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2007年4月22日 (日)

三谷幸喜「コンフィダント・絆」

ジョルジュ・スーラ 中井貴一
ポール・ゴーギャン 寺脇康文
クロード・エミール・シュフネッケル 相島一之
ルイーズ・ブーランジェ 堀内敬子
フィンセント・ファン・ゴッホ 生瀬勝久

(少しばれます。これから観る人は読まないほうがいいでしょう)

三谷幸喜が当代随一の劇作家であることは、今さら言うまでもないことだ。本人自ら「理数系のコメディ」と表現する、緻密な計算に基づく構造美を追究した芝居づくりの姿勢は常に一環しており、ぶれることがない。同時に、常に新しい表現手法、テーマに取り組むアグレッシブさがある。この2つが同居しているところに、三谷の偉大さがあると思う。

そしてこの「コンフィダント・絆」でも、その偉大さをまざまざと見せつけられることになった。

スーラ、ゴッホ、ゴーギャン、シュフネッケル。19世紀末に生きた4人の画家が、1つのアトリエを共同で借りていたというのがこの物語の設定だ。そのアトリエに、モデルとして雇われたルイーズが足を踏み入れたときから、男たち4人の関係が、少しずつ微妙なものになっていく。観客は、ぎこちない男同士のやりとりに爆笑しつつも、時々刻々と変わっていく4人+1人の関係をはらはらしながら見守ることになる。

熱い友情、というほどではないにしても、それなりに仲が良かった4人。第一幕では、男としての感情によって、それぞれの間にすきま風が吹くようになる様子が描かれる。

続く第二幕では、芸術家としての感情が、そのすきまを埋め、もとのそれなりに仲の良い4人になっていく様が描かれる。

その2つの展開は完全なシンメトリーを形成しており、まさに三谷らしい美しい巧緻さが冴え渡る。さながら一幕と二幕は、同じキャンパスに描かれた2つの絵だ。それらが、スーラが劇中で言うところの「光と影」として融合し、1枚の重厚な絵画を織りなすのだ。

しかし舞台の終盤で、三谷はその完成した美しい絵を、観客の目の前でびりびりと破いてみせる。その絵は、破かれるために描かれたものだったのだ。

そして、破いたあとに残されたもの、すなわちこの舞台上にあって「非・芸術的なもの」が、この作品のテーマ「コンフィダント」だったのだと観客は知る。その衝撃の大きさは計り知れない。同時に、目の前で美しい絵画が引き裂かれたことに、とてつもない悲しみを覚える。衝撃と、悲しさのスパイラルが、圧倒的な力で涙を誘う。

そこに追い打ちをかけるようにラストシーン。ばらばらになった絵画の断片は、もう二度と絵画にはなれないことを人は知っている。しかしどうしても、それをつむぎ合わせようとしてしまうのも人の性だ。そしてやはり戻すことはできない、という現実を前にして、観客はさらに深い悲しみへと突き落とされて、幕は降りる。

4人が元通りになったところで終わったとしても、傑作の部類に入るすばらしい作品だったはずだ。正直に言えば、自分はそこで終わるのだと思っていた。その時点でだいたい上に書いたようなことを頭の中でまとめ、なんとなく客として「勝った気」になっていた。しかしその先にダイナミックな仕掛けが用意されていたのだ。まんまとその計算にはまった自分は、終演後完全に言葉を失った。

その計算の見事さもさることながら、内容的にも感じ入るところが大きい。第一幕では「男の嫉妬」を、第二幕では「芸術家の嫉妬」を描いているが、その2つは等価になっている。つまり三谷幸喜の世界では「芸術」すらも至高のものではない。芸術とか、欲望とか、さまざまな感情とか、物理的・精神的すべてひっくるめたところの、その上にあるもの、「人間」あるいは「生きること」への冷静な眼差しが三谷の目からは感じられる。あのラストシーンが実に悲しいものであるにもかかわらず、どこかそこに温かい気持ちを持てるのは、そこに人間そのものを、観客自身も含めた人の生というものを見いだすからではないのか。

