劇団四季「南十字星」(少しばれます)
最近、舞台を観る頻度が低下しているため、四季の話が続いてしまって自分にすまない気持ちだ。
さて、「李香蘭」「異国の丘」に続く戦争を題材にしたミュージカル「南十字星」が四季劇場・秋でスタートした。
インドネシアを舞台に、B・C級戦犯という、あまり物語の主軸として語られることの少ない題材に挑んでいる。
雑誌によると、浅利慶太芸術総監督は、発表記者会見で「前の2作は、笑いや楽しさの要素に欠けていたのが反省点。テーマは重いが楽しんで観られる作品にしたい」と語っていたそうだ。
その点について言えば、残念ながら実現できてはいなかった。インドネシアの祭りのシーンなど、意欲的な取り組みは確かにあったが、楽しさを感じさせるシーンはきわめて少ない。
また、今回はインドネシアの音楽、ガムランやケチャなどを取り入れる、という話もあった。ガムランは効果的に使われていたものの、ケチャはカーテンコールに登場するのみだ。カーテンコールに出すぐらいだから、本当は本編に使いたかったのだろう。
これらは、製作期間の短さに原因があったのではないか。3か月ほど前の製作発表の段階では、まだ脚本やスコアも固まっていなかったというし、四季の会会報の最新号(8月末発行)には、「上演時間:未定」とある。何より、文字しか書いていないポスターが、相当切羽詰った雰囲気を物語っている。
全体的に説明的な部分が多いのも、やはり突貫工事の影響だろう。歌のナンバーは数えるほどで、三木たかしの奏でる旋律が席を立ってもしばらく耳に残るということもなかった。
この作品は、主人公が若者たちである。そうであれば、やはり若い人々に共感を持ってもらえるように制作するべきだろう。ならば盛り込むエピソードを絞り込んでも、エンターテインメント性を強調すべきではないか。それに舞台が南国・インドネシアだ。思い切った明るい演出にしてもいいかもしれない。そうしたことをしても、この作品が語るテーマは簡単にゆらぐものではないはずだ。極限状態においても、信念とプライドを捨てずに生き、そして死んでいくという生き様、死に様の尊さ、それがテーマだと自分は感じた。ミュージカルでそういったテーマを表現するのはなかなか難しいし、成功例は少ない。だからこそ、この作品には頑張ってほしい。ラストシーンはつかこうへいの「銀ちゃんが逝く」や「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」を思い起こさせる優れたものだったし、さらに練った上での再演を望みたい。
そういえば、現在帝劇では「ミス・サイゴン」が上演されている。ぶつけたわけではないだろうが(いや、ぶつけたのか?)、舞台にヘリコプター飛ばすとか、あのぐらいのエンターテインメント性があってもいい。
ミス・サイゴンの話が出たところでついでに言うと、アジアの人々の描き方が実に対象的だ。「守るべき、小さな人」として描くミス・サイゴンに比べ、この「南十字星」で描かれるインドネシアの人々は、誇り高く、不屈の闘志を持った力強い国民として描かれている。
消化不良ではあるが、重いテーマ、起伏に欠けるストーリー、台詞中心でありながら意外に眠くならずに観られたのは、役者のがんばりだろう。阿久津陽一郎、樋口麻美のホープ2人は、誇りを持って生きる日本人、インドネシア人をそれぞれ凛とした演技でこなしていた。目を引いたのは、オランダにも日本にも屈しない勇猛なインドネシアの青年を演じた藤川和彦という俳優。恐らく初見だ。背が低いのが印象的で、ぱっと見、水道橋博士のように見えるのだが、本当に水道橋博士のように芸達者ぶりを披露している。94年に東大を出て研究所に入ったらしいが、今後注目だ。
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コメント
この記事を読んで、「南十字星」が少しみてみたくなりました。それまでは全然興味なかったんですが、うーん、そそられましたよ!劇団四季のオリジナルミュージカルは、子供向けの「夢から~」はすごく好きなんですが、大人向けのは手堅すぎて・・・なんというか、吸引力に欠けるなと思っていたのです。でも今回はちょっと冒険してるんですよね?少しでも今までと違う方向性が観られるなら、行って損はないかな、、と思ってます
投稿: はにわ | 2004年9月19日 (日) 14時10分
冒険しようという意図は読み取れるし、かなりの冒険をできる作品だと思います。ただ、今回の上演に関していえば、結果的には相当保守的なものになってしまっている気もします。
「自分だったらこういう演出をする」とか、そういう話で盛り上がるにはいいかもしれません。
投稿: ヤボオ | 2004年9月19日 (日) 20時39分