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2006年5月21日 (日)

SHINKANSEN☆RS「メタル マクベス」 日本演劇界の頂点へ

祝え諸君! 日本のステージエンターテイメントはついに世界に誇るレベルに到達した。

演出した新感線の総帥、いのうえひでのりは月刊シアターガイドのインタビューで「『これひょっとして、映画でも行けるんじゃないかな』と思った」と語っている。

映画なんて小さいことを言いなさるな。この作品でブロードウェーに、そして世界に打って出て欲しい。

そう感じさせてくれるほど、すさまじい出来映えである。

(以下、若干のネタバレ含みます。)

いのうえを始めとした新感線のスタッフ・キャスト、もはや「大人計画の」なんて冠詞のいらなくなった、今をときめく人気作家の宮藤官九郎、内野聖陽・松たか子という図抜けた舞台上の表現力を備えた主役俳優、その潜在力を引き出すベテラン俳優、上條恒彦。これらオールスターの結集によって、現代日本演劇界のひとつの頂点を見せることに成功した。

内野演じるマクベス=ランダムスターが最初に登場するシーン。照明、音楽、そして演技が一体となり、圧倒的なパワーを持って迫って来る。それが客席に巻き起こす高揚感の大きさといったらどうだ。半ば陶酔して、4時間近い大作につきあうための集中力を得ることができる。

一幕はいかにも新感線らしいギャグのオンパレードで、ぐいぐいと観客を舞台に引きずり込む。二幕ではもはやどっぷりとその世界に浸った観客とともに、体のすみずみまで、しびれるような悲劇の世界を堪能させてくれる。そして全編に流れるヘヴィーメタルの重厚でもの悲しいメロディーは、演技やセリフで表現しきれない膨大なメッセージを観る者の脳に直接送り続けている。

これは、日本演劇界の頂点であると同時に、新感線の集大成でもある。それにしては古田新太ら看板俳優が出てないじゃないか、だいたい脚本が中島かずきじゃないだろう、と言われるかもしれない。しかし笑いとアクション、縦横無尽のストーリー展開を高密度に凝縮し、テンポよく見せていくその舞台は、過去も含めた新感線メンバーの力によって創り出された遺伝子の結晶だ。新感線としての本公演ではないために「SHINKANSEN☆RS」と銘打っての公演だが、これは紛れもなく新感線の真骨頂である。

さらに、これが正真正銘、優れたシェイクスピア演劇になっている。今回の舞台は、マクベスのストーリーを展開する未来の日本という世界と、日本におけるヘヴィーメタル全盛期の1980年代とを交互に描く、という仕掛けになっているが、未来世界のほうはかなり原作に忠実なマクベスである。しかし登場人物の名前は全て異なっており、マクベスは「ランダムスター」、バンクォーは「エクスプローラー」と、かつてのエレキギターの逸品の名が冠せられている。どうも脚色にあたった宮藤が、原作には紛らわしい登場人物名が多すぎる、と感じてそうしたようだが、同じキャストが80年代で演じる「メタルマクベス」というハードロックバンドのメンバー達が「マクベス」「バンクォー」と原作の登場人物を名乗るあたり、一筋縄ではいかない宮藤のテクニックを感じさせる。

この80年代のやりとりが、原作で語られていない登場人物の心情を、実に細やかに描き出すことになる。現在伝えられているマクベスの戯曲は非常に短いものであり、しかも詩的な表現にあふれている。行間を読ませる楽しさもあるわけだが、この舞台ではそこを丁寧に解釈してくれているのだ。古典文学やシェイクスピア作品のコアなファンからすれば大きなお世話、と感じるかもしれないが、観客の多数を占めるであろう、さほどシェイクスピアに造詣の深くない人達(もちろん自分もそっち)にとっては、有り難いサービス精神だ。おせっかいついでに、冒頭の魔女のシーンで、マクベスの象徴であり主題とも言える「反語的表現」について、つまびらかに解説してくれていて、さながら「初級シェイクスピア講座」である。

また、その多重構造によって、マクベスの「悲劇」としての側面がより強調されることになった。マクベスがハムレットなどに比べ悲劇の印象が薄いようにも感じられる(個人的にだけど)のは、おそらく内面的な葛藤の描写が少ないからだ。80年代の場面が、そこを補強する格好になっているのである。そうした構造に支えられた悲劇のクライマックスは、互いに狂気に堕ちた内野演じるランダムスターと、松演じるランダムスター夫人が寄り添って言葉を交わすシーン。殺戮と狂気の果てにたどり着いた、純粋な境地の表現が見事である。松の「小さい方にしとけばよかった…」というセリフは、あまりにも悲しく、胸を締め付けられずにはいられない。

これほどの作品をリアルタイムに味わうことができるのは至上の喜びだ。様々なジャンル、人材をどん欲に巻き込み、進化を続ける新感線が、これから日本の演劇界にどう刺激を与え、あるいはそれをリードしていくのか、ますます目が離せなくなってきた。

Nimaigumi

中学生ぐらいのころ、買うだけでワクワクした「二枚組LP」のジャケットを使ったパンフレットはなかなかナイス。高いけどね!

劇団☆新感線の公式サイト

http://www.vi-shinkansen.co.jp/

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コメント

そんなに良かったですか!!
連休の地元松本公演チケ、だいぶ余裕があったみたいで、
ヒマなので行ってみようかな?とも思いましたが、
私、新感線なるもの名前しか存知ないのでスルーしてしまいました。
行っておけば良かったかな?

投稿: fudoh | 2006年5月21日 (日) 14時45分

チケット取れなかった作品です。
凄く人気で・・・

羨ましいです♪

投稿: ひがし | 2006年5月21日 (日) 21時35分

fudoh様

そういえば今回は松本公演からスタートしたんでした。新感線は開幕してからも手を加えるので公演後期に観たほうがいいケースも多く、観なくて正解(?)だったかも。好き嫌いはハッキリ分かれる劇団ですが、機会あれば一度触れてみてもいいのではないかと思います。ただ昔よりミニスカートの出現率が下がっているのが残念です。みんな年とったからねえ。

投稿: ヤボオ | 2006年5月21日 (日) 23時14分

ひがし様

ブログ拝見しました。堀内敬子の名前につい反応しました。
かつて、キャッツに堀内敬子が出演する、と聞いて北斗星で札幌遠征したことがあります。夜行列車の旅は素敵~♪でありました。

投稿: ヤボオ | 2006年5月21日 (日) 23時20分

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