演出も良かった。「12人の優しい日本人」で完璧なまでに繰り広げられた、役者の立ち位置によって感情的な距離感を表現するその手法は今回もうまく用いられている。特に終盤の「3人+1人」になるシーンは、その位置関係がすさまじい説得力を演技に与えている。

今回、歌を効果的に使ったことも特筆すべきだろう。ミュージカルのトップ女優である堀内敬子の心に響く歌声は、複雑な計算式のようなこの芝居をしっとりと包み、味わい、というより心地よい食感を与えている。

役者については、もう全く文句のつけようがない。堀内のほか、中井貴一、寺脇康文、生瀬勝久、相島一之と、実に贅沢なキャスティングだが、その贅沢さに加え、それぞれが脚本で与えられた人格を120%理解し、200%ぐらいで演じていた。

何もかもが最高の、素晴らしい舞台。このような作品をリアルタイムで観られることの幸せを、存分に噛みしめたい。演劇を観ていて良かった。そう思わせてくれる作品である。

コンフィダント・絆の公演情報

http://www.parco-play.com/web/page/information/les/

「コンフィダント・絆」の感想を探していた方、こんな拙いエントリーをお読みいただき、ありがとうございました。この先を読むと気を悪くされるかもしれないので、ここからご退出ください。よろしければ、またこのブログでお会いしましょう。

退出する

このブログにそんな感想文は似合わない、もっと言いたいことがあるはずだ、という酔狂な方々のみ「決して気を悪くしない」ということに同意した上で、続きをお読みください。

さてみなさん。

みなさん、というのは、三谷幸喜と俺以外の全人類を指す。

いいですか?みなさん、堀内敬子という女優を、過小評価しすぎですよ?

シリアスからコメディまで幅広くこなす演技力、セリフの一言一句が漏れることなく観客に届く確かな発声、小柄だけど舞台上では強烈なオーラを発するルックス、そして一度聞いたら忘れられない完璧な歌声。こんな女優が、ほかにいるか?

堀内敬子がいかに素晴らしい女優であるかということについては、このへんとかこのへんでさんざん書いたので今回は省略するが、この作品で、その実力がさらに高まっていることを目の当たりにし、震えが止まらなかったほどだ。

そしてますます、また四季作品を始め、グランドミュージカルの舞台で拝見したくなった。

まずは「ウィキッド」だ。この作品は“悪い魔女”エルファバと“良い魔女”グリンダのバランスが命。エルファバには濱田めぐみがキャスティングされた。エルファバ役として、彼女以上の存在はいない。しかしだからこそ、グリンダにも、最高の女優が求められる。とんでもなく幅広い音域の歌を歌うことができ、コメディエンヌとしての実力がなくてはグリンダはできない。ミュージカル界のスターであると同時に、三谷幸喜の薫陶を受けた堀内敬子のほかに、誰がこの役をできるというのだろう?

それに今回の舞台を観ていつか「マンマ・ミーア!」のドナや、「キャッツ」のグリザベラも演じてほしくなった。いや、四季だけではない。「レ・ミゼラブル」でファンティーヌも演じてほしい。ブロードウェーではかつてエポニーヌ役で高い評価を得たレア・サロンガがファンティーヌを演じている。それに対抗できるのは、いや、対抗しなくてもいいが、堀内ファンティーヌしかない。

近年、グランドミュージカルの人材の空洞化は目に余る。特に女優。堀内が現在、ストレートプレイや、中規模のミュージカル公演を大事にしている姿勢は大いに理解するところだが、日本演劇界を救うと思って、ぜひ大舞台にも立ってほしい。

