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2005年7月18日 (月)

実相寺昭雄「姑獲鳥の夏」

あえて言おう。これは、京極夏彦作品の「初めての映像化」である。

もちろん、それは事実ではない。例えば「巷説百物語」は、WOWOWで2000年にドラマ化され、さらに2003年にはアニメーションにもなっている。

しかし、そのいずれも、「巷説百物語」の真の魅力を伝えるものではない。「巷説」は、その真相をあばくことが難しい事件や、真相をあばくことでより人々を不幸にしてしまう事件を、人の心に住む「妖怪」の力を借りたり、あるいは「妖怪」のせいにして解決するという作品だ。見せ場は犯人に自白を促すための「妖怪」を使った大仕掛けで、これに近いドラマといえば「ザ・ハングマン」である。

だが、WOWOWのドラマは、テレビ朝日で金曜9時から放送していた「ザ・ハングマン」ではなく、テレビ朝日で金曜10時から放送していた「必殺仕事人」のほうだった。出演者、セット、演出、すべて「必殺」へのオマージュとして捧げられ、殺しのテクニック(別の意味での「仕掛け」)を見せることに力を入れていた。いっぽうアニメーションのほうは、人の心に住んでいるはずの妖怪を、そのまま現実に登場させるというホラー・ファンタジーになっていた。もっとも、この2作とも決して失敗作ではなく、もともとそういう意図で制作されたようだ。その証拠に、どちらにも京極夏彦氏自身が嬉々として出演している。

映画「嗤う伊右衛門」も含め、これらは作品としては魅力的でも、京極作品に共通して流れるテーマである「世に不思議なし、世すべて不思議なり」というテーマを正面からとらえていないのである(恐らく意図的に)。

そこを行くと、今回の「姑獲鳥の夏」は、まさしくこの視点で描かれた映画だ。京極作品と四つに組んだ手応えの感じられる、初めての映像作品。だから自分は「初めての映像化」と言った。

作品のイメージをリアルに再現した実相寺

監督は実相寺昭雄。これを聞いたとき、この映画化が、京極作品に真正面から取り組むものになることを確信した。ウルトラセブン「第四惑星の悪夢」など、アクの強い演出のイメージが強いために、斜に構えた演出家と認識している人も多いかもそれないが、それはもう40年近く前の話だ。88年の「帝都物語」を観たとき、自分はあまりにも小説のイメージがリアルに再現されていたことに驚愕した。破壊に執着する加藤保憲の表情、加藤に対峙する土御門の形相、白馬に乗り決戦の地へ向かう辰宮恵子、都市計画を説明する渋沢栄一、そこで突拍子のない提案をする寺田寅彦・・・。すべてが、小説を読みながら思い描いていた通り、あるいはそう思わせる映像だった。また、宝塚歌劇「エリザベート」のビデオ版は、実相寺がその監修を手がけている。これは舞台の魅力を余すところなく伝え、むしろさらにパワーアップさせた舞台収録映像の傑作だ。これらの記憶から、実相寺は「やってくれるだろう」と確信していた。

そして、この予想はほぼ当たっていた。

「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。」

「憑きもの落とし」を生業とする男がこのセリフを吐くという逆説。この映画が、執拗にこのセリフにこだわっているのは、「世に不思議なし、世すべて不思議なり」に正面から取り組むという姿勢を示している。まずこの姿勢に大いに満足した。

そして小説のイメージそのままに繰り広げられる映像。京極堂も、薔薇十字探偵社も、何もかもがそのままだ。このシリーズを読んだ者にはたまらないシーンが続く。

京極堂シリーズは、最後の謎ときに至るまでに重厚な語り口の膨大な文章を綴り、それを読ませることでクライマックスの衝撃度を高密度にするという構造に特色がある。映画では、その重厚な語り口を実相寺の演出が担当していた。セリフを多くしたとしても、映画の時間は2時間そこそこ。自ずと限界がある。セリフよりも映像に説得力を持たせよう、という判断は正しい。セリフではなく映像が饒舌に語ることで、最後の謎解きがセリフでは理解できずとも、何となく納得できるようになるという効果もある。

