映画「デスノート the Last name」(大バレ)
実に残念だ。
自分はマンガや小説を映画化した作品を観ても、なるべく「原作に忠実かどうか」という尺度では測らないようにしている。メディアが異なれば作品も変わるのは当然で、比較するのがナンセンスだ。
しかし、それでもなお、外してはいけない原作の要素、というものがあるだろう。
いよいよ公開された映画「デスノート the Last name」。言うまでもなく春に公開され大ヒットとなった映画「デスノート」の後編だ。前編の出来が良かっただけに、期待は大きかった。
問題は弥海砂(あまね・みさ=ミサミサ、戸田恵梨香)が初めて夜神月(やがみ・らいと=キラ、藤原竜也)の家を訪れ、階段を上がっていくシーン。
パンツが見えていないではないか。
これには激しい怒りを覚えた。前編から楽しみにしていたのに。別に戸田恵梨香のパンツが見たくて言っているわけじゃない。満島ひかり演じる夜神粧裕(やがみ・さゆ)の「パンツ見えちゃってるし……」というセリフが聞けなかったことが極めて残念だったのだ。
しかし、それ以外は完璧な作品。
傑作である。
原作の圧倒的な情報量に支えられた、“予測不可能”のストーリーをギュッと凝縮し、それでいて破綻なく、かつ映画という途中で止めて考えることのできないメディアでも無理なく理解できるように仕立て上げた脚本がまずお見事。原作に敬意を表し、その世界観を尊重しつつも、映画独自の視点-金子修介監督によれば「大人の視点」ということなのだそうだが-を加えているが、そのバランスがよく、原作ファン、映画ファン双方に満足のいく仕上がりになっている。
前編のラスト、見事な切り返しでドローに終わった月とLとの対決。後編は期待どおり、冒頭から2人の丁々発止の心理戦が炸裂し、観客は瞬間的に映画の世界に、そしてデスノートの世界に引っ張り込まれる。
戸田、藤原、そしてLを演じた松山ケンイチ。この主役3人の演技が前編にも増してすばらしい。それぞれの役に求められる要素を消化し、表現として人物像を明確に描き出している。当然、原作とは微妙にずれることになり、「こんなのLじゃない」という声も上がるだろう。しかし、いずれも原作に劣らない魅力あふれるキャラクターになった。
「原作にはない衝撃の結末」も、原作の3人ならああいうことにはならないような気がするが、この映画の中の3人ならなるほど、と納得できるようになっている。好き嫌いはあるだろうが、どちらかというとベタな演出をこのむ自分としては大満足だ。
ちょっと仕事のできそうな出目川や、清楚ではない高田清美など、脚本段階で原作とは違った位置づけになっているキャラクターも、実にきれいにはめ込まれていて感心した。
ベテランの味を十二分に発揮し、「出色の出来」と評された(俺から)鹿賀丈史は、ちょっと美味しいところを持ってき過ぎか?しかしそれこそが金子監督の狙いなのだから仕方がない。あの敬礼は心に響いた。敬礼、というのは日本映画の重要な感動アイテムである。代表的なのは「八甲田山」で、部隊を救ってくれた案内人(秋吉久美子)に徳島大尉(高倉健)が敬礼をするシーンだ。最近では昨年の土曜ワイド劇場「火災調査官・紅蓮次郎 燃える雪と燃えない死体! 工場大爆発が暴く灰の中の嘘?」で蓮次郎(船越英一郎)が連行されていくかつての恩師(小林幸子)の背中に向けた敬礼も印象的だった。金子修介もここぞという時に敬礼を用いる。マニア受けはいまいちだったが、高い評価を下す人もいる「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」のラストシーンでは、宇崎竜童演じる自衛隊幹部が、怪獣と闘って命を落とした兵士たちのために海に向かって敬礼する。あれは感動的だった。
主題歌は前編に続きレッド・ホット・チリ・ペッパーズ。前編の「ダニー・カリフォルニア」は何かが始まる予感を促す名曲だったが、今回のラストに流れる「スノー」は、物語の結末ときれいにマッチするやや悲しさを秘めた曲だ。これも印象的で良かった。
あえてケチをつけるなら、上映終了後、わずかな違和感が自分の中に残った。それは、「エヴァンゲリオン」の劇場版(『THE END OF EVANGELION Air / まごころを、君に』)を観たときと同じものだ。大いに満足し、納得しながらも、「傑作」に終わってしまったことへのぜいたくな不平だ。エヴァの場合は、テレビ版のでたらめな終わり方があったからこそ「伝説」になりえた。それをわざわざ修正して「傑作」に戻さなくてもよかったかな、と思ったのだ。
駄作を凡作に、凡作を佳作に、佳作を傑作にするのは、ひとつひとついいものを積み上げていけばいい。しかし傑作が伝説に突き抜けるためには、積み上げたものから足を踏み外さなくてはならない。この映画も、前編で大いに期待させ、後編がハチャメチャ(死語)なものになったら、それが伝説になったかもしれない。そのほうが、リューク的には「面白!」だろう。
しかし、そんな死神の目で映画を観るよりも、いいものはいい、と素直に受け入れたほうが楽しい。ひとつ厳しい評論でもしたほうがブログらしいのだろうが、ここは日本のコンテンツ産業がこれほど良質なものを生み出せたということに、快哉を叫びたい。ちょうど、ラストシーンで何かに笑い続けるリュークのようにだ。
昨年は「頭文字D」を観て、歯ぎしりほどの悔しさを味わった。日本のマンガを原作に、日本でロケして創られた傑作映画が、日本映画ではなく香港映画という現実。あのときは本当に暗鬱とした気分になった。しかし、この「デスノート」は香港でも大ヒットしているという。香港映画大好きな自分としてはケンカを売るつもりはないが、ちょっとだけうっぷんを晴らすことができた。今後、こうした作品に刺激されもっと面白い作品が様々なジャンルで出てきてくれることを心から願う。
最後に、パンフレットを読んで感じた、ちょっと期待を込めた予感。
来年あたり、日本テレビがスペシャルドラマとして松山ケンイチ主演の「ロサンゼルスBB連続殺人事件」を放送するような気がする。
映画「デスノート the Last name」のWEBサイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/deathnote/
前編についてのエントリー
http://kingdom.cocolog-nifty.com/dokimemo/2006/06/40_ed59.html
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