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2007年7月28日 (土)

劇団☆新感線2007年夏休みチャンピオン祭り「犬顔家の一族の陰謀~金田真一耕助之介の事件です。ノート」

<作・演出>

いのうえひでのり

<出演>

宮藤官九郎、木野 花、池田成志、古田新太、勝地 涼、橋本じゅん、高田聖子、小松和重、粟根まこと、逆木圭一郎、右近健一、河野まさと、村木よし子、インディ高橋、山本カナコ、礒野慎吾、吉田メタル、中谷さとみ、保坂エマ、村木 仁、川原正嗣、前田 悟

※役名を書くだけでネタバレになるのでテーブル表記をやめました。

 

劇団☆新感線の本公演。2004年の「レッツゴー!忍法帳」以来3年ぶりとなる、ギャグ満載というかそれだけしかない「ネタもの」作品の登場だ。

近年の新感線は、中島かずき脚本による時代劇エンターテインメント「いのうえ歌舞伎」を中心に回っているが、数年に一度のペースでただ馬鹿馬鹿しいだけの「ネタもの」を出してくる。いのうえ歌舞伎が大手プロダクションや大物俳優をゲストに迎えた大がかりな舞台になりつつあるのに対し、ネタものは新感線プロパーと気心の知れた役者で構成し、全体的に手づくり感ただようアットホームな公演になる。

自分としては、その2つが未分化でいることこそ新感線作品、という気もする。だが、人はいつか大人にならなくてはいけない。同じスタイルに固執していては劇団として成長できない。実際、この分割を明確にしてからの新感線は破竹の勢いで快進撃を続けている。「いのうえ歌舞伎」は市川染五郎という本物の歌舞伎役者も迎えてパワーアップし、ファン層を飛躍的に拡大してきた。そして、初心を忘れないために、というより童心に帰って徹底的に劇の世界に遊ぶためにネタものに取り組むのだろう。

いのうえ歌舞伎もいいが、ネタものは心の底から大好きだ。ただ馬鹿馬鹿しいことをするためだけに、今や舞台だけにとどまらず、テレビや映画にも活躍の場を広げている人気・実力を兼ね備えた新感線の役者たちが結集し、全力を尽くす。そこにはやはり、笑いを武器に演劇界に旋風を起こしてきた、関西発劇団の意地が感じられる。

もう公演の発表、そしてナイスなタイトルを聞いてから楽しみで楽しみで仕方がなく、東京公演が待ちきれずに大阪まで来てしまった。劇団が全力で馬鹿なことをしてくれているのだ。ファンとしてもそれ相応の姿勢で臨まなくては失礼である。だから一度やってみたかった「新幹線に乗って新感線を観に行く」という夢をここで実現することにしたのだ。

さてその作品はどうだったか。

素晴らしい。その一言に尽きる。観ようかどうしようか迷っている人は絶対に行くべき。チケットの入手は困難だが、どんな手を使ってでも観ておいて損はない。ただし、「いのうえ歌舞伎」オンリーなファンは、足を運ばないほうがいいでしょう。いのうえひでのりも雑誌のインタビューでそう語っている。

あと、観る人は「ウィキッド」同様予習が必要。映画「犬神家の一族」は1976年版を必ず観ておくこと。余裕があれば「悪魔の手毬唄」と「八つ墓村」(野村芳太郎版)も。

というわけでここからはかなりネタバレになるので、観た人と観る予定のない人だけ先に進んでください。

 

「犬神家の一族」を中心に、さまざまな映画、舞台、テレビ、マンガなどのパロディーがぎゅうぎゅうに押し詰められたこの作品。その集密度はタイトルが示す通りだ。「劇団☆新感線 2007年夏休みチャンピオン祭り 犬顔家の一族の陰謀」金田真一耕助之介の事件です。ノート」というふざけたタイトルに盛り込まれているのは「東宝チャンピオン祭り」「犬神家の一族」「柳生一族の陰謀」「DEATH NOTE」に加え、流行語にもなった「金田一さん、事件です!」というフレーズ(ドラマ「HOTEL」の「姉さん、事件です!」元ネタになったとも思われる)が見て取れ、さらには金田真一耕助之介(かねだしんいちこうずけのすけ)という名前にはなぜか忠臣蔵の悪役の影響が。もちろんそれにも理由がある。

開幕前、うすぼんやりと見える舞台セットに大きな鏡があるなあ、と思ったらやっぱり最近大阪で開幕したアレだ。しかも四季ネタ3連発。99年の「轟天大逆転」でも「ライオンキング」をもじった「ライオン金太」が登場するなど、四季の作品はこれまでもかっこうの餌食になっているが、ここまでやるとは。それだけ「四季が新感線に認められた」ということか。

四季以外にも、多くの舞台をもじったシーンが登場する。舞台のパロディーというのは、オフブロードウェーなんかでよく演じられてるらしいが、日本でやっているのは新感線だけではないのか。そんなわけで舞台好きなら一層楽しい作品だが、同時にどこまで分かるか試されているようでもある。あとでネット検索していて分かったが、自分もだいぶ見逃していたり、理解できていなかったところがあった。

そして映画「犬神家の一族」の、あの印象深い独特の薄気味悪さを構成していたさまざまな要素を適確に抽出し、容赦なく笑いに換えている。しかしあそこまでツボを押さえられるということは、市川昆+石坂浩二+横溝正史の生み出したあの世界観への深いリスペクトがなくてはできないだろう。いのうえひでのりも、昨年公開されたリメイク版にはやはりがっかりしたのかもしれない。パロディーではあるが、この舞台のほうがより「犬神家」らしかったというのはいいすぎか。

