったんだと思います。マリウス&エポニーヌで作品の印象がこんなに変わるなんて!レ・ミゼラブルはまだまだ奥が深いですね。

投稿: ヤボオ | 2007年7月18日 (水) 00時05分

ちゅんたさん、こんにちは。

本当に観客をまるごと優しく包み込む、ナイスカップルでした。
禅マリウスの「何だよふざけて~」は歴代マリウスの中でも抜きんでてキラキラ状態です!そういえば野口五郎マリウスのはどうだったかなあ?さすがに思い出せません。もう映像は全く残ってないらしいのが何とも残念ですね。

投稿: ヤボオ | 2007年7月18日 (水) 00時10分

ヤボオさん、こんばんは。

私ごとき初心者に、温かいコメントを頂き、恐縮です。本当にありがとうございます。私が生まれて初めて観たミュージカルの生の舞台が、2005年の『レ・ミゼラブル』スペシャル公演でした。その時のマリウス&エポニーヌが、石川禅さん&島田歌穂さんのコンビでした。今思えば、正直言って、何の予備知識もなく、素人がいきなり独りで観たせいもあり、作品の理解はほとんどできていなかったと思います。でも、その素人の私でも、言葉にはうまく表現できないけれど、「衝撃」を受けたことは鮮明に覚えています。
その後、素人なりにできる限り多くの舞台を観るようにしてきました。
昨年の通常キャスト版『レ・ミゼラブル』も観ましたが、不思議なことに、2005年のスペシャルの時のような「衝撃」がなかったのです。変になれちゃって新鮮味に欠けるせいかなあと、ちょっとがっかりしていました。
ところが今回、石川禅&島田歌穂コンビを、幸運にも再度観ることができ、2年前の衝撃が蘇りました。この二人はやっぱりすごい、今の若いキャストの中に入ると、全然レベルが違う!超初心者の私が、2年前に受けた「衝撃」は決して幻ではなかったんだ!と思いました。
でも、その感動を全然うまく表現できず、友人にもうまく伝えられず、落ち込んでいたのです。そんな時、偶然ヤボオさんのレポートを拝読した次第です。私の言いたかったこと、すべて代弁してくださいました。本当に本当に、ありがとうございました!

投稿: ゴンタ | 2007年7月18日 (水) 21時56分

エンターテイメントを前にして、初心者もベテランもないです!

レ・ミゼラブルは永遠に演じ継がれていく傑作だと思いますので、また衝撃を与えてくれるキャストが登場してくれるのではないでしょうか。きっと。

投稿: ヤボオ | 2007年7月19日 (木) 00時25分

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