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2006年7月16日 (日)

北区つかこうへい劇団「売春捜査官」

木村伝兵衛部長刑事 黒谷友香
熊田留吉 赤塚篤紀
チャオ万平 及川以造
大山金太郎 逸見輝羊
マナブ 吉田 学
ピコ 杉山圭一

紀伊国屋ホールで北区つかこうへい劇団の「売春捜査官-女子アナ残酷物語-」を鑑賞。つか作品を観るのは2003年12月の「つかこうへいダブルス」(筧利夫・広末涼子主演による「幕末純情伝」と「飛龍伝」の連続上演)以来だ。このブログを始めたのは2004年の1月だから、つか作品についてきちんとした形で記述するのは初めてということになる。

「熱海殺人事件」は、かつては故・三浦洋一や風間杜夫が、そして90年代は主に池田成志が主役・木村伝兵衛を演じ、つか作品の中でも恐らく最も有名で、人気のある作品といえる。公演のたびに少しずつ変化しているが、登場人物の設定変更を含めて大胆に手を加えた別バージョンもいくつか存在する。阿部寛の役者としての評価を確立させた「モンテカルロ・イリュージョン」や、石原良純主演で木村伝兵衛の死を描いた「サイコパス」などが代表的だ。この女木村伝兵衛が登場する「売春捜査官」もそうしたバリエーションの1つである。あまり知られていないが、93年に上演された「熱海殺人事件 妹よ」バージョンには、初めて木村伝兵衛が女という設定が登場した。ストーリーは全く違うものの、「売春捜査官」は「妹よ」の延長上にあるように思う。

今回の主演は黒谷友香。昨年やはり熱海の別バージョンである「平壌から来た女刑事」にも出演し、女優としての成長著しい有望株である。初演でこの役を演じた由見あかり(大分市つかこうへい劇団)と比較すると、かわいらしい雰囲気を持っているため迫力という面では一歩譲るが、浜辺の場面など、そのいじましさを表現するシーンでは強烈なオーラを放っていた。木村伝兵衛というアクの強いキャラクターと、黒谷のかわいらしさが微妙なバランスで均衡しているあたりが、いかにもつか作品らしい。

共演陣では何と言っても及川以造の怪演が印象的だ。つか作品の常連であり、「妹よ」でもさんざんハゲネタで笑いを取っていた及川が演じるのはハゲ&ホモの刑事。時に主役以上の存在感を発揮し、大いに舞台を盛り上げ、客席を沸かせた。会場で販売していたパンフレットには脚本の全文が掲載されているが、実際の舞台ではより出番が増えている。それだけ及川の演技が良かったということだろう。あるいは、黒谷がややパワー不足、と見て及川の出番を増やしたのかもしれないが。NHKの朝の連続テレビ小説「ファイト」でお茶の間の人気者になった(かどうか)及川の今後の活躍に期待したい。

ひさしぶりに観たつか作品&つか演出だが、圧倒的なパワーで観る者を舞台に引きずり込むその魅力は健在だ。脚本を通じてではなく、口頭で役者にセリフを伝えながら演技をつけていく有名な「口立て」の技法で、体の隅々まで役を浸透させた俳優が発する気合いのこもったセリフは、まるで銃弾のように心に響いてくる。たとえ声がかすれていようと、滑舌が悪かろうと、魂の叫びは相手に伝わるのである。

そして熱海殺人事件という作品には、すべてがある。笑いがあり、涙があり、心に響く言葉があり、歌があり、ダンスがあり、殺陣があり、アクションがあり、謎があり、国家の陰謀があり、友情があり、男女の愛欲があり、ホモの肉欲があり、親子の情愛があり、骨肉の争いがあり、日本の美しい情景があり、都会に暮らす寂しさがあり、差別があり、生きて行かなくてはならない苦しみがあり、その苦しみを跳ね返す力強さがある。熱海だけでなく、すべてのつか作品がそうだともいえるかもしれない。

「劇団☆新感線」がつか作品の劇団としてスタートしたことは知られているが、現在の演劇界においてその影響を受けていない人を探すほうが難しいだろう。その意味でつかこうへいは日本演劇の至宝であり、その輝きはいまなお衰えていない。つか作品をエキセントリックなものと感じている人もいるかもしれないが、その基本は「楽しさ」であり、明日に向かって元気に歩いていく力を与えてくれるものだ。ぜひとも、食わず嫌いせず、多くの人に一度は触れてほしいと思う。

つかこうへいの娘が、一見その作風とは対極的な宝塚歌劇団に入っていることは時に笑い話として紹介されるが、自分の中ではつか作品と宝塚の世界はさほど遠いところにはない。むべなるかな、という感じである。

Kinokuniya

ロビーに過去の公演ポスターが数多く掲示されていた。どれも懐かしい。

つかこうへい事務所のホームページ
http://www.tsuka.co.jp/

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