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2005年2月25日 (金)

四季「オペラ座の怪人」
~A・L・ウェバーチャンピオンまつり その2~

 続いて「オペラ座の怪人」。ウェバーの曲もさることながら、ハロルド・プリンスの演出がさえわたる人気作品だ。初演は86年だから、もう20年近くたつというのに、そのスペクタクルな演出はいまだ色あせることがない。
 この作品の場合、世界各国、どのカンパニーが上演しても演出は同じだ。だからこそ役者の力量(分かる人が観れば、オーケストラの力量も)の差が前面に出てくる。
 四季の力量はどうか。ウエストエンドやブロードウェーに比べて大きく劣る、と評する人も多い。自分は東京で4回、名古屋で2回、福岡で2回、ロンドンで2回、ニューヨークで2回観た。その経験で判断すると、確かに劣ってはいるものの、さほど大きく差があるとは言えないと思う。十分合格点だ。

 今回の主役トリオは、ファントムに高井治、クリスティーヌに沼尾みゆき、ラウルに違いの分かる男(上質を知る男だったか?)、石丸幹二。高井治はこの数年ファントムのタイトルロールを務めており、評判も上々だ。自分は一昨年に福岡で観て以来2回目。最初に観たときは、あまりいい印象がなかった。歌は確かにうまいが、演技はいまいちで、ファントムの悲哀や作品全体に流れる官能的なムードを伝え切れていない、と感じた。だが今回は、だいぶパワーアップしていたように思う。「ジーザス・クライスト=スーパースター」で悪役・カヤパを演じたのが好影響をもたらしたのだろうか。何かぞっとさせる凄みを帯びたようだ。沼尾クリスは初見。これまで四季で観たクリスティーヌの中では
(野村玲子は観ていない)一番良かった。低音が少し不安定になる以外は、歌には全く問題がなかったし、演技もそつがない。美人だが、目もとに愛嬌があって、娘になったり女になったりして、意識せずに周りの馬鹿な男どもを惑わせるある意味タチの悪いクリスティーヌという役には適した顔だ。そして石丸幹二は、もはや劇団の顔としての風格を備えてきたが、世間知らずのおぼっちゃまというのは彼のアタリ役だ。のびのびと、楽しげに演じていた。
 そして素晴らしかったのが林和男演じるムッシュー・アンドレと青木朗演じるムッシュー・フィルマンのお笑いコンビ。作品全体のムードを重くさせないという使命を帯びた重要な役どころだ。2人の呼吸がぴったり合っていて、べテラン漫才師の芸を見たような思いだ。
 メグ・ジリーの声と足が太いとか、突っ込みたいところもいくつかはあったが、キャスト全体のバランスが非常に良かったことに好感を持った。高井治は、時々壊れたように狂った演技もするらしいが、基本的には抑えめのファントムだ。一方、石丸幹二は陽気に元気にイキイキと、少年倶楽部ののらくろのような、ラウルだ。ふつう、ラウルの印象はどうしても薄くなりがちだが、この組み合わせだと2人の重さがヤジロベエのように均衡を保つ。そのヤジロベエの支柱として、クリスティーヌの存在も引き立つ、というわけだ。

 今回の舞台には非常に満足したし、四季の力量は決して海外に劣っていないことは再認識した。

 しかし、である。力量が劣っていないとはいえ、そこから伝わってくる印象や後味はだいぶ違う。演じる人間によっても違うのだろうが、やはりそこには、決められた演出の中で少しでもオリジナリティを出そうとする、制作サイドの野心が見え隠れする。ロンドンのファントムは、紳士の国だからなのだろうか、どこか良く言えばダンディズム、分かりやすく言うとやせがまんをしていた。ニューヨークのファントムは、多分に幼児性を感じさせる面があり、このファントムが自分としては一番気に入っている。
 それで四季のファントムはどうなのか。いまこの役を演じているのは、高井治と村俊英。どちらも最高レベルの歌唱力だが、海外のファントムと決定的に違うのはハンサムでもないし長身でもない、ということだ。村がファントムに決まったときなど、ファンの間で相当物議をかもしたものだ。たしかに、一見ただのおやじである。
 こうした「おやじファントム」が四季のファントムである。観たことのない人はそれを聞くと「イヤだなあー」と思うかもしれない。しかし、これが実際に触れると意外にいい。中年の悲哀、ではなく、中年だからこそ出せる男の悲哀(なんてものが実在すればだけど)をにじませてくる。これはこれでひとつのスタイルだろう。

 おやじファントムを擁する日本の「オペラ座の怪人」は、“The Phantom of the Opera”に劣るものではないが、違うものであることは間違いない。日本初演から、この作品のキャッチコピーは「劇団四季のオペラ座の怪人は凄いらしい」だ。「怪人が」という格助詞ではなく、「怪人は」という副助詞になっているあたり、当初から違うものにしようという気持ちがあったのかもしれない。

 そろそろおやじでないファントムも観たい気もする。だがこのスタイルが定着したのは最近の話だ。これまで、当初は市村正親に沢木順、そして山口祐一郎、今井清隆と、さまざまな人が演じてきた。残念ながら市村ファントムは見逃した。決して歌はうまくないものの、最高のファントムと称する人も多い。沢木順のファントムは、何をするか分からない恐ろしさを感じさせる、それでいてセクシーで、悲哀に満ちたファントムだった。実は、ハロルド・プリンス本人が演技をつけたのはこの2人だけだったと言われている。彼らが、オリジナル制作者の意向を最も忠実にふまえたファントムだったのだろう。山口祐一郎のファントムも、嫌いな人は多いが自分は好きだった。長身でハンサムという、四季にあるまじき(?)ルックスと、傍若無人で尊大な態度は、マンハッタンの怪人が漂わせる幼児性を彷彿とさせていたからだ。そして今井清隆。赤坂でのロングランを任され、大いに期待されたが、当初の出来が今ひとつで、ロングランも盛り上がりに欠けて終わってしまった。だが、公演終了近くに観たときは、かなり理想的なファントムになっていた。最初からこの演技ができていれば、評価も違ったろうに、と残念でならない。いずれ退団、東宝への復帰は避けられなかったにせよ、あのロングランで名声を確立していたならその後の活動も変わっていたのではないか。

 最後にひとつ、これは絶対にロンドンやニューヨークにかなわない、という点がある。それは劇場だ。四季劇場「海」もなかなかいい空間だが、これがハー・マジェスティーシアターやマジェスティックシアターだと、劇場自体が歴史ある建造物なので、ひとたび足を踏み入れると、もうそこにオペラ座の怪人の世界ができあがっている。だから開幕前から観客は物語の中に引き込まれるのだ。こればかりは、どうにもこうにも仕方がない。

 追記。これを観たとき、ハプニングが2つあった。1つは怪人が地下にクリスティーヌを誘うとき、乗せる船がエンコしてしまったこと。1幕では気付かなかったが、2幕目では必死で船を押すスタッフが丸見えになってしまった。もう1つは、カーテンコールでのできごと。手をつないで観客にアピールしたあと、怪人のソデのボタンがクリスティーヌのドレスにひっかかってしまった。何食わぬ顔でボタンをはずし、「どうぞ」とクリスティーヌをはけさせる高井治の姿に観客爆笑。この人、コメディーもいけるんじゃないか。

200502250121000

オペラ座の怪人 ホームページ
http://www.shiki.gr.jp/applause/operaza/index.html

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