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2005年2月 6日 (日)

「特捜戦隊デカレンジャー」これにて一件コンプリート

2004年2月から1年にわたり放送された「特捜戦隊デカレンジャー」が終了した。

スーパー戦隊シリーズをほとんど欠かさず観たのは、1981年の「太陽戦隊サンバルカン」以来か。放送が日曜朝に移動した「星獣戦隊ギンガマン(98年)以降は、比較的よく観てはいるし、新感線の高田聖子が出演した「忍風戦隊ハリケンジャー」(02年)、ネーミングが圧倒的だった「爆竜戦隊アバレンジャー」(03年)とスマッシュヒットが続いていたこともあり、ほぼ習慣化はしていたが、録画してまで熱心に観たのは本当に久しぶりだ。

一般的にも、評判は上々のようだ。東京ドームシティのデカレンジャーショーも連日満員が続いている。この成功を支えたのは何なのだろう。

それは番組冒頭、古川登志夫が名調子で語るナレーションに集約されている。

「S. P. D. Special Police Dekaranger。燃えるハートでクールに戦う5人の刑事たち。彼らの任務は、地球に侵入した宇宙の犯罪者たちと闘い、人々の安全と平和を守ることである――」

この番組をこれほどの人気作品に仕立てたのは、文字通り東映スタッフの、特撮番組にかける熱い思いと緻密な計算によるものだった。

燃えるハート

とにかく今回の作品は、どの話も制作側の意気込みがヒリヒリするほど伝わってきた。

様々な名作映画や人気ドラマを下敷きにしたストーリーは東映のお家芸だが、デカレンジャーではその数が異様に多い。「羊達の沈黙」に「ファイト・クラブ」、「スピード」と縦横にトリビュートしてみせた。もっとも「スピード」はもともと東映の「新幹線大爆破」が下敷きになっているわけだけれど。ほかに「名探偵コナン」や「新選組!」「古畑任三郎」なんかも対象に。「コナン」のときにはコナン役の声優、高山みなみが出演するという力の入れようだ。それも安易なパクリやパロディーに終わらず、それらをきちんと消化して、毎回楽しい話を作り上げた。

荒唐無稽さも東映の得意分野の1つだが、今回は輪をかけて無茶苦茶だった。だいたいボスが犬である。というより犬のヌイグルミである。「電子戦隊デンジマン」(80年)のアイシーの例はあったが、あれは本物の犬で、吹き替えで声をつけていただけだ。今回は違う。どう見ても犬のヌイグルミが、冷静な判断力を備えつつ、親分肌で部下たちに慕われるボス役を見事に演じてみせる。ちゃんちゃらおかしいけど、そのセリフや声の演技があまりにも見事で、だんだん立派な人物に見えてくるから不思議だ。もはや人形浄瑠璃の域に達している。

そして次々起こるサプライズ。デスクワークの人だと思われていたボスは、いきなり「俺をなめるな!」と叫んで変身し、「デカマスター」になってしまう。デカレンジャーロボを上回る超巨大な敵が現れたかと思うと、デカレンジャーの基地である「デカベース」が、まるで「戦闘メカ ザブングル」(81年)のアイアン・ギアよろしく変形して超巨大ロボットに。あげくのはては石野真子まで変身するという悪ノリまであった。

いかに子供番組とはいえ、あまりにも突拍子のない展開だ。しかしそれらがちゃんと作品の中に収まっていたのは、やはり「刑事ドラマ」の世界観を移植し、それが全体の味を整える役割を果たしていたからだと思う。作品全体が、「刑事ドラマ」への壮大なトリビュートになっていたとも言える。

クールに闘う

今回は「電磁戦隊メガレンジャー」(97年)以来、久しぶりのヒロイン2人体制だ。通常、ヒロインが2人という場合はそのキャラクターを異なる設定にして、どちらかにかならずなびくようにする。今回もキャラクターは対称的だったが、実はキャラクターだけでなく、なびかせる対象も異なっていた。デカピンク(ウメコ)は、明らかに子供を意識したヒロインである。「ドラえもん」のしずかちゃん、「水戸黄門」の由美かおる並に入浴シーンが多かったが、あれに興奮するのはやっぱり子供だろう。それに対して、デカイエロー(ジャスミン)は完全にお父さん世代を狙った設定だ。公式HPの掲示板は、いつもジャスミン萌えの30代男性でにぎわっていた。ジャスミンのセリフに無意味に散りばめられる70年代~80年代の流行語は、2ちゃんねるで「ジャスミン語録」のスレが立つほど盛り上がった。もっともその中には「ダイナマイトどんどん」なんていう東映マニアックネタも含まれていた。