やはり四季への参加は難しいのだろうか?そこを曲げて何とかお願いしたい。浅利慶太に替わって、私が謝りますから。ほら、この通り!・・・だめか。

上にも書いたように、この「コンフィダント・絆」は本当に素晴らしい傑作だが、いち堀内ファンとしても至福の時を過ごせる作品でもある。何しろずっと舞台上にいてくれる。こんなに長く堀内を観ていられるのは「美女と野獣」以来ではないのか?マコやジェニーは出番少なかったし。

とにかく、堀内ファンとしての自分に、すっかり火がついてしまった。劇場ではパンフレットはもちろん、ポスターも買ってしまった。今も、そのポスターを貼った壁の横で、パンフレットの稽古着姿の写真を見てニヤニヤしながらこのエントリーを書いているのだ。

今回の舞台で評価が高まることは間違いない。多くのオファーがあることだろう。いろいろファンとしての我が儘を言ったが、どんな作品であれ、応援していきたい気持ちにぶれはない。頑張れ、堀内敬子!三谷と俺がついてるぞ!

Poster

我が家の壁に貼られたポスター

堀内敬子ブログ「センチメートル」

http://horiuchikeiko.cocolog-nifty.com/keiko/

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コメント

ヤボオさん、こんにちは。
私も先日パルコ劇場へ行ってきました。
脚本・キャスト・演出・衣装に至るまで
これ以上は無いだろうって結びつきを感じました。
でも、もし全く違うキャストで上演されたとしても
役者さんの魅力を引き出す事のできる脚本でもあると思います。
(偉そうですね・・・)
紅一点、ルイーズが本当に可愛らしい。
堀内さんの白く美しい頬をつたう涙に感動するとともに
ドキドキしてしまいました。ヤボオさんの応援がヒートアップ
するのも無理からぬ事と理解できます。

投稿: ちゅんた | 2007年4月24日 (火) 22時42分

こんばんは、
堀内敬子さんのブログから飛んできました。

堀内さん、確かにすごいですね・・・。
有頂天ホテルのメイド役の時にはそれほど思わなかったのですが、
今回のコンフィダント・絆を見て瞠目してしまいました。
(有頂天ホテルの松たか子さんも、野田MAPの時に絶句するほどすごかったのですよ。そう考えると、あのホテルのルームキーパーって想像を絶する芸達者コンビだったのですね)。
今回、コンフィダント・絆の演技で一番すごいなと思ったのは、あれだけの歌で観客を魅了しながら、一方でチビ太に追い返されてきたと告白するくだりにちゃんと説得力のあること・・・。二律背反のようなキャラクター設定をらくらくこなす堀内さん、それだけでもう只者ではありません。

11月、日比谷にできる新しい劇場での杮落とし(三谷幸喜作演出)にも堀内さんは出演されるようですし・・・。
すごく楽しみですね・・・。

上記の記事、恐縮ですがトラックバックさせていただきます。ご迷惑でしたら削除をお願いいたします

投稿: りいちろ | 2007年4月26日 (木) 00時08分

ちゅんたさんお久しぶりです。

三谷センセイはほとんど魔法使いですね。いや、計算や法則を重んじるからむしろ錬金術師?

ドキドキする、というのは分かる気がします。堀内さんがもたらすドキドキ感は、10年前も今の変わることがありません。希有な女優さんです。

投稿: ヤボオ | 2007年4月26日 (木) 01時15分

りいちろさん、初めまして。

堀内さんの魅力は、やはり舞台上で極大化すると思います。その点、松さんは舞台でも映像でも光ので、これはこれでさすがと感じます。松さんは私の観た中では「メタルマクベス」が一番良かったですね。ストレートプレイ向きなのかも。数年前の「嵐が丘」を見逃したのが悔やまれます。

「音二郎一座」楽しみです。堀内さんがすっかり三谷作品の常連化しているのは嬉しいですが、ほかの舞台にも積極的に出て欲しいです。

投稿: ヤボオ | 2007年4月26日 (木) 01時20分

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