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2004年12月19日 (日)

劇団四季「キャッツ」(ばれまくりです)

「キャッツ」8年ぶりの東京公演。自分は東京クローズのあと97年に札幌、98年にロンドン、2000年に名古屋で見ているので、4年ぶりだ。

キャッツの日本での人気は異常なほどだ。今回の公演は瞬く間に4月までのチケットがほぼ売り切れ、開幕前に来年11月までの延長が決まった。ロンドン、ニューヨークでもすでにクローズしているというのに、わが国では一都市での公演ではないという違いこそあれ、いまだに元気に猫たちが飛び回っている。ロンドンの劇場の入り口には「CATS Now and Forever」という大上段のコピーがかかげられていたが、それは日本で現実となっている。

しかし、キャッツはクセのある作品だ。もともと猫好きだったT・S・エリオットがしたためた何編かの詩集を原作にしたこのミュージカルには、決まったストーリーもなく、テーマらしきものもない。

三谷幸喜「オケピ!」にこんなくだりがある。

わがままな舞台女優が、ストーリーに直接関係しない歌をカットしようとする。それを聞いたサックス奏者(初演は白井晃=清河八郎、再演は相島一之=新見錦)が叫ぶ。「そんなことを言ったらキャッツはどうなる。『メモリー』しか残らないじゃないか!」。毎回拍手喝采のシーンだ。キャッツの嫌いな人も、恐らくキャッツが大好きな人も手をたたいて喜ぶ。なぜならこのセリフはキャッツという作品を正確に表現しているから。日本で一番人気のあるミュージカルといえばキャッツだが、一番不人気なのもキャッツだ。そしてその理由は、たぶん同じものである。

これを世に送り出したのは、不世出のミュージカル作家アンドリュー・ロイド・ウェーバーと当代随一のミュージカルプロデューサーであるキャメロン・マッキントッシュというまさしく黄金コンビだが、2人はこの作品の開幕当日、確実にコケると思ってどこかの酒場に雲隠れしていたそうだ。作った人達でさえ、ヘンな作品であることを自覚していたわけである。

しかしそのヘンなミュージカルは世界的なヒットとなり、ロンドンをミュージカルの本場に置き換えてしまう。さらに極東の島国で他の作品を圧倒するケタ違いの人気を呼ぶのだから、本当にエンターテインメントの世界は分からないものだ。

自分はというと、もちろん大好きな作品のひとつだが、「キャッツ」「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」「美女と野獣」はほぼ横一線に並んでいる。だから一番好きなミュージカルは、と聞かれたときは「夢から醒めた夢」と答えることにしている。何がなんでもキャッツ、というわけではないので、冷静にこの作品を見つめてみようと思ったのだが、あまり冷静な目で観ることができなかったことを最初にお詫びしておく。ってまだ前置きだったのかよ。

キャッツ・シアター2004は大傑作

冷静さを失わせたのは、このキャッツ・シアターだ。今まですべてのキャッツ・シアターに入ったわけではないが、確実に最高傑作だろう。客席と舞台の一体感が半端じゃない。単に近いというだけでなく、完全に同化している。2階席も舞台にぐっと寄ったつくりになっていて(2階席と舞台の距離は「自由劇場」をしのぐ)、1200というキャパシティーを感じさせないほど“狭い”。キャッツ・シアターといえば、ゴミ置き場という舞台設定を劇場空間全体に広げるための、あちこちに設置されたゴミのオブジェだが、今回は劇場の中にゴミが飾られている、という感じではない。むしろ、ゴミ置き場の中に舞台と客席がある。劇場に足を踏み入れた瞬間からキャッツの物語は始まる、というのはいつも言われることだけれど、今回はその究極を味わうことになる。

あまり無理をしすぎたために、1階B席の一部は舞台が一部見えにくくなる、といった計算違いも起きた(劇団からのお知らせ)。その席の購入者には全額返金か代替席の用意という対応をしているが、これは「どんな安い席の客でも大事にする」という姿勢をアピールすることになり、結果的に四季のCSとブランドイメージを向上させることにつながっている。全く、転んでもタダでは起きないのが劇団四季だ。

日本の猫は女の子がキレイ

ロンドンでは2度、ニューヨークでは1度観た。海外と日本のキャッツを見比べた場合、もっとも異なるのは「日本の猫はキレイ」ということだ。特に女の子の猫が、えらくかわいい。これは明らかに浅利慶太の趣味である。

ロンドンの猫たちは荒々しい印象があり、まさに野良猫という風貌だ。全体で見せるダンスも、日本ほど整然としておらず、それぞれの個性が感じられるものになっていた。その点日本の猫たちはみんなさっぱりと小ぎれいで、とてもお行儀がいい。これは好みの分かれるところかもしれないが、日本のファンにはこちらのほうがフィットしたのだろう。
ニューヨークの猫は、ロンドンと日本のちょうど中間、といったところ。

