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2004年9月 6日 (月)

劇団四季「ジーザス・クライスト=スーパースター」(ジャポネスク・バージョン)

7月の「エルサレム・バージョン」に続いて、ジャポネスク・バージョン演出での公演。この作品と、両演出の関係については前回記事に譲る。

さて、このバージョンを観たのは四季劇場のこけら落としシリーズ以来だから、もう6年ぶりだ。その前に観たのは1987年の全国公演で、これが自分をミュージカルなんていうヘンなものに巻き込むひとつのきっかけになっている。

歌舞伎メイクと大八車だけのセットを用い、ロックのリズムでキリスト最後の7日間を語る。70年代前半の日本にはいささかアバンギャルドすぎたかもしれないが、今観ても、やっぱり妙な舞台ではある。

久しぶりに観て、ひとつ気付いたことがある。「エルサレム-」だと、主役がジーザスという印象だが、「ジャポネスク-」だと主役はユダ、というイメージになるということだ。もちろんセリフなどは変わらないので、あくまで感覚的に、ということである。

87年になんの予備知識もなく観たときは、この物語の主人公はユダだと信じて疑わなかった。数年後、「エルサレム-」を観て、実はジーザスが主役だったのか、と思った記憶がある。98年の春に、20年ぶりにロンドンでこの作品が上演されるというので1泊3日で遠征して観た舞台は、極めてオーソドックスな演出で、主役はジーザスだった。最近、FOXが映像化したものでも主役はやはりジーザスである。しかし、73年公開の映画版は、どちらかというとユダが主役である。その演出は、アメリカの若者たちが砂漠にやってきてキリストの劇を演じるという、少し変わった劇中劇だった。

どうも、オーソドックスな演出をするほど主役はジーザスに感じられ、ややエキセントリックな演出になるほどユダが前に出る、という法則があるようだ。おそらく、この作品で描かれているユダは、演出家の創作意欲を大いに刺激するのだろう。

この「ジャポネスク-」で最も気に入っているシーンは、ユダが決意と躊躇を抱えてカヤパの屋敷に向かうシーンだ。大八車を組み合わせて作った曲がりくねった道を、一歩一歩、静かに歩みを進めるユダ。無言だが、雄弁にその心情を語りかけてくる。そして、このバージョンでは音楽にも少し和楽器が用いられるのだが、ここで琵琶(だと思う)の音色が実に効果的に使われている。なんだか溝口健二監督の「雨月物語」を観ているような、怖くて悲しいシーンである。

さて、今回も、前回紹介した「豪華悪役三人衆」(カヤパ=高井治、ピラト=村俊英、ヘロデ=下村尊則)はノリノリだった。ノリすぎて、すっかりユダ、ジーザスを圧倒してしまった。今回の公演に関する限り、主役はこの3人である。

ピラトは、ほとんど前回の印象と変わらない。あいかわらず村は押さえた歌声の中に多くの表現を込め、さすがという感じである。

「スルース」を終えて再参戦した下村ヘロデ。「ジャポネスク-」のヘロデが、そしてそれを下村が演じるということが、いかにすさまじいものであるかは、覇王柴さんが臨場感ある解説をされているので、ぜひご一読いただきたい。ほんとうに、この人以外誰がこの役を演じられるというのだろう。心なしか今回は「バトン回し」が地味だったような気もするが。

問題は、高井のカヤパである。出てきた瞬間、唖然とした。

このカヤパは、恐すぎる。

どんな感じかというと、分かりやすい例でいえば、「アストロ球団」の氏家慎次郎に似ている。これはちょっと考え物だ。だってピラトというのは、常にピラトやヘロデに責任を押しつけようとする、どちらかというと黒幕タイプの人間だ。ところがこの高井カヤパは、どう見ても先頭に立って、人をずばずば斬りたがるような殺人鬼型にしか見えん。

前回、俺がここでそのキャスティングと演技を高く評価したせいで、ちょっと悪のり、いや、暴走してしまったのか。

しかし、ますます高井治が好きになってしまった。去年ファントムを観たときには、評価最悪だったのになあ。

帰りに、会員特典でペンダントをもらった。

tokuten

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コメント

73年公開の映画版って、私は未見なのですが、砂漠生活する若者がでキリスト劇・・ってなんだかチャールズ・マンソンみたいですね。そういう感じなんですか?今回のジャポネスク版の大八車隊の中に、もとジャニーズ出身のダンサー(現・研究生)がおり、その彼の追っかけをしている私のオタ友が、本編そっちのけで大八車をウオッチしていたため、ヘロデ王の役割がまったくわからなかったそうです。でもジャポネスクバージョンは、ちゃんと観ていても、インパクトが強すぎて「・・・で、ヘロデって何のために出てきたの?」という風になりますよね。

投稿: はにわ | 2004年9月 6日 (月) 21時28分

まあ、やっぱりこの作品の一番の楽しみはヘロデなわけで。
エルサレムのほうも、ヘロデだけはもうちっとキテレツな感じにしてくれればいいのに、と思っております。

投稿: ヤボオ | 2004年9月 7日 (火) 00時24分

初めまして、覇王ですm(__)m
TBと記事引用ありがとうございます〜。
青カミナリ様みたいなヘロデ王はホントに面白かったです(笑)

このミュージカルの主人公がイエスかユダか、という線引きをするのは難しいですよね。感情移入しやすいのはユダですが、神の意志を理解出来なくても運命として受け入れるイエスの苦悩には凄く惹かれるものがありますし。でも、私もジャポネはユダに主役性を強く感じました。地に着いたカンジの人間性にもの凄く存在感があったように思います。演出ひとつで見方が変わるというのも、凄く面白かった作品でしたv

投稿: 覇王柴 | 2004年9月10日 (金) 22時57分

覇王さん、ようこそヤボオの王国へ。
今回ユダを演じた吉原光夫氏はこれからの役者だと思いますが、ジーザス役とユダ役の実力が拮抗していると、より演出の違いがくっきりと浮かび上がります。

ユダ=沢木順、ジーザス=山口祐一郎で、両方の演出を観ましたが、主役がきれいに入れ替わるので面白かったです。

投稿: ヤボオ | 2004年9月11日 (土) 11時56分

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» ジーザス・クライスト=スーパースター ジャポネスク・バージョン/劇団四季 [◆覇王の書斎◆]
【2004/8/21 13:30開演(昼の部)配役】 ジーザス・クライスト:柳瀬大輔 イスカリオテのユダ:吉原光夫 マグダラのマリア:金 志賢 カヤ... [続きを読む]

受信: 2004年9月 6日 (月) 08時20分

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