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2006年12月30日 (土)

Mary Poppins(メアリー・ポピンズ)

Na

29日20時~22時30分
New Amsterdam Theatre

うーむ。これはすごい。

歌ありダンスあり笑いあり涙あり、ミュージカルの魅力を構成する要素が惜しげもなく満載された極上のエンターテイメント。ショーストップ級の拍手が何度客席からわき上がったことか。

いったいどこがすごいのかと聞かれてもまだ正確に答える自信はないが、それを実現した存在は分かっている。言うまでもなく、キャメロン・マッキントッシュとディズニー社だ。

この20年ほどで、世界のミュージカル市場を変えて、あるいは創り出してきた風雲児と、「美女と野獣」でブロードウェイに殴り込みをかけ、いまやすっかりこの業界でも重鎮面をしているディズニーが手を組んだ。それがここまですさまじいパワーを発揮することになるとは、予想もできなかった。むしろうまく行かないのでは、とも考えていた。

しかし考えてみると、ディズニーはこの業界ではあえて「勝利の方程式」を作ることをせず、野心的な試みを繰り返している。「美女と野獣」ではアニメーションの世界をそのまま舞台化。「ライオンキング」では前衛芸術家に演出を任せる。「アイーダ」ではあえて「アニメーションを原作にしない」で制作。そしてターザンはオフ・ブロードウェイのパフォーマーを始め、多くの若手アーティストを糾合した。

一方で、マッキントッシュは絶対的な勝利の方程式をいくつか持っている。例えば俳優の顔よりも、一度見たら忘れられないロゴマークを前面に出したプロモーションなど。そしてそのビジョンは明確で、常に世界を相手にしたビジネスを考えている。世界に作品を送り出すためにはブロードウェイでの成功が不可欠。だがブロードウェイで新作を作るとコストがかさむ。だからロンドンで初演し、それをブロードウェイに持ち込むのだ。

そうした2者のスタンスの違いが、このタッグを成功に導いたのだろう。まあ契約担当者は2、3人入院しただろうが。

さてこの作品だが、とにかく1シーン1シーンが実に丁寧に作り込まれているのが素晴らしい。脚本、音楽、照明、演出、衣装、すべてが精緻に計算され、そこに俳優達の演技、歌、ダンスが全くの隙間を作ることなくそこにぴったりと嵌りこんでいる。とにかく、恐ろしいまでに完成度が高いのだ。

近年のヒット作で完成度が高いといえば「マンマ・ミーア!」だが、その完成度とは主に脚本と音楽の使い方におけるものだ。この「メアリー・ポピンズ」では、すべての要素が、圧倒的なところまで研ぎ澄まされている。しかも全体として破綻無くまとまっている。とにかくやることには金に糸目をつけず徹底的に進めるディズニーと、観客を楽しませるツボを知り尽くした策士マッキントッシュ、その組み合わせ以外にこんな舞台が作れるわけがない。

未見なので何とも言えないが、ロンドン版は原作者サイドへの配慮もあり、少し社会的なテーマを強く描きすぎてしまったとのことで、ブロードウェイ版はエンターテイメント色が濃くなっているのだという。それがディズニーの力なのか、マッキントッシュの計算なのかは分からない。しかし、確かに第一印象が「エンターテイメント」であることは間違いない。

そのエンターテイメント性をハード、ソフト両面における最新テクノロジーの凝縮によって支えている。だがテクノロジーを生で前面に出さず、書き割りなど、伝統的な演出技法を前面に出しているあたりも心憎い構成だ。古くさい舞台上の手法がなんとも生き生きと感じられ、芝居の楽しさを再認識させてくれる。それが、この作品の「身近な家族の大切さに気付く」というシンプルなテーマときっちり波長を合わせている。

そして、基本的には「家族全員で楽しむことができる」作品でありながら、「子供向け」ではなく、むしろ大人のファンタジーとも言うべき雰囲気に仕立てているところもいい。そのために、説教くさくならないよう、全ての面に細心の注意が払われているようにも感じられた。

役者もいい。Ashley Brownの演じるメアリーポピンズは、映画版のジュリーアンドリュースのような毅然さはないけれど、その分可愛らしさとそれに連動したミステリアスさが魅力。そしてはずむような声が耳に心地良くひびく。バート役のGavin Leeはロンドン公演でも高い評価を博した実力で舞台を引っ張った。これがブロードウェイデビューとは思えない堂々とした存在感を持っている。アンサンブルを含め、ほかの俳優たちも自分に何が求められているか、課せられているかを完璧に理解して動いている。認めたくないが、まさにこれはディズニーマジックだろう。

ちょっとまとまらない感想で情けないが、とにかくこれは観ておくべき作品。劇団四季の次の大型海外作品の翻訳は「Wicked」に決まった(にしては発表が遅れているが)が、このブロードウェイ版を観たら判断も変わっていたかもしれない。

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