キャッの時代までは、作品が輸出されるとき、演出は各国に任されていた。だからこういう違いも楽しむことができるわけだが、オペラ座の怪人ぐらいから、演出もパッケージに含まれる形でライセンスされるようになってしまったため、この楽しみがなくなってしまった。本場と同じ演出で観られる、というのはそれはそれで嬉しいのだが、亜流が発生しないというのもちょっと寂しい気はする。南斗水鳥拳のような優れた分派が出てこないからだ。

ちなみに、8年前の東京公演とは、演出や衣装が一部変わっている。これは、98年の福岡公演のときに変更したものだ。演出面の変更は主に振り付けの部分で、より動きが激しくなった。もっともダンスに造詣の深くない自分は実はどこがどう変わったのかよくわかっていない。言われてみれば、確かにシャープさが増したような気がする、といったところだ。

衣装が大きく変わったのはラム・タム・タガーとタントミール。どちらも、ロンドンの衣装に近いものになった。キャッツ一番のおいしい役、ツッパリ猫のタガーはゴージャスな白の衣装から、不良っぽい黒い衣装に。結構あのハデな白さは効果的だったので、どうしてオリジナルの黒に戻してしまったのか疑問だが、ウェーバー陣営からのチェックが入ったのかもしれない。タントミールはソロナンバーもないのでどんな猫だったのか思い出せない人も多いと思うが、茶色の全身タイツのような衣装になった。これが実に目立つ。目立つだけではなく、ちょっとギャグに見えるので(モジモジくんを思い出す)、これも浅利慶太の趣味で昔は出さなかったのだろう。

荒川務 in ラム・タム・タガー

12月17日のテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で、「シゴト解体新書」のコーナーに荒川務が登場していた。
40歳を越え、俳優歴24年となるベテランが、この日当たり役であるラム・タム・タガーを演じた。この役、かつては若き日の山口祐一郎や川崎真世も演じた、どちらかというホープ向けの役のような気もするが、自分が観た前の週は芝清道も久しぶりにタガーを演じており、今回の公演はまずベテランで固めているようだ。いずれ若い俳優にも演じさせていくのだろう。

荒川務といえば、城みちるとかあいざき進也といった70年代アイドルを思い起こさせる声とルックスの持ち主だが、それもそのはず、74年にレコード大賞で新人賞を受賞している、正真正銘の70年代アイドルだ。しかしいまひとつ目が出なかったためにミュージカルに転向。四季のオーディションに落ちたあと、ニューヨークで5年間修行し、ふたたび四季のオーディションに臨んで合格した。しかし、そうした苦労を経ても、アイドルのオーラを失っていないところが、この人の魅力だろう。それがタガー役には実にはまる。50になっても60になっても、ぜひこの役を演じてほしい。

村俊英は男の中の男だ

キャッツの中で自分が一番好きなのは、実はアスパラガス=グロールタイガーのくだりである。これは、多くの、特に女性のキャッツファンからは「?」と思われるかもしれない。しかし、男性のミュージカル好きにはそういう人も多いのではないかと密かに感じている。

かつて舞台俳優として鳴らし、今はその思い出話を繰り返す毎日という設定の老猫であるアスパラガス(ガス)。その思い出話から、かつて主演した「グロールタイガー~海賊猫の最後」の劇中劇へつながるこのくだりは、異色つづきのキャッツの中でも、ひときわ変わったシーンだ。この場面には、男の悲哀が充ち満ちている。ガスの話を聞いていると、さも人気者だったように思えるが、女猫のジェリーロラムとの掛け合いを聞いていると、どうもそんなにぱっとした俳優ではなかったことがうかがえてくる。これはCDにも入っている保坂知寿の歌い方だとよりはっきりするのだが、「俺は大スター……とも共演した」と歌われており、基本的には脇役だったことがわかる。恐らく、主演したのはこの「グロールタイガ」1本だけなのだろう。それも、あまり格好いい役とはいいがたい。しかし、ガスはその1本に対する誇りが、一生の支えになっている。

劇中劇の中、ガスは悪女グリドルボーンに騙され、非業の死を遂げる。これはガスの役者人生そのものなのかもしれない。華やかさにあこがれ、ちょっとだけいい思いもし、でもあっさりと見捨てられ…。しかしそれも人生、とすべてを受け入れて、ガスは生きてきた。その哀愁を感じさせられるかどうかが、この役の見せ所である。それを感じさせられなかったら、ただの年寄りの自慢話、というシーンになってしまう難役だ。

今回、これを演じたのは村俊英。世界でも例のない「おやじファントム」で観客を魅了し、ことしは「ジーザス・クライスト=スーパースター」のピラト役も印象的だった、実力派である。彼のガスは初めて観たが、その存在感は抜群だった。軽薄な自慢話を口にしつつ、その生き抜いてきた人生の重みを漂わせる、見事な演技。男が男をシビレさせる、任侠映画にも似たカタルシスを感じた。劇中劇に入る前、ガスは「今の芝居は面白みがない」などと、よくある若者批判をひとくさり語るが、劇中劇を終え、満足したガスは「今の芝居もいいけれど…」と歌う。すべてを受け入れ、すべてを許し、その中でほんの小さなプライドを守りながら、やがて訪れる人生の終焉をむかえる。いや、ガスにとっては終演か。そう思ったとき、本当に久しぶりに、ちょっとだけ涙が浮かんだ。

