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2004年8月22日 (日)

「新選組!」山南さんが逝く

総長・山南敬助が切腹して舞台を去った。芹沢鴨暗殺以来の、大きな山場である。

この堺雅人が演じた山南の存在感は、極めて大きかった。山本耕史演じる土方歳三とともに新選組を、そしてドラマを支えてきたのがこの両雄である。

特に見せ場があるわけでもなく、おいしい役どころではない。どちらかというと地味な役だ。しかし彼が登場するだけで、場の雰囲気が和むと同時に引き締まる。実に不思議な魅力で、目が離せなかった。

山南は、静かな男である。しかし、その穏やかさの陰に、熱い闘志と剛胆さを秘めている。それを見事に演じぬいた、俳優・堺雅人も、カン高い声に半分にやけたまま固まった顔という飄々とした風貌の陰に、これだけの実力を隠していたわけだ。

役者の実力を見抜く能力については、つかこうへい先生に次いで日本じゃあ2番目だと思っている自分も、それは見抜くことができなかった。脱帽である。

この魅力的な登場人物には、さぞや多くの視聴者から助命嘆願もあったことだろう。しかしいくら三谷幸喜とはいえ、さすがにそこまで史実をひん曲げるわけにはいかない。

たが、正直な気持ちを言えば、ひん曲げてでももっとこのキャラクターを見ていたかった。どうせちょっと脚色しても「史実と違う」「考証がいいかげん」とかぶつぶつ言われるのだ。いっそ大いにねじ曲げて、山南は隊を離れず、沖田の病気も直り、近藤勇は戊申戦争で大勝利を収めて、土方は北海道に王国を作る、というようなパラレルワールドの話にしてもいいじゃないか。どんな手を使っても生かしたかった。この気持ちは、近藤や土方が何とか山南を落ち延びさせようとしたり、永倉新八や原田左之助が非常手段で逃がそうとしたりしたのと、同じ気持ちだと思う。

だが、最初から山南はこういう運命をたどるものとして、描かれ、演じられてきた。今さら、どうしようもないのである。ここで妙なマネをすると、ここまでの複線がパアになる。京に上る最中、宿割りでもめた浪士と一色即発になり、一歩も引かなかったあの表情。あれこそ、山南の生き様を象徴していた。そういえば、あの場を収め、山南を救ったのは土方だった。

さらに遡れば、第一回の放送。この冒頭の不逞浪士取り締まりのシーンは、実際のストーリーと直接関係はしないが、全体の人物関係を凝縮して描くという、三谷おとくいの「予告編」的手法で作られた場面だ。軍議に少し遅れて駆けつけた山南がこのドラマで最初に言ったセリフ、それは「申し訳ない、道を一本間違えました」だった。

そう、山南は一本だけ、近藤や土方と違う道を行ってしまったのだ。

両雄は、常に並び立たないのか。田中芳樹の「銀河英雄伝説」でも、主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムを支え続けた帝国軍の双璧にして親友、ウォルフガング・ミッターマイヤーとオスカー・フォン・ロイエンタールは物語終盤で激突している。あれもつい「何とかならないのか」と言いたくなる悲しい宿命だった。

この「新選組!」は、毎回、あまり時間の経過を省略せず、なるべく1日に起こった出来事を丁寧に描くという手法をとっている。今回も、切腹までの山南の1日を、丹念に追っていた。

自害するまでの数時間を、ここまでじっくりと映し出すというのは、映画でもドラマでもあまり記憶がない。しかしそれによって、この人物を最後に余すことなく、表現することに成功していた。部下たちに、こと細かに今後の指示を与え、好意で出された膳を「腹を切ったときに見苦しいから」と断りつつも、目で楽しもうとその気持ちを受け入れる。しかし決して楽ではない新選組の台所事情を慮ってか、はたまた死後の供えにしてもらおうとしたのか、握り飯だけは返却を申し出る。と、思ったら、これは井上源三郎が逃げたときの食料として用意したものだった(たるみ姉さんに指摘されて初めて気付いた)。何回か登場した「障子を閉める」動作は、決して心根を人に見られまいとする性分を表現したものだろうか?もっとも、その本心は恋人・明里にあっさり見抜かれてしまうが。女は強い。とにかく、山南という男を徹底して描いた回だった。助命嘆願を受け入れられなかったファンも、本望だろう。

