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2007年2月12日 (月)

四季「マンマ・ミーア!」大阪千秋楽 保坂知寿、休団

ドナ・シェリダン 保坂知寿
ソフィ・シェリダン 吉沢梨絵
ターニャ 森 以鶴美
ロージー 青山弥生
サム・カーマイケル 渡辺 正
ハリー・ブライト 飯野おさみ
ビル・オースティン 野中万寿夫
スカイ 岡田亮輔
アリ 八田亜哉香
リサ 五十嵐可絵
エディ 川口雄二
ペッパー 大塚道人

劇団四季の金看板、保坂知寿が2月12日の「マンマ・ミーア!」大阪公演千秋楽をもって「休団」した。この休団というのは四季独自の用語で、一般的な日本語に直すと「退団」に限りなく近い意味で使う。

通常、四季は所属する俳優の進退について明らかにすることは希だ。しかしカレンダーに写真がなかったり、マンマ・ミーア!福岡公演の記者会見に保坂が姿を見せなかったことでファンから相当な問い合わせがあったらしく、「四季の会」会報「ラ・アルプ」で、浅利慶太へのインタビューの中でのひとつの話題、という形をとって異例の事前発表となった。

このため「大阪公演千秋楽=保坂知寿のラストステージ」ということが確定し、ただでさえ入手困難な楽日チケットがオークション市場で暴騰することに。しかしこれは行かなくては、と覚悟を決め、自分としてはなっち卒業ハロプロ公演の時に次ぐ高値で落札して大阪に乗り込んだ。

キャストへの不満がファンから噴出していた大阪公演だが、保坂への配慮もあるのだろうか、この日はさすがに一線級をずらりとそろえてきた。ソフィには保坂との相性が最も良いとされる吉沢梨絵。最後にこの組み合わせを見られて良かった。噂通り、この二人の呼吸はばっちりである。

前回吉沢ソフィを見たときのドナは早水小夜子だったが、なんだか薹の立ったソフィだな、と誠に失礼な印象を持った。しかし、今回は本当に娘に見える。20歳という設定もさほど無理がないというのはさすがに言い過ぎとまでは言い切れないこともなくはない。とにかく吉沢の娘属性は保坂の前で極大化するのだ。

アリとリサに八田亜哉香と五十嵐可絵がそろった。共に大阪公演を支えた功労者である。このアリ・リサ・ソフィの組み合わせで見たかったのでこれまた嬉しい。

そして父親たちに野中万寿夫、飯野おさみが加わる豪華な顔触れ。野中は東京初演からずっと安定感のあるビルを演じているし、飯野ハリーはいかにも昔はカッコよく、今はおじさんになってしまったアレな銀行員という雰囲気だ。こうなればサムも荒川務あたりの登場を期待したいところだが、そこは大阪公演のほとんどをこなした渡辺正。サムにしては若すぎるルックスに聞きづらい声と難点も多いが、この役者自体は独特の持ち味があって最近結構気に入っている。ベテラン二人に挟まれて、さぞやりにくかっただろうが。

さて、千秋楽というのは客席にも独特の高揚感があるものだが、この日はむしろ緊張感とでも言うべき雰囲気が充満していた。みな、万が一にも保坂のラストステージに水を注すようなことをしてはいけないと感じていたのかいつもは耳障りな咳ばらいもほとんど聞こえなかった。自分も、別にお前が出演するわけでもなかろうに、と自分で突っ込みたくなるほどコチコチになっていて、休憩時間には何回もトイレに行ってしまった。

しかし客席がそんな状態なのに、保坂はいつもの保坂だった。力むでもなく、涙を流すわけでもなく、いつものように最高のドナ・シェリダンを、たんたんと演じていた。それ以上でも、それ以下でもなかった。ただ、「Super Trouper」の衣裳で登場したとき、こみ上げてくる思いを振り切るかのように、「行くぜ!」とばかりに客席に向けて踵を返したように見えた。あくまで、そう見えただけかもしれないが。

マンマ・ミーア!名物のカーテンコールのあとに、千秋楽特別カーテンコールが行われた。マンマ・ミーア(歌なし)、サンキュー・フォー・ザ・ミュージック、そして3回目のダンシング・クイーンと続く。青山、森らと共に挨拶のマイクを握った保坂は「また大阪に戻ってきます」と高らかに宣言したが、これは作品のことであって自身のことではない。最後まで、これがラストステージであることに言及するどころか、そう感じさせるそぶりさえ微塵もなかった。少し淋しいが、劇団四季というのはそういう組織なのだ。それについて今更どうこう言う気はない。