クセになる、キャッツ

ひとつひとつの役をすべて語っていると、ますます長くなるので今回はこのぐらいにしておこう。

キャッツにはテーマらしきものがない、と冒頭述べたが、あえて言うなら、ラストナンバーである「猫からのごあいさつ」にそれを感じさせる一言がある。「おお、キャッツ」。これがテーマといえばテーマだ。猫を見て、感じたこと。それがこの作品のすべてである。テーマが単純なほど、エンターテインメント性は極大化する。しかしテーマがゼロでも、エンターテインメントとしても崩壊する。このバランスが難しい。そういう意味では、キャッツはエンターテインメントのキングになれる要素が十分にあるわけだが、それがヒット作になるかどうかは誰も予想できないのだから、勇気を持ってこれを世に出してくれたウェーバーとマッキントッシュには改めて敬意を表したい。

「オペラ座の怪人」は、1~2年に一度、むしょうに観たくなるのだが、キャッツは、観たらすぐまた観たくなる。常習性が強いのだ。とりあえず、「コーラスライン」に「美女と野獣」にと大忙しの木村花代がキャッツに参戦したら、前日予約でまた行くことになるだろう。木村のジェリーロラム=グリドルボーンをぜひ観たいのである。そのときには、これを越える長大なレビューをここに掲載することになるだろう。もっともその前に木村のベルに会いに、京都に行かなきゃな。

「キャッツ」劇団四季の公式サイト
http://www.shiki.gr.jp/applause/cats/index.html

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コメント

ヤボオさん、私も「グロールタイガー」のくだりが大好きなんですー!よぼよぼの老猫が過去を振り返り、華麗な劇中劇で楽しませてくれたあとの、あの静かな何ともいえない哀愁を漂わせながら終わっていく様がね、泣けるんですよね…。曲も美しいですし。グリドルボーンとのオペラ風に歌い上げるラブソングのデュエットなんか身震いするほど大好きです。私もCATSは4回観ました。今回こそ四季版CATSを観なくちゃ!どの猫も大好きですが、立派な名前があるのに「ガス」って略されちゃうアスパラガスの他に、おちゃめなラム・タム・タガーと、スマートなミスター・ミストフォリーズも好きです。うー、観たくなってきたー!

NYで観たCATSの一番の思い出は、ミスター・ミストフォリーズが客席に降りてきたと思ったら近寄ってきて、私の足に体をスリスリしてくれたことです(笑)本当に猫に体をこすりつけられたみたいな感じがして、ものすごくびっくりしました。その次に観た時はラム・タム・タガーが横で毛づくろいしてました(笑)もう10年も前の話です。

投稿: ぽぽん | 2004年12月20日 (月) 15時39分

ナイスなコメントありがとうございます。前の演出で、アスパラガスの自慢話をしているとき、周りで猫たちがあくびをしたり爪をとぎはじめたりするのがまた愉快だったんですが、今回はガスの演技に引きつけられてそのあたりをチェックしそびれてしまいました。

キャッツにオペラ座の怪人にエビータにと、四季&ウェーバーの策略にまんまとはまる年明けになりそうです。

投稿: ヤボオ | 2004年12月21日 (火) 01時27分

お久しぶりです。

私もガス~グロールタイガーのあたりはすごく好きです。というか、聞いてるといつも涙ぐんでます。
2幕はスキンブル-マキャビティ-ミストフェリーズあたり以外はずっと涙ざばざばだったりします。
CD聞いててもじわっときちゃうので、電車の中で聞いてるときはちょっと困ったりも。

投稿: ほしよ | 2004年12月28日 (火) 19時05分

やや!キャッツを極めているほしよ先生もあのシーン好きということは、意外と少数派ではなかったのでしょうか?

アスパラガスが余韻を残しながらフェードアウトすると、スキンブルシャンクスのはつらつとしたシーンに切り替わるあたりも、結構ブルブル来るところです。

うーむ、また観たくなってきました!

投稿: ヤボオ | 2004年12月29日 (水) 00時20分

あう。
えーと……たかだか両手に余る回数くらいしか見てない私が「極めている」なんておこがましくて困ってしまったりするのですが(^^;

ところで、今週はヤボオさんお待ちかねの木村さんジェリロですね。
私としては真鍋さんのランペルティーザも見たい。
S1席の前予売りもあることですし、行くしかないかな?

投稿: ほしよ | 2005年2月 2日 (水) 11時59分

そうなんすよ、もうキャスト表出てから頭の中はソノクイ状態で。
何とか体を治して参戦したいですが、前予の競争も熾烈になりそう。
先月のコーラスラインのときも、前予エリアにはご同輩と思われる人達がちらほらと・・

投稿: ヤボオ | 2005年2月 3日 (木) 01時55分

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