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2005年8月 3日 (水)

劇団四季、出演予定者の公表方式を変更

この1週間あまり、劇団四季とファンとの間で大きな悶着が続いている。

顛末はこうである。7月26日、四季のホームページに下記のようなお知らせが掲載された。

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週間出演予定者公表方法変更のお知らせとお願い

 劇団四季ではこれまで、公演中の作品につき、「四季の会」会員の皆様には会報誌「ラ・アルプ」では月ごとの、またキャストフォン、FAXサービスや、当オフィシャルウェブサイトなどでは毎週初めに週間の出演予定者を各回ごとに公表いたしておりましたが、最近、稽古その他の事情により、公表後に予定の変更をしなければならないケースが多く生じるようになってまいりました。
 諸事情により、出演予定者の突然の変更があり得ることはこれまでもお知らせしてまいりましたが、この情報を目安にチケットをお求めになるお客様からは、上記のような場合にお叱りを頂戴するのも事実です。そうしたお声が増えていることを踏まえて慎重に検討した結果、お客様に混乱を招きかねない未確定の情報は、やはりお出しするべきではないと考え、8月1日(月)からは、出演予定者の公表は各回ごとではなく、週間単位でのみの公表とさせていただきます。また、出演者の最終的な確定は、従来通り開演の1時間前とさせていただきます。
なにとぞご理解、ご諒承いただけますようお願い申し上げます。

◎出演確定者の情報については、
各回開演1時間前から公演当日24時まで(昼夜2回公演がある場合は、夜公演開演の1時間前まで)、以下のテレフォンサービスにて各上演劇場ごとにお答えいたします。

【テレフォンサービス】
※サービス実施は8月1日からとなります

四季劇場[春]      045-△△△-□□□□



(以下、各劇場ごとの番号)
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これまで、四季は毎週月曜日にその週の公演全てについて、キャストを発表するという形式を取っていた。それを、週の初めに、「今週出演する予定のキャスト」という形でまとめて発表する、というのだ。

四季の場合、チケットの売り出し時にはキャストを明らかにしない。だからそれが週の最初に分かるかどうかは大きな問題ではないと思うかもしれない。だが、四季には「前日予約」というシステムがある。これは、スポンサーやメディア、政治家などにいつでもチケットを用意できるように、「売り切れ」になっている公演でも必ずある程度確保している席を、公演前日の午後2時にリリースするというものだ。「この出演者が観たい」と思う人は、これを購入するのである。

しかし「今週の出演予定者」に2人、3人と名前を書かれて、誰が出てくるかわからないのでは、キャスト目当てに前日予約をする、ということができなくなる。これは一大事、と多くのファンがネット上で反対の意思と怒りを表明した。2ちゃんねるにはこの問題についての専用スレッドが立った。劇団にもかなりの苦情が殺到した模様だ。

そして「新方式」が8月1日に導入された。すると、「今週の出演者」となってはいるものの、ほとんどの役には1人の名前しか記載されていない。従来も、実際には1人の役者がその週の公演の全てに出演する場合がほとんどだったので、これまでとあまり変わらないのでは、という感触を得た人が多く、事態は沈静化に向かっている。ただ、新方式ではメインキャスト以外の「アンサンブル」と言われる出演者は発表されていない。そのため、メインキャスト以外にも目を向けるコアなファンは、いまだに強く反対する姿勢を崩していない。