そして、おどろおどろしい話でありながら、観ていてつらくない。この味わいも、京極作品そのままだ。

テーマ、イメージ、構成、テイスト、すべてが京極作品に敬意を表し、それを理解し、映画というメディアの上で再構築している。このプロジェクトは成功と言っていいたろう。

キャスティングは賛否両論か

自分のような「京極作品は好きだが、全部読んでいるわけではない」という中途半端な立ち位置の人にはぴったりかもしれないが、全く京極作品あるいは京極堂シリーズを読んだことのない人、あるいはコアな京極堂ファンの人だとどうなるだろう。

全く知らない人でも、楽しい作品になっているとは思う。映像は美しく、テンポもいい。ただ、「世に不思議なし、世すべて不思議なり」を早い段階で理解できないと、「不思議なし」か「不思議なり」の結末を期待して、拍子抜けしてしまうかもしれない。

一方コアなファンの場合はどうか。恐らく、ぽぽんさんの意見が代表している。そこでは、配役をどう受け止めるかが大きな問題のようだ。

阿部寛は素晴らしい。というより、映画化の話を聞く前、京極堂シリーズを読んでいるときから、「榎木津礼二郎は阿部寛だよなあ」と思っていたので、キャスティングが発表されたときは当然すぎて拍子抜けしたものだ。身長の記述さえなければ、及川光博でもいいと思ったのだが。ちなみに、阿部寛の才能を日本で一番早く見抜いたのは、俺である。「はいからさんが通る」という映画の題名はもはや阿部寛のプロフィールからも抹消されているが、あの映画を観たとき、南野陽子のかわいさ、丹波哲郎の見事な演技を押しのけて、阿部の存在感は際だっていた。その後、つかこうへい先生が俺に遅れること5年ほどで彼の能力に目をつけ、「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」が生まれたのだ。阿部寛を発見したのは、俺とつか先生である。

榎木津びいきな自分としては、もっと活躍してもらいたかった(≒もっと馬鹿であってほしかった)ような気もするが、それは京極堂シリーズ外伝である「百器徒然袋」を読んでいるからで、京極堂シリーズ本編では、榎木津は何の役にも立っていない場合が多い。それに短い映画の中では、榎木津が前に出すぎるとバランスが崩れるのだろう。ぜひ、「百器徒然袋」を、阿部寛主演でテレビシリーズ化でもしてほしいものだ。

堤真一の京極堂、永瀬正敏の関口巽については意見が割れるところだろう。自分としては納得。堤は京極堂の人生の大半を占めると思われる不機嫌な表情をきっちりと作っていたし、永瀬はそこに漂う空気感のようなものが、関口にぴったりだった。

しかし拾い物は田中れいな、じゃなかった麗奈の中禅寺敦子だろう。京極堂シリーズ唯一のまともな人物(たぶん、京極堂の妻・千鶴子もたぶんヘンな人だと思うから)、敦子は、ただ1人明るく輝き、それによって読者を安心させるとともに、闇をより深く描き出すという機能を持っている。その機能を、田中は映画の中で存分に果たしてくれていた。

シリーズ化に期待

さて、かなり大金を注ぎ込んだこの映画、シリーズ化はされるのだろうか。ぜひしてもらいたいものだ。自分はキャストはこのままでもいいが、阿部寛以外は別の役者で見るのも悪くはない。そうなると、京極堂は誰だろう?自分が小説を読みながら想像していた人物は、実は京極夏彦本人だったりするわけだが・・・。

 

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「姑獲鳥の夏」ホームページ(音出ます。職場では注意)

http://www.ubume.net/

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コメント

コンバンワー♪阿部ちゃんを見出したのはヤボオさんだったのですね…!さすがです。私もシリーズ化されてほしいとは思います。堤真一がダメなら誰がいいんだと言われても、誰という具体的な役者が思い浮かばないのが悔しいところです。

投稿: popon-x | 2005年7月18日 (月) 22時20分

コメントありがとうございます。リンクまでしていただいて恐縮です。
「はいからさんが通る」は、南野陽子や阿部寛、丹波哲郎に野際陽子に柳沢慎吾と、役者がみなすばらしい演技をしていて、それにつられて田中健までいい芝居をしていました。確かその前の日に「帝都物語」を観たんでした。
帝都物語の加藤と「はいからさん」の少尉って同じ服装(軍服)だし、年代もほぼ同じなので、妙にオーバーラップしていた記憶があります。
その2つの記憶が、ひとつの作品に結びつくなんて、人間長生きはするものです。

投稿: ヤボオ | 2005年7月20日 (水) 01時55分

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