保坂の今後について、僭越ながらいちファンとしてひとこと言わせていたたけば、これはまったく心配がない。フリーになって東宝など他のカンパニーの舞台に立つのなら楽しみだし、しばらくしてまた四季に戻ってきたら素直に喜びたい。このまま引退、となったら悲しいが、それを引き止めるのも酷な気がする。千秋楽公演で、相変わらずその歌はパワフルだったが、東京初演の頃に比べたら60%ほどにパフォーマンスが低下しているように感じた。かなりの部分を、歌い方のテクニックでカバーしている。体には相当負担がかかっていたのだろう。ドナが劇中「私は一息つきたい。休暇が必要よ」ともらすが、保坂自身の状態にオーバーラップして聞こえた。だからこのまま休み続けるのもひとつの選択肢だと思う。

むしろ心配なのは四季のほうだ。四季にとって保坂は、人気女優という以上の存在だった。

ご存知のように保坂の歌い方はコブシの効いた演歌のようである。それが、持って生まれたちょっと鼻にかかったかわいらしい声とあいまって、独特の味を出す。これはどんな役を演じても変わることながない、保坂スタイルだ。

だが翻訳ミュージカルで演歌、というのは反則技もいいところだ。四季は、あえてそういう保坂を起用することで、契約上演出に一切の変更を加えることができない翻訳劇の中に、オリジナル性を醸し出してきたのだ。

オリジナルといえば、四季のオリジナル作品唯一のヒット作とも言える「夢から醒めた夢」も、保坂がいなかったらここまで成長できたかどうか。

つまり、保坂知寿という女優の存在は、四季を単なるミュージカル輸入会社にしないための、ほんの僅かに残された、劇団の矜持そのものなのである。

その保坂に取って代われる存在は、今のところ出てきていない。今回の大阪公演では早水のほか、ベテラン久野綾希子もドナ役にチャレンジしたが、人気、実力ともに遠く及ばなかった。だがこれは今に始まったことではない。同じ役を演じて、保坂が遅れを取ることはほとんどないのだ。だから最初からシングルキャストで臨む場合も多い。夢から醒めた夢のピコ、アスペクツ・オブ・ラブのローズ、イリヤ・ダーリン、李香蘭の川島芳子、クレイジー・フォー・ユーのポリーもそうだった。そしていずれも役を継ぐ者が出てくるまでに長い年月がかかったか、まだ登場していないものばかりだ。

実力も人気も衰えての「休団」ではない。だからこそ、後に残された者たちの抱える課題は途方もなく大きい。

“保坂は勝ち、そして去った”

その意味を、四季も、舞台を見る我々も、深く考えてみるべきだろう。

Boad

マンマ・ミーア!のWEBサイト

http://www.shiki.gr.jp/applause/mammamia/index.html

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コメント

千秋楽落としましたか!
さぞかし、高い紙切れ(チケット)だったでしょうね。
私は前々楽に乗り込みました。
大阪まで遠征した価値が十分にあると思いました。
でも、ヤボウさんが指摘されるように、東京でのテンションを100とするならば70位には下がりますね。
たしかに、休ませてあげないと可哀想かもしれないです。

彼女は次にどこの舞台に立つのでしょう?
ヤボウさんの妄想通り「ウィキッド」で再登場すると嬉しいのですが・・。

投稿: ヨシボウ | 2007年2月13日 (火) 23時38分

こんばんはー

たぶん、盛り上がりとしては前楽、前々楽のほうが上だったのではないかと想像します。千秋楽は、なんだか厳かなセレモニーに出席しているようでした。

一晩たって、しみじみと保坂さんの舞台はしばらく観られないんだ、と感傷に浸っております。

復活の知らせを、座して待つとしましょう。

投稿: ヤボオ | 2007年2月14日 (水) 00時52分

突っ込みを入れるようで申し訳ないのですが・・・
アスペのローズ、初演は志村さんだったように思います。
その後の保坂さんのインパクトが強いのは言うまでもありませんが
念のため、付け加えさせていただきます。

投稿: urara | 2007年3月 5日 (月) 13時12分

そうでした!
大変失礼いたしました。お詫びいたします。
ご指摘いただき、どうもありがとうございました。

志村さんのローズは素敵だったでしょうねえ。

投稿: ヤボオ | 2007年3月 6日 (火) 00時00分

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