騒動の引き金を引いた「ファン軽視」

今回の騒動では、ファンの怒りが様々な形で表明されたが、そこにはいくつかの感情が入り交じっているようだ。主なものは、

1)サービス低下の理由をファンに責任転嫁するような口調での発表を含め、今回の変更はファン軽視ではないのか、という怒り。

2)最近、出演している役者の実力に首をかしげることが多いことへの不満。

3)そもそも、チケット売り出し時にキャストを発表しないのはおかしいではないか、という根本的な疑問。

の3点だ。

1)の怒りは実にもっともで、これは四季も申し開きのしようがないのではないか。上に引用したお知らせの文面は、いかにも自分たちは悪くない、苦情を言う客が悪いのだ、という姿勢がにじみ出すぎてしまっている。これはいただけない。それに苦情があるなら、その苦情の原因を何とかすべきで、苦情が多いからサービスを低下させる、というのは本末転倒もはなはだしい。そして、すぐにはにその原因が解決できないなら、納得のいく理由を説明しなくてはいけない。「電車が遅れると苦情がたくさん来るので、時刻表の公表を取りやめます」と言っているようなもので、どうにも腑に落ちない。本来なら、「電車が遅れる場合もございますが、安全第一で運転しておりますのでご了承ください」と言うべきなのである。つまり、「四季では完璧な作品を皆様にお見せするために、公演直前まで出演者の人選を行っております。そのために発表したキャストの変更も余技なくされる場合が多々ございます。これもひとえに質の高いエンターテインメントを提供するための取り組みの中で起きることであり、何卒ご了承いただきたく、ファンの皆様にはお願い申し上げます」とでも言えば良かったのだ。そうすれば、これは劇団の根本的なスタンスを理解しうるかどうか、というレベルの問題になる。そして、多くのファンはそれをある程度理解しているのだ。理解はするが、贔屓の役者でも観たい、というファンと、基本的には役者の名前でチケットを売らない建前だが、ファンの気持ちにも答えなくてはいけない劇団との妥協点が、前日予約システムなのだ。妥協ラインの一方的な変更を宣言されたら、それは怒るだろう。

しかも、当初今回の変更に対してのクレームにどう答えるか、統一見解の周知が徹底されていなかったらしい。そのため、電話に出た担当者が「どの役者がどの公演に出るかは個人情報だから発表できないのだ」などとトンチンカンなことを口走ったりして、ますます火に油を注いでしまった。

基本的に、四季の顧客対応は、高いレベルだと思っている。世の中でCRM(顧客管理)、FSP(優良顧客対応)などが言われる前から、四季ではそれを実践していた。その四季にあって、今回の一件はあまりにお粗末と言わざるを得ない。いったいどうしたというのだろうか。

2)は、以前から言われていたことだが、今回の騒動で一気に表面化してしまった。キャストが発表されなくてもファンがチケットを買うのは、それだけ四季を信頼していることの証である。それが裏切られるケースは、最近非常に多くなってきた。これには2つの原因が考えられる。

1つは、上演作品が増えてきたことである。8月第1週は、東京で「ライオンキング」「キャッツ」「オペラ座の怪人」「夢から醒めた夢」、名古屋で「ライオンキング」、京都で「アイーダ」、大阪で「マンマ・ミーア!」、福岡で「美女と野獣」。これにファミリーミュージカルと全国公演を加えると、実に10本も上演している。これだけ公演が多ければ、ひずみが出てくるのも当然だ。

もう1つは、中国や韓国出身の俳優が増加したことだ。単純に外国人だから嫌だ、というのではない。実際、キャッツに出演中の金志賢は、現在のグリザベラ役の中では最も評価が高い。同じキャッツでミストフェリーズを演じる蔡暁強は、クセのある濃いめのカオと身体的能力の高さで女性ファンが急増中。最近「オペラ座の怪人」のクリスティーヌ役に大抜擢された高木美果(チェ・ウンシル)は、可愛らしいルックスも手伝って好評のようだ。だが、どうにも受け入れられないキャストも確かに存在する。多少日本語に変なアクセントがあっても、表現が豊かであれば気にならない。しかし、日本語の歌詞を声にするだけで精一杯、という出演者を、少なくとも正規の料金を払ってチケットを買っている客に見せるべきではない。アジアの演劇文化を振興したい、という理想はいい。応援もしたい。例えば、まだ舞台に出すには少し早い、というキャストを集めて、割引料金の公演を行えばいい。かつて平日のマチネはそういう扱いだったと思う。これなら、劇団も、役者も、観客もそれぞれメリットがあり、三方一両得というものだ。

3)は、昔から繰り返されてきた議論である。「スター制度」を否定し、「作品重視」の姿勢を貫くことは、上でも述べたようにある程度の理解は得られている。そうでなければ、ここまでチケットは売れないだろう。

しかし、ひとつ言いたいのは、役者の個性を認めないことが果たして「作品重視」なのか、ということである。演劇というのは、生身の人間が演じて初めて完成する「作品」ではないのか。だとすれば、どのような役者が演じるか、興味が出てくるのも当然である。四季はキャスト発表問題が議論になるたび必ず「作品重視」を口にするが、それでは「演目重視」ではないのか。

四季崩壊への予兆か?