仮面ライダーが主婦層を引き込んだことに影響され、最近は戦隊シリーズもイケメン路線に向かいつつある。だが今回はそれに加え、お父さん層、ヲタ層も引き込むことを狙ったわけだ。その作戦は、ものの見事に当たったわけである。

仮面ライダーの影響といえば、ワンパターン展開からの脱却という傾向も近年の作品では感じられた。基本はワンパターンなのだけれど、そこにサイドストーリーを絡ませていく手法である。ハリケンジャーにおけるゴウライジャー、シュリケンジャーの存在や、アバレンジャーにおけるアスカとマホロのロマンスなどがそうだ。しかし、デカレンジャーではそれらは一切なし。放送開始当初は「後半はジャスミンの出生の秘密が明らかになる」とか「エージェント・アブレラは実はもと宇宙警察の刑事だった」とか、様々な憶測が飛んだが、結局最後まで、1回完結のワンパターンは崩れることがなかった。この原点回帰によって、構成が非常にシンプルになった。

構成をシンプルにしたのは、原点回帰だけではない。この作品では重要な新しい試みをしている。それはデカレンジャーの敵となる「悪の組織」が存在しなかったことだ。毎回登場する宇宙の犯罪者たちは、勝手に地球にやってきて悪さをしかける。その手助けをするのが、武器商人エージェント・アブレラ、という図式だ。アブレラは黒幕ではあるけれど、別に全てを仕切っているわけではない。これは大きなチャレンジともいえる。悪の組織内のいざこざを描いて興味を引きつける、ということができないからだ。

これらによって、「ひたすらデカレンジャーたちを描く」ことに徹した今回の作品。これは、多くのキャラクターを次々と登場させ、それらの重ね合わせで面白いドラマを作ろうとしている仮面ライダーシリーズとは対極的だ。差別化を狙っているのだろう。実に冷静に、全体の構成を計算している。

中途半端なエンターテイメントはデリート許可だ

面白いものを作ろうとする情熱と、緻密に計算した構成という、エンターテイメントの基本をしっかりとおさえたことが、今回の作品の成功の最大の要因だ。ひるがえって、その基本のどちらか、あるいは両方とも無視した作品が、日本のエンターテインメントコンテンツ界になんとあふれていることか。それを是正するためには、それを楽しむわれわれが、本当の面白いものを見分ける目を持つことにつきる。宇宙最高裁判所に頼るわけにはいかない。そのために、これからもこのページではさまざまなジャンルのエンターテイメントを独断でジャッジメントしていきたいと思う。

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特捜戦隊デカレンジャー 公式ホームページ

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コメント

はじめまして。
随分前に描かれたものへのコメントで、ごめんなさい。
娘につきあって見始めたデカレンジャーにどっぷりはまって、終わってしまっていまだ喪失感から逃れられず。未練たらしく検索していて、ここに辿り着きました。
デカレンジャーの面白さを、まさにまさに!って感じに書いてくださっていて、感動しました。特にボスのこと・・・。私なんか、ほとんど恋をしていました、あのヌイグルミに。
なんか・・・ふっきれました。ありがとうございました(笑
劇団四季も私、好きなんです。過去ログまでたどって一気に読んでしまいました。
これからも更新を楽しみにしています。

投稿: のの | 2005年2月25日 (金) 17時04分

こんなばかなサイトをご覧いただいて恐縮です。
ドギー・クルーガーは60-70年代のキリヤマ隊長(ウルトラセブン)や80年代のランバ・ラル(ガンダム)、90年代の後藤隊長(パトレイバー)に続く、21世紀最初の「理想の上司No.1」キャラクターと言えるでしょうね。

投稿: ヤボオ | 2005年2月26日 (土) 02時06分

上の記事では「スマッシュヒットが続いていた」とありますが、一つ前のアバレンジャーは残念ながらスマッシュヒットと呼べるほどの作品ではなかったようです(どちらかといえば不人気な方に入る)。
だからこそ、デカレンジャーでは戦隊シリーズの人気挽回のために制作側も必死になって頑張ったのでしょうね。

投稿: 誉 明弘 | 2005年3月 1日 (火) 14時03分

そうだったんですか。
自分にとっては「爆竜戦隊アバレンジャー」というタイトルだけで、かなりのヒットでした。

投稿: ヤボオ | 2005年3月 2日 (水) 12時15分

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