ミッターマイヤーに破れたロイエンタールは、死の淵に立ってなお、冷静な自制心を失わなかった。ゆえにこう証言されている。

「ロイエンタール元帥は、死の瞬間に至るまで、ロイエンタール元帥以外の何者でもなかった」。

山南総長もまた、死の瞬間に至るまで、山南総長以外の何者でもなかった。

山南を失い、初めて声を上げて泣く鬼の副長・土方の姿に、激しく心を動かされない者はいないだろう。結局、おいしいところを持って行くのはこの男か、とちょっとだけやっかみつつ・・・

さて、今後のドラマの展開にも期待したいが、堺雅人の活躍も大いに楽しみだ。ぜひ舞台でも観たいが、じつはひとつ、ぜひ演じて欲しい役がある。それは「ドカベン」実写版のリメイクにおける、微笑三太郎役である。いつも笑っているように見える人間なんて、この世に存在しないと思っていたけど、実在した。「スーパースターズ編」なら、実年齢のまま行けるじゃないか。どうですか?水島先生。

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コメント

さすがです。あの第1話目の台詞はそんなにも深かったんだ…。
ヤボオさん、ソンケーします(たまに)。

投稿: たるみ | 2004年8月22日 (日) 23時27分

「たまに」ですか・・・もうちょっと尊敬していただいてもよろしいような気がするんですが。

投稿: ヤボオ | 2004年8月23日 (月) 00時02分

初めましてー。たるみさんのところから飛んできました。じつは大河も銀河英雄伝説の双璧が大好きなので、新撰組の両雄を双璧になぞられているのが大変興味深く思いました。私もロイエンタールがロイエンタールでしかいられなかったように山南先生も山南先生でしかいられなかったように思います。それにしても辛い、むごいエピソードでした。また来ます~。m(_ _)m

投稿: popon-x | 2004年8月23日 (月) 00時20分

こんな腐れページでよろしければ、どうぞまたおいでください。

投稿: ヤボオ | 2004年8月23日 (月) 02時54分

わたしも堺氏はすばらしい俳優だと思います。もしよろしかったら三島由紀夫の「憂国」をお読みください。重なるわけではないものの、昔の日本人が自ら死を選ぶ時のたたずまいを今の軽佻浮薄な我々に伝えるという意味では通じるところがあるのではないかと思います。

投稿: きぬ | 2004年8月24日 (火) 00時06分

こんにちは。確かに「憂国」の切腹場面は他に例を見ないほどリアルな表現です。あえて客観的、淡々とした描写に徹したことで、かえってその覚悟や思いが力強く伝わってくる、名作だと思います。

投稿: ヤボオ | 2004年8月24日 (火) 01時38分

はじめまして。ご挨拶大変遅れまして恐縮ですが
新選組!をキーワードにブログを検索していたら
盛りだくさんの素敵なページでしたのでTBさせていただきました。
このネタ以外にもコツコツアップしてまして
リンクもフリーですのでよろしければ遊びにいらしていただけると嬉しいです。

(本館) http://dept0607.hp.infoseek.co.jp/">http://dept0607.hp.infoseek.co.jp/
(2階:ブログ) http://brown.ap.teacup.com/dept/">http://brown.ap.teacup.com/dept/

投稿: ★店長★ | 2005年1月10日 (月) 13時21分

ようこそいらっしゃいました。
自分は「エチオピア」では野菜+チキンのミックス、豆サラダをいつも注文しております。

投稿: ヤボオ | 2005年1月10日 (月) 16時39分

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