そういえば、開幕前にBGMとして流れていたのはいつものメタルなロックではなく、「ルパン三世」のテーマや「キャプテン・フューチャー」の主題歌などが流れていた。これは、「犬神家の一族」の音楽を担当した大野雄二の手によるものである。細かいところまでパロディー精神とその裏にあるリスペクトを感じさせた公演だった。

笑いの密度も相当なものだ。3年前の「レッツゴー!忍法帳」や2000年の「踊れ!いんど屋敷」と比較しても、笑いは多かったように思う。その密度のため、3時間に及ぶ長い上演時間ながら、全く長さを感じさせない。一幕は「ウィキッド」同様1時間45分もあるが、えっもう休憩?というほどだ。

緻密に練り上げられたギャグの数々に加え、役者同士のアドリブも多い。かつては新感線といえばアドリブ禁止だったはずだが、最近のネタものではそうでもない。ただ、アドリブといっても自分が目立とうというものではなく、役者同士の遊び、という雰囲気だ。台本に従ったやりとりの中で、ふっと想定外のセリフを発し、それを共演者が受け止められるか試しているのである。それに慣れている劇団員は適当に受け流すこともできるが、ゲストはなかなかそうもいかない。木野花が突然話をふられ、その場で何かを話し出すと「その話は面白くなるんだろうな」と突っ込まれたり、小松和重(サモ・アリナンズ)は「なんでそんなこと聞くんだよ!もうイッパイイッパイなんだよ!」と逆切れするといった場面があり、それがまた笑いにつながっていく。実力のある役者同士だからこそ許された高度なアドリブである。

今回、脚本家としてでなく、役者として参加した宮藤官九郎が、金田一耕助ならぬ金田真一耕助之介を演じる。脚本家としての実力は今更言うまでもなく、新感線にも「メタルマクベス」という重厚感のある傑作をもたらした宮藤だが、役者としても異様なまでの存在感がある。演技を生で観たのは初めてだが、その強烈なオーラは観客の視線をとらえて離さない。彼が久保竣公を演じる映画「魍魎の匣」はいったいいつになったら公開されるのか分からないが、がぜん楽しみになってきた。

古田新太に橋本じゅん、高田聖子らはさすがの安定感。水を得たサカナのように、全身全霊を傾けて笑いを取りに走るが、決して互いに打ち消し合うことはない。名人芸のように、あうんの呼吸で演技を酌み交わし、最高の空気感を創り上げている。そして右近健一に河野まさと、村木よし子に山本カナコ、そして御大・逆木圭一郎と、名バイプレーヤー達が確実に自分の立ち位置を理解し、それぞれの個性を生かした笑いを掴み取る。もうとにかく、どこから笑いが飛んでくるか分からない油断のならない状況がびっしり3時間も続くのだ。

97年から新感線に参加している中谷さとみはこの公演で一皮むけたように感じる。今回は保坂エマの妹分のような役所だが、保坂にもいい後継者ができたといったところか。

宮藤以外の客演も豪華だ。木野花は高峰三枝子に匹敵する怪演だし、小松和重は劇団員メンバーの容赦ないいじめ、いやいじりを吸収して面白さを生み出している。そしてもうほとんど劇団員の池田成志も持ち前の中途半端さを如何なく発揮。そういえばこの人、「仮面ライダー電王」にも地味に出ていたな。みんな池田を馬鹿にするけど、「熱海殺人事件」の池田はほんとうに鬼気迫る木村伝兵衛だったのだ。また演じてくれないかなあ。そして映画「亡国のイージス」や、豪華キャストを無駄使いしたドラマ「里見八犬伝」で強烈な印象を与えていた勝地涼が新感線に初参加。あの大衆演劇のスターのようなキリッとした顔立ちは舞台向きだな、と思っていたが、やはりステージ上でも大いに映える。今後も積極的に舞台に出てほしい逸材だ。

ほかにも語りたいことが山ほどある、おなかいっぱいの大満足。こんなにハッピーな気持ちにさせてくれる新感線は、やはり日本演劇界の至宝だ。

この日は、ひとつサプライズがあった。

カーテンコールで、古田新太が「ここでみなさんに悲しいお知らせがあります」と宣言。何事かと思ったら「本日、高田聖子が2回目の成人式を迎えました!」。お約束のバースデーケーキにともされたローソクを吹き消した高田は本当に幸せそうだった。正統派女優としてトップクラスの実力を持ちながら、舞台では嬉々としてヘンな役を演じ、「忍風戦隊ハリケンジャー」にもレギュラー出演した高田。思えば、自分が新感線にはまっていったのは彼女に強い魅力を感じたからだ。美人で演技もうまいが、高田が出てくると舞台が暖かい、やさしい空気に包まれる。それは彼女が法隆寺で生まれ育ったという生い立ちにも関係があるかもしれない。本当に素晴らしい女優である。勢いで決めてしまった大阪での観劇だが、来てよかった、としみじみ思った。

Bunko

新感線の公演は、パンフレットが高い。その分コンテンツも充実しているし、装填も凝ったものになっているが、正直そこまでやらんでもいいからもっと安くしてくれ、という気がせんでもない。今回も2800円というふざけた金額。しかし今回のパンフレットは「買い」だ。パンフレット自体の装填も爆笑を誘う最高のものだし、おまけがすごい。何と文庫本がついてくる。もちろんISBNコードを取った正規の書籍ではなく、文庫の体裁を取った、様々なライターによる「犬神家の一族」へのアンソロジー集だ。ちゃんとカバーや奥付、さらには新刊の案内までついた本格的なもので、期待どおり巻末には「角川文庫発刊に際して」のパロディーが。「角川文庫発刊に際して」をパロ化するのは、学生時代に多くの人が経験しているだろう。自分もそうだった。ちょっと懐かしい。

劇団☆新感線 公演情報

http://www.vi-shinkansen.co.jp/stage/index.html

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