それにしても、今回の騒動は一体何を意味しているのだろう。よく言われているのは、ジャイアンツにおける渡辺会長のような「老害」である。浅利慶太代表が、度重なるキャスト問題の苦情を耳にして激昂し、「そんならいっそ発表をやめてしまえ」ということになった、という説である。確かに浅利代表が「たかが役者」「たかが観客」と言っている姿は容易に想像できてしまうため、実に説得力がある。

しかし、それならまだ救いがあるような気もしている。老人は、いつか去っていく。それを待っていればいい。

だが、今回の騒動は、どうもそうではないように感じる。ネットでの発表が変更の1週間前に行われたという拙速、そして苦情への対応ができていなかったことを考えると確かに「鶴の一声」に見える。しかし、同じ情報は月末に郵送で届いた四季の会会報「ラ・アルプ」にも印刷されていた。となると、この変更は急に決まったものではない。

全くの想像だが、今回の一件は制作部門とフロント部門との溝が原因ではないかと思う。

例えばメーカーなら、よい物を作ろうとする工場と、ひとつでも多く売ろうとする営業が、どうしても対立してしまう。それを調整するのが会社という機構だ。

四季においても、制作とフロントに同じような関係があるのだろう。今回の騒動は、制作側の意向がフロントを押し切ったということではないのか。フロント側にしてみれば、サービスを低下させ、ファンの心証を悪くするような変更は避けようとしたはずだ。

これまで、こうした対立を調整してきたのは、やはり浅利代表なのだろう。浅利慶太という人は、芸術家としてはいまいちだと思うのだが、芸術と商売のバランスを保つ感覚にかけては優れていると思う。今回のようなバランスを欠いた決定が出てくる、というのは、むしろその存在感が薄れ、調整能力が下がってきている、ということなのではないか。

となれば、すでに劇団四季の崩壊は始まっていることになる。早急に「次のカリスマ」を誕生させるか、そうでなければ、組織として調整能力を働かせる仕組みを作らなければ、そのスピードは加速していくことになるだろう。

 

劇団四季「週間出演予定者公表方法変更のお知らせとお願い」

http://www.shiki.gr.jp/navigation/#navi29

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コメント

はじめまして。
何度か立ち寄らせていただいてます。
様々な記事への的確なコメントにいつも感心しております。

>となれば、すでに劇団四季の崩壊は始まっていることになる。

私も思うに、あの日(2005・8・1)が四季の絶頂の日…と数年後になって気づかされる気がヒシヒシとしております。ファンとしてはたいへん残念なことですが。

投稿: フドウ | 2005年8月17日 (水) 00時09分

こんにちは。
本当に今回の騒動は残念です。四季はなんだかんだ批判されつつも、顧客重視の姿勢は保っていると評価していましたから・・・。

ところでフドウさんのサイト拝見しました。これからちょくちょく立ち寄らせていただきます。マジョリン観たくなりました。

投稿: ヤボオ | 2005年8月17日 (水) 00時58分

お越しいただき恐縮です。
「マジョリン」楽しいのでぜひおすすめです。

「マジョリン」は、たとえば小学生の時観た地方劇団の田舎芝居的な可笑しさというか「ドリフ」的というか…と、でもやっぱり「劇団四季」としてしっかり作られているような…、を併せ持ったなんとも不思議な、他作品(ファミミューも含めて)にはない感じを私は個人的に覚えました。
それもこれも「味方さん」のチカラがほぼ全てですが。
「恥をすてた味方ニラミンコ」に作品名を変えたいぐらいです(爆)

また寄らせていただきます。ヤボ夫さんとこはとても見聞が広くたのしいです。

投稿: フドウ | 2005年8月17日 (水) 21時38分

味方隆司氏はきっちり仕事こなす人ですよね。
四季は「夢から醒めた夢」といい、ちゃんと秀作を創る力があるのだから、もっと新作にチャレンジしてほしいと思います。
せっかく「自由劇場」作ったのに、自由のない作品ばかりかかっているのがもったいない!

投稿: ヤボオ | 2005年8月18日 (木) 01時22分

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新たな公表方法となってから約半月。ここらであらためて考察。 [続きを読む]

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