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2005年9月24日 (土)

検証:群馬 その1~「ぐんぐんぐんま」編

群馬に行くことにした。

自宅のある柏からは高速で2時間半ほどの距離だが、行きは連休初日とあって早朝から大渋滞。結局最初の目的地、前橋までは5時間近くかかって到着した。

群馬に足を踏み入れたからはまず「ぐんぐんぐんま」の中の人に挨拶をしなくてはなるまい。最近同ブログにひんぱんに登場している、そばの名店「せきざわ」に連れていっていただいた。

この店はブラボーだ。感動で、言葉が出なかった。そばで感動したのは、人生で2回目。1回目は長野の「安曇野 翁」に行ったときだ。

安曇野翁も、せきざわも、そば自体が日本一クラス、つまり世界レベルのうまさである。しかしそれだけではないところが、これらの店を銀河系レベルにまで押し上げている。安曇野翁は、シンプルだが清潔感と自然光の満ちた店内から、安曇野のパノラマを臨むことができる。それが感動を数倍にするのだ。

ではせきざわはどうか。この店の感動を創り上げているのは「演出」である。演出、という言葉の響きが悪ければ、物語性と言ってもいい。

この店の看板メニューは「三昧そば」。3種類のそばが味わえるというものだ。ノーマルな三昧そば(1300円)のほか、「冷がけ三昧」(1450円)「醍醐三昧」(1550円)などいくつかバリエーションがあって、それぞれ出てくるそばの種類が違う。そして、その3種類をどの順番で、どのタイミングで出すか緻密に計算しているのだ。

自分が頼んだのは「冷がけ三昧」。まず、葛をまぜた更級そばが出てきた。

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真っ白なそのそばを口に含むと、葛のぷるんぷるんとした弾力ある食感が衝撃を与える。これは快感だ。その妖しい恍惚感にひたっているうちに、いつの間にかせいろは空になっていた。

次に田舎そばが出てくる。見た目はさっきとは対称的に、いわゆるひきグルミの黒っぽいそばだ。

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一口食べた瞬間、そばのうまさが激流となって体中をかけめぐる。落語「そばの羽織」では、最後にそばが人間の形をして羽織りを着て座っているという場面がある。その情景のように、自分とそばが一体化したような気がした。

そして冷がけ。文字通り、汁の冷たいかけそばである。

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このつゆがまたいい。見た目は薄味のように見えるが、鰹節を大胆に使ってインパクトのある味に仕立てている。先日京都で「瓢亭」の朝がゆを食べたが、そのかゆにかかっていた鰹エキスを思い出した。そのつゆにのせてそばを飲み込むと、絶妙ののどごしを体験することができる。

三種類のそばが、食感、味、のどごしと、それぞれ異なる感動を与える。しかもその感動は互いに連鎖するように構成されており、ひとつのストーリーが出来ているのだ。

これは「序破急」の手法だ。物語の構成手法というと、全体を四部で構成する「起承転結」がポピュラーだが、これは漢詩にルーツがある。いっぽう全体を3部で構成する序破急は、日本の雅楽や舞踊で古くから用いられてきたものだ。スピード感のある演出をするときにも、序破急は効果的に機能する。

スピード感。せきざわでは、タイミングを見計らってゆであげられたそばを、お店の人がすばやい身のこなしで運んでくる。いわく「そばは秒単位でのびてしまいますから早く召し上がってください」。このスピード感が、ストーリーを一層魅力的なものにしている。

この店は、別に演出で味を水増ししているわけではない。繰り返すが、そばの味だけでも超絶のうまさなのだ。だがそのうまさを適確に表現することは私の語彙では困難だし、いまが9月であることを考えると、1回だけ食べてそばの味を語られるのは店も不本意だろう。

一流の味を持つメニューを用意しながら、そのうまさをより深く味わってもらうために、そこに物語を導入する。それは客へのもてなしの心であり、そばに対する愛情でもあるだろう。物語に抵抗感を持つ人もいるかもしれないが、人類は46億年の歴史を持つ地球の上で、38億年の時をかけて描き出される生命誌という大きな物語を生きているのだ。物語の否定は、人類の、そして自然の否定へとつながる。

かねがね、エンターテインメントとは何か、ということを考えているが、一面の見方をすれば、それは緻密な計算により感動を与える行為だと思う。となれば、このせきざわのそばも極上のエンターテインメントだ。

ところでこの店は、10月11日で閉店し、12月に長野県小布施町で再開するのだという。よりそばの畑に近いところで店を構えるためだ。長野には安曇野翁だけでなく、うまいそばの店がきら星のごとくひしめいているが、そこでも確実に存在感を発揮するだろう。来年の春には、ひとつ長野そばめぐり、いやそばたぐりの旅に行くことにしよう。

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コメント

スゴイスゴイ!ヤボオさんの旅日記、ツボを得てておもしろい。

そのそばそんなにおいしいんですか?も一つの安曇野翁さんも?
…あ、小布施町といえば私の隣り町なんですよ。

小布施はこの辺りではめずらしく「街づくり」というものに成功していて、
(きっとビジョンがしっかりしてるんだと思う)
老舗の良さもさることながら最近では良質なお店が集まってきています。
(ちなみに私のオススメはなんといっても「サン・クゼール ワイナリー」です。おそばとは関係なくてすみません)

おそば屋さん、オープンは冬ですか?ぜひ行ってみよっと。

投稿: フドウ | 2005年9月25日 (日) 01時55分

小布施は最近よく紹介されてメジャーですよね。
せきざわの新店は12月中旬のオープンらしいです。
そばの本場、長野の方にもきっと満足されるよい店になることと思います。

投稿: ヤボオ | 2005年9月26日 (月) 00時16分

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